【この2.5次元がすごい】雨の音、心の距離感…新海誠の世界を美しく表現　「言の葉の庭〜The Garden of Words〜」

(C) 舞台『言の葉の庭~The Garden of Words~』 2023

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原作を忠実に表現するものや、舞台ならではの演出を楽しめるものなど、漫画やアニメを原作にした舞台作品にもいろいろな表現があります。今回取りあげる舞台「言の葉の庭〜The Garden of Words〜」はかなり演劇的な作品。原作は2013年に新海誠監督が手がけた劇場アニメーション「言の葉の庭」と、同監督の著作「小説 言の葉の庭」です。新海監督らしい日常の風景を美しく描いた作品を舞台でどのように表現するのでしょうか。私も舞台化が発表された時から楽しみにしていました。劇場に足を踏み入れると、雨の音が静かに会場を包んでいました。舞台の中央に回転するセットがあり、背景のパネルが都会の中にある公園であると教えてくれます。

微妙な距離感と感情の変化を見事に表現

雨の音、電車の揺れ、そして岡宮来夢さんが演じる高校生・タカオのモノローグから物語は静かにスタートしました。出演者が目を合わせることもなく舞台を歩き、電車の音に合わせて身体を揺らす。そういった動きから街の雑踏や人混み、さらには近くに人はたくさんいるのに他人であることの都会の距離感も伝わります。

(C) 舞台『言の葉の庭~The Garden of Words~』 2023

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雨が連れてくる空の匂いが好きだというタカオは、雨が降る朝は学校をさぼり公園に向かいます。そこで出会ったのが谷村美月さん演じるユキノ。平日の朝から公園でビールを飲む謎めいた年上の女性と、タカオが次第に心を通わせていくというのが物語の軸になっています。タカオは自分の夢である靴職人を目指します。タカオが時間を忘れて部屋にこもり、靴のスケッチをする姿は10代特有のパワーを感じ、自分にもあんな風に夢中になった時期があったなと思い出させてくれました。

物語が進むにつれ、タカオと周囲には様々な距離感があると気がつきます。年上で謎めいたユキノへの関心だけでなく、少し複雑な家庭環境や夢への向き合い方。大人びた性格のタカオはわがままを言うわけでもなく上手く周囲と付き合っているように見えます。そんなタカオの心の動きを岡宮さんは見事に表現していました。大げさな表現はないのに、徐々にタカオに感情移入したり、応援したりと目が離せません。

エピソードや演出が舞台を立体的につくりあげる

(C) 舞台『言の葉の庭~The Garden of Words~』 2023

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今作では、劇場アニメーションだけでなく「小説　言の葉の庭」からもエピソードを取りこんでいます。タカオの兄が自身の夢を諦めたことや、ユキノを追いこむきっかけになった女子高生の相澤祥子の心の動きなども描かれ、より物語を立体的に作りあげていました。誰も悪くないのだけれど、仕方ないというにはもどかしい……そんな気持ちにさせてくれます。

(C) 舞台『言の葉の庭~The Garden of Words~』 2023

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また、演出面を見ていくと、背景に今作のキーワードにもなる万葉集の一編が映し出されたり、アニメーションでも印象的だった雨が布の動きで表現されたり、カラスのパペットが踊るように人混みを駆け抜けたりと舞台らしい手法も多く使われていました。タカオがデッサンする手元がOHPによって映し出されるのもそのひとつでしょう。

誰もが体験する青春のまっすぐさや、不安定さがどこか懐かしく切ない舞台「言の葉の庭〜The Garden of Words〜」。以前から新海監督の作品はきっと舞台に合うという印象があったので、その期待に応えてくれるような作品でした。品川プリンスホテル　ステラボールにて11月19日までの上演です。

大好きなあの人に奥行きが♡この2.5次元がすごい

[筆者紹介]
西岡 舞子（ニシオカ マイコ） オーストラリアのGriffithUniversityでジャーナリズムと犯罪心理学を学び、卒業後は出版やエンタメに携わる。舞台も音楽も仕事のあとの一杯もやっぱり生が好き！ いい舞台は何度もみたいし、記念に公演グッズも買っちゃう派です。好きな動物は猫とペンギンで好きな大福はいちご大福。