2023年7月28日（金）19:00

【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第49回　GoHandsの帰還「デキる猫は今日も憂鬱」

(C)山田ヒツジ・講談社／デキる猫は今日も憂鬱製作委員会

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暑いっすね。日によっては40度近い気温のなかで、君たちはどう生きるか……なんて話はさておき、そんな2023年7月クールのホットな話題といえば、GoHandsの帰還ですよ、奥さん。それも2作同時に。これを事件と呼ばずしてなんとする。

前作「プレイタの傷」が21年1月の1クール作品だったので、およそ2年と3カ月ぶり。コロナ禍での作業ペースなども考えればそれほど間隔が空いたとはいえない気もするけれど、体感としては長かった……。

その2作のテレビアニメ、「好きな子がめがねを忘れた」も「デキる猫は今日も憂鬱」も、いわゆるジャンルとしては「日常系アニメ」。GoHandsといえば、「K」シリーズに代表されるように、派手なアクションがみどころのバトルものに強い印象があったので、企画が発表されたときは少々意外な思いがしたものです。これまでにも「生徒会役員共」（原作もアニメも超好き）みたいな例外が、なかったわけではないものの。

さてどうなりますやら……と、放送に先行して公開されたPVを見たら、椅子から転げ落ちましたよ。「やべえ、GoHands印がくっきりと刻まれている」と。そして1話……PV用に特別に濃いカットばかりを抜いていたわけではなかった。全編その印象を裏切らない、濃密な映像が24分弱ぶっ続けで展開される。
　いわゆる「普通のアニメ化」を脳裏に思い描いていた原作ファンが、何も知らずに見たらどういう気持ちになったんだろうか。そんな人がもしいたら、ぜひ感想を聞いてみたいものです。

両作はスタッフもかなり重なっており、アニメとしての、映像としての特徴……繰り返し言葉を変えて述べている「GoHandsらしさ」のようなものは共通しています。3DCGをレイアウトと背景美術に駆使し、トリッキーな構図、極端なパース、奔放なカメラワークを実現。とにかく画面をなるべく平板にせず、世界も、キャラクターも、いきいきぐりぐりと動き続ける。仕上げと撮影も濃厚で、要所ではまばゆい光を用いて画面の情感を徹底的に盛り上げていく。何を言ってるのかよくわからないと思ったら、どちらの作品でもいいので、いますぐ配信サイトで1話を再生してみてほしい。開始10秒でおわかりいただけるはず。

この「GoHandsらしさ」なるもの、一言でまとめるなら、オーバースペック感なんですね。見ていて「何もそこまでしなくても……」と、ついついツッコみを入れてしまう感じ。しかしながら、では、どんな作品ならこのスペックの適切な受け皿足り得るのだろうか？　と問われると、言葉に窮するものがあるのもまた事実。不思議なものです。

ただ、「デキる猫は今日も憂鬱」は、そのミスマッチ感のようなものが、シリーズを通した持ち味として活かされているような気がします。そもそもこの作品、ズボラな会社員の女性の拾ってきた猫が長じて人間サイズにまで巨大化し、家事全般を完璧にこなすようになった……という、ファンタジックな設定が根幹にあります。猫が買い出しにまで出るのだけれど、社会も少しの違和感だけで、その存在を受け入れているようです。そうした基本設定にくわえて、主人公の会社員生活が、原作コミックの連載開始時期を考えても、結構懐かしいテイストなんですね。主人公の同僚の女性が、「職場で婚活サイトを開いてる」みたいないじり方をしたり、弁当をつくっていくと男子社員が「女子力高い」「いい嫁になる」みたいな褒め方をしたり、そしてそんな周囲からの完璧女子みたいな視線を主人公が妙に意識していたり、コメディだとしても、描かれている価値観が保守的だなあ、と。

見はじめた直後は、基本楽しみつつも、ちょっとそこがひっかかったんですけども、ああ、そうか、と。猫だけじゃなくて、会社の描写も含めて、全体が現実をベースにしつつ、少し浮き上がったファンタジーなんだと。そう考えると、「GoHandsらしさ」によってもたらされる違和感が、俄然意味を持ったように思えてきたわけです。

……ひねくれてますかね？　もっと素直に、ダメ子ちゃんと猫の楽しい家庭生活を愛でていたらいいのだろうか。実際、そういうベタな視線で見てもいいものです。主人公めっちゃかわいい。でも、これだけ凝った映像をつくりあげているわけですから、見るこちらも、なんだかぐねぐねと考えこみたくなってしまうのです。