2022年4月9日(土)19:00
【数土直志の「月刊アニメビジネス」】ディズニーに日本アニメの新しい波はくるのか
Disney+「スター」が導入した日本のアニメ
アニメファンに作品を届けるメディアとして、動画配信の存在はますます大きくなっている。その最新の巨大プレイヤーがディズニーグループの「Disney+」だ。とりわけ昨年10月にスタートした6番目のブランド「スター」が台風の目だ。
“ディズニーだけじゃない”をコンセプトに「スター」は、アニメからも「僕のヒーローアカデミア」や「進撃の巨人」など幅広い作品をラインナップする。さらにスタート時には「ブラック★★ロックシューターDAWN FALL」「四畳半タイムマシンブルース」「サマータイムレンダ」の世界独占配信を発表した。
実は歴史が長いディズニーと日本アニメの関係
「ディズニーも日本アニメに進出か!」と、驚きがあるかもしれない。日本の深夜アニメは、しばしばファミリー向けのディズニーやピクサーのカウンターカルチャーと捉えられる。米国産作品に飽き足らない層が日本アニメを好きになるともされる。「ディズニーvs日本アニメ」との二項対立軸で語られがちだ。
しかし実際にはディズニーと日本アニメは、昔から近い関係にある。かつて日本には本国とオーストラリア以外ではここだけという同社の手描き制作スタジオもあったぐらいだ。
また日本アニメの取り込みや、ローカーライズにも積極的であった。人気キャラクターの「スティッチ!」は、2008年から11年までマッドハウスやシンエイ動画制作でテレビシリーズ化され地上波で放送された。09年からはディズニーグループのマーベル・コミックスのキャラクターを原作とするマーベル・アニメシリーズ「アイアンマン」「ウルヴァリン」「エックスメン」「ブレイド」がマッドハウスで、14年からはより子ども向けの「ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ」が東映アニメーションで制作された。
直近では21年9月からDisney+で配信されている「スター・ウォーズ ビジョンズ」がある。神風動画、スタジオコロリド、ジェノスタジオ、トリガー、キネマシトラス、Production I.G、サイエンスSARUが制作する「スター・ウォーズ」シリーズに基づくオムニバスだ。ポリゴン・ピクチュアズが制作する「トロン:ライジング」や「ツムツム」「スター・ウォーズ レジスタンス」といった作品もある。
ただCGアニメ「ファイアボール」を例外にすれば、ここで目指しているのはすでに人気のある自社作品やキャラクターの展開である。目的はアニメを使うことで、新たな層を取り込みたい。キャラクターを広げるとの点であれば、「キングダムハーツ」や「ツムツム」、最近では「ツイステッドワンダーランド」など、ディズニーはあっと驚く展開にも積極的である。
もうひとつディズニーと日本アニメの関係に放送局がある。専門放送局のディズニーチャンネルでは「けいおん!」、ディズニーXDでは「イナズマイレブン」といった具合に過去に日本アニメが多く放送されてきた。
そのグループ放送局のDlifeは20年3月に、ディズニーXDは21年3月に放送を終了している。ディズニーグループの放送の役割は現在配信に移行しつつある。Disney+がこれを引継ぐのであれば、日本アニメをラインナップするのは自然な流れと見える。
Disney+、これまでと何が違うのか
それでも今回「スター」でのアニメ配信の取り組みは、ディズニーがこれまでより一歩踏み出したように見える。その理由は以下の3つだ。
(1)コアファン向け、ヤングアダルト向け作品のラインナップ
(2)グループIP・キャラクター以外での世界独占配信
(3)国内アニメ企業への協業の働きかけ
ラインナップについては、4月から独占配信が始まった「ブラック★★ロックシューターDAWN FALL」と「サマータイムレンダ」が深夜アニメと括られる作品だ。特に「サマータイムレンダ」は人が死ぬ場面も多い。独占配信以外でも「呪術廻戦」や「進撃の巨人」「東京リベンジャーズ」など、バイオレンスが多く、年齢の高い層に向けたタイトルが少なくない。これはこれまでのディズニーチャンネルの枠を超える。ディズニー側にこれまでと異なった日本アニメの需要が生まれていることになる。
世界独占配信は驚きだ。バリエーション豊かな作品を揃える「スター」のスタートに日本アニメを取り込むのは想定内だ。しかし日本国内だけでなく世界での独占タイトルは意外感がある。独占タイトル獲得は単純な配信に比べてはるかに資金がかかり、とりわけ発表された3作品はいずれも強力タイトルである。グローバルでそれだけの視聴者獲得効果を期待していることになる。こうした取り組みが今後も続くなら、資金力のある新たな業界プレイヤーとしてDisney+は無視できない。
3つめもDisney+が日本アニメにどの程度関わるかについてである。現在のDisney+が日本アニメで今後何を目指しているのかは十分明らかでない。
例えば17年以降にNetflixが行ってきたような企画段階からアニメに関わるかたちを目指すのかどうかだ。「オリジナルアニメ」と呼ばれるNetflixの作品は、同社が製作出資するもの、同社が配信権を購入することを前提に成立する企画も少なくない。
しかしDisney+が同じ方向に進むなら、さらに多くの資金とアニメ業界のノウハウを知ったスタッフが必要になってくる。
そこで気になったのが、3月に開催された「AnimeJapan 2022」のオンラインビジネスセミナー「ディズニープラス、日本制作のローカルコンテンツを世界へ」だ。Disney+はこのなかで、国内アニメ企業と積極的に協業したいと語っている。協業の範囲がどの程度になるかは想像するしかないのだが、日本アニメの業界イベントである「AnimeJapan」にディズニーが企業として参加したのは今回が初めてのはずだ。そこからは何か新しいことが起きるのでないかとの変化も期待される。
数土直志の「月刊アニメビジネス」
[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ) ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。
作品情報
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西暦2062年。労働力の大幅な自動化プロジェクトの失敗後、その中核となる人工知能アルテミスが人類との戦いを選んだ末、荒廃した二十年後の地球。とある基地の地下研究施設で、ひとりの少女、エンプレスが...
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