2019年7月13日(土)19:00
【数土直志の「月刊アニメビジネス」】来場者35万人超、米国「Anime Expo」は急成長から成熟へ
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■延べ35万人、米国アニメイベント「Anime Expo」も成熟期
海外最大級の日本アニメ・マンガイベント「Anime Expo」が、今年も7月3日から7日までの5日間、米国ロサンゼルスのコンベンションセンターで開催された。2019年の参加者数は延べ35万人以上、多数のゲストと数百単位のプログラムを現地ファンが楽しんだ。
28年間の歴史のなかで過去最大級だが、むしろ2019年の会場は比較的落ち着いた印象だ。それはイベントが成長期から成熟期にはいったためかもしれない。
米国での日本アニメは00年代後半にビジネス急縮小の時代を経験し、12年頃より再び人気になってきた。正規動画配信の登場とその爆発的な普及が背景にある。これを受けて「Anime Expo」も、12年の延べ13万人の参加者数が、17年には35万人まで達した。しかし17年、18年、19年の参加者数はいずれも約35万人。会場のキャパシティがすでにギリギリとはいえ、目先の拡大はマックスに達したと思われる。12年から約5年間、「Anime Expo」は急激な成長とそれがどこまで続くか分からないという熱気に満ちていた。しかし現在は高水準での安定といった感じだ。
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■人気の中心は深夜アニメより少年アニメ
落ち着いた印象を与えたもうひとつの理由は、全体を牽引するタイトルが不在だったことにある。もちろん人気作品はたくさんある。TRIGGERのパネルはどれも満員で、劇場最新作「プロメア」のプレミア上映会は3000人の会場に入りきれないファン続出した。ワーナーブラザースジャパンが主催する「ジョジョの奇妙な冒険」の盛り上がりぶりと来場者の熱狂には驚かされた。
それでもここ数年席巻した「進撃の巨人」「ソードアート・オンライン」のような会場を圧倒するタイトルに欠けていた。両作品は引き続きシリーズ展開がされて人気ではあるのだが、当初ほどの勢いを感じさせない。ファンの作品消費のペースが早くなっているのだ。同時にコアファン向けの作品人気が分散している。これは市場成熟の現象かもしれない。
大型タイトルはあった。それは深夜アニメでなく、少年アニメである。原作マンガが記録的な売上げになっている「僕のヒーローアカデミア」のコスプレが会場にあふれていた。作品はかなり広く浸透している。
「ヒロアカ」だけでない。日本なら週末朝や夕方帯にテレビ放送されるような少年向けのタイトルが盛りあがっている。「FAIRY TAIL」「七つの大罪」も根強い人気があるようだ。「NARUTO」や「ONE PIECE」のコスプレも依然見かける。以前はキッズものとして「Anime Expo」では扱いの小さかった「ポケットモンスター」のコスプレも次第に増えている。より高い年齢にファンを広げている。実際に、今年の「Anime Expo 2019」の目玉のひとつは、「ミュウツーの逆襲 EVOLUTION」のプレミア先行上映である。
深夜アニメを好むコアなファンに加えて、こうした作品を好むライトなアニメファンが近年の「Anime Expo」の成長を支えたのかもしれない。アニメファンのライト層の増加は日本でも最近しばしば指摘されるが、国境を越えて同じ現象が広がっているのとすれば面白い。
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こうしたトレンドを企業側も捉えている。日本アニメ配信の最大手クランチロールは、19年夏期作品で「Dr.STONE」を一番にプッシュしていた。先行上映会を含む期間中のイベントはもちろんだが、会場の内外で広告の量の多さからクロンチロールが「Dr.STONE」に大きな期待を寄せていることが分かる。
原作は「少年ジャンプ」連載の人気シリーズだから、少年アニメで勝負したいとの戦略が見える。DVDやブルーレイの売上げが以前ほど期待できない現在、コアファン向けの深夜アニメよりも、少年向けアクションアニメのほうが二次展開で伸びしろがあると考えているのだろう。
■それでも「Anime Expo」が特別な理由
安定期に入るいっぽうで、「Anime Expo」がアニメファンと業界にとって特別な場所である傾向はますます強まっている。それを示すのが「Anime Expo 2019」での初出し情報の多さである。なかでも大友克洋の劇場アニメ「ORBITAL ERA」の製作発表、「AKIRA」再アニメ化は世界中を駆け抜けたビッグニュースだ。TRIGGER制作の「BNA ビー・エヌ・エー」、WIT STUDIO制作の「GREAT PRETENDER」もロサンゼルスが製作発表の場となった。細かな発表を含めると、「Anime Expo 2019」での初出し情報は数え切れないほどある。
これは日本のアニメ製作者が、米国市場により大きなビジネスを期待するためだ。すでにアニメの製作費回収に占める海外の割合は急激に高まっている。その後ろには海外ファンからの支持がある。だから海外のファンを大事にしたい。そのために海外で注目される「Anime Expo」に力をいれる。
日本のアニメ・マンガをテーマにしたイベントは、北米に数百規模で存在する。その中で「Anime Expo」が群を抜く存在になった答えのひとつがここにある。それは単純な動員数だけでない。日本からのゲストの多さ、ここでの情報公開の多さにある。この特別感が、動員を押し上げている。さらに動員数の増加と注目度の拡大が日本企業の参加や特別企画を増やす。これが何度もループしながら「Anime Expo」は北米のアニメイベントで特別な場になっていく。「Anime Expo 2019」は、今後も巨大イベントとしてファンからも業界からも注目され続けていきそうだ。
数土直志の「月刊アニメビジネス」
[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ) ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。
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