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特集・コラム 2022年1月22日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】アニメスタジオにTBSが25億円投資の理由

「ブルーピリオド」キービジュアル

ブルーピリオド」キービジュアル

(C) 山口つばさ・講談社/ブルーピリオド製作委員会

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アニメビジネスの気になるニュースが年初から伝わってきた。TBSホールディングス(以下、TBS)の社長が新年挨拶でアニメ事業を3つの主要プロジェクトのひとつに挙げ、このなかでアニメ制作子会社Seven Arcsに25億円の人材・デジタル投資をすると発言したのだ。
 Seven Arcsは最近では「ブルーピリオド」や「トニカクカワイイ」を制作する中堅のアニメ制作会社である。セブンアークスグループがTBSの完全子会社になったのは2017年12月、年間売上高は数億円だった。現在も番組制作は年数本ペースと規模はあまり変わりないから、年間売上高の数倍規模が投資されることになる。

昨今、テレビ局のアニメ事業進出がトレンドとなっている。アニメ事業部門の設立や拡張が相次ぐし、製作出資の強化も目立つ。映像視聴がテレビから配信に広がるなかで、生き残りを求めた多角化戦略の一環である。
 このなかでアニメが注目されるのは、
(1)アニメビジネスの成長力
(2)海外マーケットでの人気(グローバル化とも結びつく)
(3)放送枠を活かせるので他異業種企業より優位である
(4)商品化、イベント、ライブなどアニメ単体で多角化が可能になる
といったところだ。
 テレビ局のアニメ強化にはいくつかパターンがある。ひとつは出資作品本数を増やし、さらに作品の出資比率をあげる量的な拡大だ。そのうえで商品化や海外販売のライセンス窓口を獲得して収益を伸ばす。活発化する「+Ultra」(フジテレビ)、「NUMAnimation」(テレビ朝日)といった深夜帯のアニメ放送枠のブランドもこれとつながっている。

しかしアニメ事業拡大だけなら出資(製作)だけをして、権利運用や分配金を得るだけでも成り立つ。アニメ制作はアニメーターなどのスタッフも多く、独自の業界ルールがあり、コスト的にもマネジメント的にも負担が大きいはずだ。制作スタジオの完全子会社化は思いきった決断だ。
 それは現在、アニメ制作のニーズがきわめて強くなっており、新たなアニメ企画を立てても制作会社がなかなか見つからないとの事情が理由にありそうだ。主要な制作会社は数年先までスケジュールが埋まり、さらに長年つながりの深いパートナーの作品が先になりがちだ。
 子会社であれば、自社企画を優先して制作してもらうことができる。また自社グループ制作作品とすることで、企画や番組販売、ライセンスマネジメントでより強い立場を得られる。つまり、より深くアニメづくりに関われる。
アニメ制作会社を子会社化するのはTBSだけでない。20年には在阪大手の朝日放送グループホールディングス(以下、朝日放送)が、「のんのんびより」など制作のシルバーリンクを子会社にしている。朝日放送は近年、ABCアニメーション設立やDLE子会社化など特にアニメ事業に熱心だ。こちらも自社企画を実現するためには制作現場の確保は不可欠との判断があるに違いない。

アニメ制作機能を重視する両局の動きには、実は先行する成功モデルがある。14年のフジ・メディア・ホールディングス(以下、フジテレビ)によるデイヴィッドプロダクションの子会社化だ。当時「ジョジョの奇妙な冒険」やコアファン向けを得意とするデイヴィッドプロダクションを子会社化するというフジテレビの選択は、業界を驚かせた。
 それまでもアニメ制作会社を保有するテレビ局はあった。しかし日本テレビホールディングス(以下、日本テレビ)のタツノコプロ、テレビ朝日ホールディングス(以下、テレビ朝日)のシンエイ動画などは、それぞれ「科学忍者隊ガッチャマン」「ヤッターマン」(日本テレビ)、「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」(テレビ朝日)といった、制作機能だけでなくスタジオが保有する作品権利確保の意味も強かった。要は作品・IPの獲得だ。
 またテレビ朝日とフジテレビはそれぞれ東映アニメーションの、日本テレビはIGポートの大株主だが、こちらは取引関係の深い企業同士の株式持ち合いの意味が大きい。
 デイヴィッドプロダクションはフジテレビのグループとなることで、深夜アニメ系コアファン向けだけでなく、「モンスターハンター ストーリーズ RIDE ON」や「キャプテン翼」といったキッズ作品にも進出する。先日は新しい「うる星やつら」を制作することも発表している。制作量を増やし、作品の幅を広げていく。フジテレビにとっては戦略タイトルの制作で安心できるスタジオである。

もうひとつSeven Arcs、シルバーリンク、デイヴィッドプロダクションの3社は、中堅規模スタジオであることも共通する。民放最大手の日本テレビでも年間売上高は4000億円規模と決して大きくない。大手制作会社は放送局の事業規模では手に余り、制作現場やクリエイティブにも踏み込みにくい。また規模の大きな制作会社はタイトル数が多いだけに、幅広い企業との全方位外交が必要になってくる。
 一方、中堅スタジオは制作スケジュールの確保に追われがちで、営業にもなかなか手が回らない。何よりもスタジオの制作体制・競争力維持に必要な人材や新規設備のための投資資金余力に乏しい。テレビ局がこれをカバーしてくれればありがたい。テレビ局はスタジオが安定的に成長し、自局の大きな企画の際に制作を担当することを期待する。TBSがSeven Arcsで目指すのは、こうしたかたちなのだろう。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

ブルーピリオド

ブルーピリオド 62

成績優秀で世渡り上手な高校2年生・矢口八虎は、悪友たちと遊びながら、毎日を過ごしていた。誰もが思う“リア充”......。そんな八虎は、いつも、どこかで虚しかった。ある日、美術室で出会った1枚の...

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