2020年9月19日(土)19:00
【数土直志の「月刊アニメビジネス」】Netflixオリジナルアニメの知られざる人気作品
「バキ 大擂台賽(だいらいたいさい)編」
(C)板垣恵介(秋田書店)/バキッッ製作委員会
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■「バキ」が世界で大人気
9月7日に、Netflixの日本サービス開始5年にあわせたオンライン記者説明会が開催された。発表の目玉は、日本での契約件数500万件突破だ。わずか1年間で200万件増の急成長ぶりである。
当日はアニメ関係者には、もうひとつサプライズなニュースがあった。アニメシリーズ「バキ」が世界約50カ国で総合トップ10にランキングしたとの発表だ。新作だけでも毎月数え切れない番組が送りだされるなかでの総合ランキングだから相当の人気である。Netflixのグローバルでの契約数は1億9000万件を超えるので、作品の視聴者はかなりの数になったはずだ。
「バキ」はマンガ家・板垣恵介の人気格闘マンガシリーズのひとつで、少年でありながら圧倒的な強さで地下闘技場のチャンピオン君臨する刃牙と、人間離れした格闘家たちとの死闘が全編にわたって描かれている。今回は「最凶死刑囚編」、「中国大擂台賽編」をトムス・エンタテインメントの制作によりアニメ化した。
国内でも熱いファンは多いが、それでも人気アニメが並ぶNetflixでの群を抜いた人気は驚きだ。Netflixのオリジナルアニメは世界の視聴者を意識するため、必ずしも日本での人気と一致しないとされてきた。「バキ」の成功は、この見方を裏付ける。
■情報を出し始めたNetflix、日本でも大ヒットの「ULTRAMAN」
実際のNetflixオリジナルアニメの日本との傾向の違いは、どこにあるのだろう。Netflixのアニメはハイティーンからヤングアダルトをメインターゲットにするために、「アクション」「SF」「バイオレンス」など刺激の強い作品を好むとされている。キャラクター展開や音楽、イベントといったメディアミックスを前提にしないため、映像だけで完結する90年代のOVAに近い作品との指摘もある。
確かにオリジナルアニメにそうした作品は目立つ。しかしNetflixはビジネスパートナーを含めて、ユーザーの番組視聴情報を外部に出さないことで知られてきた。実際にこれら作品が見られているのかは、これまでよく分からなかった。Netflixでの人気作品の実態はベールの向こうに隠されている。
それでも最近は今回の「バキ」のように、人気作品の視聴情報の一部を出し始めている。国ごとの日々の人気ランキングもスタートし、2019年末には日本国内の総合ランキング、ジャンルごとのランキングも発表された。
19年の国内アニメランキングは、1位が「ULTRAMAN」、2位に「新世紀エヴァンゲリオン」、以降は「ワンパンマン」「ケンガンアシュラ」「進撃の巨人」と続く。このうち「ULTRAMAN」と「ケンガンアシュラ」は、Netflixオリジナルアニメだ。日本だけに限っても、「アクション」「SF」「バイオレンス」は強い。
■「日本沈没2020」はなぜ企画されたのか
しかしこれだけではグローバルのオリジナルアニメの人気は分からない。残念ながら世界全体でのアニメランキングは発表されていない。
ただ作品の人気と評価を知る手段はいくつかある。ひとつはシリーズ続編制作の決定だ。新シリーズ制作は、視聴者数や新規契約の獲得で大きな成果があがった結果と判断していいだろう。
これまで続編制作が発表された作品は「B: The Beginning」「アグレッシブ烈子」、「ULTRAMAN」「バキ」「7SEED」「攻殻機動隊 SAC_2045」などだ。当初から長いシリーズを2つに分割したケースもありそうだが、たとえ計画あっても評判がよくなければシリーズは続かない。逆にストーリーの続きに含みを持たせたラストながら、その後の動きがない作品は盛り上がりに欠けたことが想像できる。
もちろん人気があっても、ストーリーの構造上で続編が難しいこともある。オリジナルアニメのスタートを飾り、世界の終末を描いた「Devilman Crybaby」はそんな作品だ。しかし20年夏に配信された「日本沈没2020」は、湯浅政明監督、アニメーション制作・サイエンスSARU、そして往年の傑作を原作に世界(「日本沈没2020」は日本)の終末を描く点で共通する。「Devilman Crybaby」がオリジナルアニメの成功作であったことが窺える。
(C)麻生周一/集英社・PK学園R
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■「アグレッシブ烈子」「斉木楠雄のΨ難」の新しい潮流
こうして見ると、確かにヒット作は「アクション」「SF」「バイオレンス」が強い。綿密なマーケティングの結果なのだろう。
一方でスペシャル番組を挟んで第3シーズンまで続いた「アグレッシブ烈子」が異彩を放っている。日常の様々なストレスに耐え、それをカラオケで発散するOLを動物キャラで描く日常コメディ「アグレッシブ烈子」のサプライズなヒットは、視聴者の行動が経験だけで読み切れないことを示す。
19年12月から配信されている「斉木楠雄のΨ難 Ψ始動編」も異色作だ。コメディタッチ、日常的な世界観は、従来のオリジナル作品とやや異なる。旧作シリーズがNetflixで配信され、新作がオリジナルアニメとなった。旧作の人気を見ての判断と考えていいだろう。
「アクション」「SF」「バイオレンス」の傾向は、もちろん視聴者に人気もあるためだ。同時に当初のオリジナルアニメにこうした作品が多かったことも理由かもしれない。
今夏は劇場公開からNetflix独占に切り替わった「泣きたい私は猫をかぶる」といった成功例もある。これまでと違う場所に球を投げることで異なる反応があれば、オリジナルアニメの方向性も変わってくるはずだ。
今年2月にNetflixが発表したアニメにおけるクリエイティブパートナーシップでは、「テルマエ・ロマエ」のヤマザキマリや「神の雫」の原作者の樹林伸の名前も挙がった。ここから新たな展開があるかもしれない。Netflixオリジナルアニメ方向性はどんどん変化し、今後も思わぬヒット作がでてきそうだ。
数土直志の「月刊アニメビジネス」
[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ) ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。
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