2023年4月21日(金)19:00
【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第47回 「江戸前エルフ」は癒やし、大事にしたいねぇ
(C) 樋口彰彦・講談社/「江戸前エルフ」製作委員会
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2023年4月クールはマンガ原作アニメが元気だ。まあ、「いつも元気だよ」って気がしなくもないが、印象値、印象値。野暮はいいっこなしですよ、お客さん。この連載はなるべく、ワタクシの独断と偏見で書こうと思ってるんです。きっちり何クール分かのテレビアニメの放送リストを作って、その中からマンガ原作アニメの本数を調べて、何らかのバロメータ(「作品公式Twitterアカウントのフォロワー数が放送開始後にどのくらい伸びて、何人になったか」とか)でもって「元気がある」と実証する……みたいなのは、数字を見るのが得意な人がやっとくれ。人間じゃなく、AIでも可。私はもっとふんわりとした、時代の空気を直観的に捉えたいのです……なんつってな。ただの手抜きを高尚なことのように言い訳してみる今日このごろ。いかがお過ごしですか。私は今年は妙に花粉症がひどくて、あまり元気ではありません。
で、だ。今回はそんな今期の数あるマンガ原作アニメの中から、「江戸前エルフ」の話をしたいんですよ。なんでか。これ、上質な美少女コメディだから。ほっこり日常ものだから。畢竟、派手な要素があんまりないから。エロス! バイオレンス! 超絶アクション! 全米が泣いた! ……みたいな感じじゃないから、である。
昨今はどうも、そういう濃いめの味付けがないとなかなか話題になりづらい。いうて私も、そういうケレン味たっぷりのアニメも大好きですよ。ええ。でも、そればっかりに目がいって、そうじゃないアニメが埋もれちまうのはよくねえですよ。「江戸前エルフ」みたいなアニメ、私は好き。1クールに1本くらいあってくれると、ものすごくうれしい。いや、ないと困る。癒やしですよ、癒やし。
舞台は東京・月島。メディアに登場するときには、もんじゃ焼きが名物ってんで出てくることが多い土地ですかね。下町情緒を感じるクラシックな雰囲気の商店街と、再開発で建った高層マンションが混在する、なかなかおもしろい雰囲気のところです。そこの神社に400年前からご神体として祀られている不老不死なエルフのエルダさん(見た目は高貴な美女だが、中身はオタク趣味ならなんでもござれ、ほっとくと一歩も外に出ないダメ大人)と、そのお世話役を務める高校生巫女でしっかり者の小金井小糸ちゃん。そんなふたりを中心に描かれる人間模様は、ただひたすらに温かい。そして時折、ほんのり切ない。
「異世界から召喚された不老不死のエルフが神社のご神体」なんて、文字面だけおいかければ、ぶっ飛んだ印象かもしれませんな。でもこれが、日々うつろい、変わりゆくものに対する哀感と、その中でも変わらずあり続けるものに対する慈しみ、いわゆる「わび・さび」的なものを描き出すための絶妙な仕掛けになっているんです。永遠の観測者なんですよ。
こうやって設定に大きな嘘をひとつ持ち込むことで、日本文化論といいますか、「東京」というスクラップ&ビルドを繰り返す都市に対する批評、いわゆる都市論的な目線を展開して見せているという意味では、実は「機動警察パトレイバー the Movie」と同じ構造を持っている作品なのです!
……すんません。まったくの嘘ではないけど、ちょっと盛りすぎたかも。ま、そんな与太めいた物言いはおいとくとして、この作品はとにかく、空気感を大事にしていることが、映像からうかがえるんですよね。月島という実在する街の空気。原作由来の背景美術の精緻さもさることながら、中央区のあのあたりならではの、潮風にさらされているからか、はたまた低地ならではの日差しの影響なのかわからない、独特な風合いが映像で表現されているのが実にいい。「3月のライオン」と並ぶ月島アニメだ。
街で暮らすキャラクターたちも丁寧に描き出され、実在感がある。そして出てくる食事が、どれも美味しそう。声も含めて、アニメらしい様式美的な、記号的な要素の魅力と、ナチュラルさのバランスが絶妙なんです。
作り手もおそらくそのバランスどりには、自覚的なのではないかしらん。根拠はエンディングです。通常のアニメーションとは違う、キャラクターの一枚絵をパーツ分割して擬似的に動かして(Vtuberだとかソシャゲの立ち絵に使われるLive2D的な手法ってやつ)、実写の背景の上に乗せているんすよね(ごく一部は3DCG)(※)。見ていると、アニメという表現の虚構性とリアリティの境が揺らぐよう。そんなエンディングでもって、今作の方法論を端的に見せているのではないかしらん……なんて、さすがに妄想が過ぎるかしら。ははは。
このオタク的な要素と穏やかな空気感の追求って、1980年代のぴえろ魔法少女ものだとか、佐藤順一監督の諸作品だとか、「ああっ女神さまっ」だとか、「ヨコハマ買い出し紀行」だとか、はたまた「きらら」系の萌え4コマアニメだとか、アニメの世界のメインストリームにはならずとも、根強く愛され続け、人の心を救いながら、連綿と続いてきたものの流れにあると思うわけですよ。大事にしたいじゃないですか。そんな作品の立ち位置が、作品の中で描かれているテーマとシンクロしているような感じがちょっとしちゃうってところも、なんだか粋な感じがするわけですよ。あー、たまんねえなあ。
ってな次第で、あれやこれやと書いてみましたが、今日はこのへんで。
※参考:https://twitter.com/mukai_jumpei/status/1646943480982413312
前Qの「いいアニメを見に行こう」
[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ) 1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。
作品情報
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江戸前エルフ(10) (マガジンエッジコミックス)
2024年09月09日¥759
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江戸前エルフ(1) (マガジンエッジ)
2019年11月15日¥715
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江戸前エルフ(5) (マガジンエッジ)
2021年11月17日¥759
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江戸前エルフ(8) (マガジンエッジKC)
2023年08月17日¥759
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