2021年12月31日(金)19:00
【数土直志の「月刊アニメビジネス」】コロナ禍が加速させたアニメ業界激変 2021年10大ニュース
いまだ沈静とはいかないが、2021年のアニメ業界ではコロナ禍を前提にした対応が進んでいる。先頃、日本動画協会が発表をした20年の世界の日本アニメ市場は11年ぶりにマイナスとなったが、21年はより明るい1年になったのでないだろうか。
しかし明るさを感じる分野や企業がある一方で、依然厳しい状況にあるところも多い。それは国内・海外のアニメ業界が“激動”の真っただ中にいるためだ。変化自体は10年代にはじまっているのだが、コロナ禍がそれを加速化した。激動が追い風だったか逆風なのかは、立たされた場所によって違ってみえる。様々な景況感の違いも、ここから生まれる。
そんな業界の状況を背景に、21年にアニメ業界に何があったのか、ベスト10形式でまとめてみた。1年の終わりに振り返ってみたい。
【2021年アニメビジネス10大ニュース】
1. 世界の日本アニメ市場11年ぶりにマイナス
2. 新型コロナ感染症の影響続く
3. ソニーグループが米国アニメ配信クランチロールを買収
4. 「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開で興収100億円突破、シリーズ大団円
5. 中国・配信アニメの事前審査厳格化
6. サンライズ・バンダイアンムコアーツなどバンダイナムコグループ5社事業再編・集約を発表
7. 「Disney+」が日本アニメ配信開始、世界独占タイトルにも進出
8. 「マクロス」「ロボテック」世界展開で、日米各社が合意
9. 「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」 全米週末興行1位
10.アニメスタジオで相次ぐ 新人育成プログラム
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ニュースの第1位にはやはり 「日本アニメの世界市場11年ぶりにマイナス」 、2位には 「新型コロナ感染症の影響」 を挙げたい。日本動画協会によれば20年の日本アニメの世界市場は2兆4261億円、前年比で3.5%の減少だ。数字自体は昨年のものだが、成長産業とされてきたアニメもまたコロナ禍から免れないことを示した。市場縮小がコロナ禍の多くの産業に共通すると考えると、むしろ大きなニュースはこの過程で起きた海外と国内の市場規模の逆転である。海外市場は1兆2349億円と、1兆1867億円の日本国内を初めて規模で上回った。国内が前年比で9.7%マイナスになるなかで、海外市場は3.2%増と引き続き成長したからだ。
近年の海外マーケットの堅調な成長をあらためて確認すると同時に、アニメ産業の海外依存度がこれまでと比べものにならないほど高まった。これが10年代後半から現在まで続く、“アニメビジネス激変”の核心だ。
激変の潮流に乗ることで成長する企業の代表が、アニプレックスを核にしたソニーグループのアニメ事業である。ソニーグループは国内外の買収や投資により、企画・製作・制作・販売・流通、さらには商品開発やゲームまでアニメを中心とした巨大ビジネスを築きつつある。それを象徴するのが8月に完了した 「世界最大の日本アニメ配信プラットフォームのクランチロール買収」 である。ソニーグループは日本アニメの海外ビジネスで圧倒的な優位を築くことが可能になった。
ビジネス環境の激変に対応したビジネス組み直しは、KADOKAWAやバンダイナムコグループでも見られる。特に10月にバンダイナムコが発表した 「サンライズ・バンダイアンムコアーツなどグループ5社の事業再編」 は大胆であった。
東京西部に散らばっていた約1000名の制作スタッフを荻窪の新拠点に集約するだけでなく、3年前に統合したばかりのバンダイビジュアルとランティスのバンダイナムコアーツを解体し、今度はサンライズと旧バンダイビジュアルが経営統合する。5社を解体し22年4月に誕生する2社の社名は未発表ながら、映像新会社では企画・製作・出資・制作・販売・流通・ライセンスまでを統合するアニプレックスに匹敵する総合アニメ企業が誕生する。
拡大する海外ビジネスだが、よいことばかりでない。海外依存度の上昇は、海外で不測の事態が起きた時のビジネスへの影響も大きくなるからだ。21年春にはじまった 「中国での配信アニメの事前審査厳格化」 は、まさにそのリスクを顕在化させた。
配信会社が随時行っていた番組審査を、行政が全作品を事前に審査するようになった。審査では、作品も完成した全話が必要になる。日本ではこれまで放送と並行して次話以降を制作中という体制であったが、中国との同日配信をするとなるとスケジュールの組み方を変える必要がある。すでに米国の配信会社も原則、全話完成納品を求めているため、日本の制作体制が海外の影響で変わりつつある。
中国では審査の結果、配信できない作品も増えている。このため当初から中国からの売上げをビジネスに組み込むことがリスクとなり、数年前のブームとうって変わり中国ビジネスに対して慎重な姿勢が増えている。
Disney+で配信中の「スター・ウォーズ ビジョンズ」
(C)2021 TM & c Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.
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対照的に米国ではNetflixが日本アニメの取り扱いをさらに増やす一方、21年には北米最大のエンタメ企業であるウォルト・ディズニーが 「Disney+で日本アニメ配信を開始し、世界独占配信タイトルも発表」 した。さらに今後はHBO maxやApple TV+、Paramount+、peacockなどが日本アニメ獲得に動く可能性があり、ブランド力の高い作品やスタジオは奪い合いになりそうだ。この結果、ビジネスにおける米国依存が強まっている。
同じ21年に 「『マクロス』『ロボテック』の世界展開で、日米各社が合意」 したのも、時代の変化を感じさせた。1982年にスタートした「超時空要塞マクロス」は、80年代半ばに結んだ米国企業に有利だった契約のため、その後のシリーズ展開が国外で出来なくなっていた。今回の合意では「マクロス」シリーズと「超時空要塞マクロス」などを基に米国で生まれた「ロボテック」のグロバール展開でそれぞれが協力するというものだった。40年近くかかり、一種の不平等条約が解決されたかたちだ。
引き続きヒット作も多かった21年だが、なかでも注目すべきは「シン・エヴンゲリオン 劇場版」であろう。1995年に始まった大型シリーズの完結作 「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』公開では、遂に興収100億円を突破」 した。エポックメイキングな作品そのものだけでなく、07年からの新劇場版では作品ごとに興行収入を伸ばすビジネス的な成功も特筆される。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の興収は07年の「:序」の5倍以上、劇場アニメで100億円以上は他に宮崎駿作品、新海誠作品、そして「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」しかない。
その「『鬼滅の刃』無限列車編」は、21年は日本に続き海外でヒットを重ねた。4月の 「全米公開では『「鬼滅の刃」無限列車編』は週末興行でランキング1位を獲得」 している、これは「ポケットモンスター ミューツーの逆襲」以来、21年ぶりの快挙である。
アニメ業界全体は前向きなニュースが多くなったが、こうした活況が逆に危機も引き起こしている。制作ニーズの拡大による人材不足の深刻化である。しかし危機感が広がるなかで、アニメ関係者のなかでは人材育成に取り組む機運が高まっている。
「アニメスタジオで新人育成プログラムの強化」 に乗り出すケースも増えている。報道されただけでもWIT STUDIOによる「WITアニメーター塾」やMAPPA「新人アニメーター育成共同プロジェクト」、スタジオポノック「アニメーター育成プログラム(PPAP)」、サンライズ「美術塾」などが挙げられる。かねてより人材育成に定評がある京都アニメーションやP.A.WORKSなども引き続き積極的に取り組み、公に発表された以外のスタジオでも、新人育成により時間と手間をかける動きは広がっている。
ただしアニメスタジオの取り組みに限界はある。アニメスタジオは経営体力が弱い中小企業が多く、新人育成に手間をかけられる大手や有力スタジオは決して多くない。現状の育成はスタジオに任され、アニメビジネスと切り離せない経営規模の大きな製作・出資会社はこうした動きと距離がある。そのなかで配信プラットフォームのNetflixが、スタジオの新人育成に特待生制度を設けてサポートする動きが注目された。製作側からも積極的に人材育成に関与する姿勢だ。今後は他の製作会社にこうした動きが広がるか、鍵になる。
さらに教育機関のありかたも問われる。本来、プロとしての技能や知識の基礎は、専門学校や大学の専攻課程で身につけて社会に送り出すべきでないかとの意見もある。アニメーション教育プログラムでの企業と教育機関の連動も今後の課題に浮上してきそうだ。
数土直志の「月刊アニメビジネス」
[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ) ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。
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