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特集・コラム 2024年4月27日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】初開催「高知アニクリ祭」から見たアニメイベントと行政の関係

「高知アニクリ祭 2024」の様子(著者撮影)

「高知アニクリ祭 2024」の様子(著者撮影)

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■高知で生まれたアニメ文化・産業支援の枠組み

4月20日、21日の2日間、高知市で開催された「高知アニクリ祭 2024」に行ってきた。「名探偵コネン」や「勇気爆発バーンブレイバーン」まで人気アニメの出展やスタッフ、声優が登壇するステージ、制作体験コーナーなどが並ぶアニメイベントだ。会場は家族連れから若いアニメファンまで和気あいあいとした雰囲気。目玉は賞金総額3000万円を掲げる「高知アニメクリエイターアワード」の受賞式である。全国各地からアニメを目指す若者が集まった。
 ゲストも内容も大がかりなイベントだが、「高知アニクリ祭」の名前を聞いたことのある人は少ないのでないだろうか。実は今年が開催1回目、生まれたばかりである。それでも発表によれば来場者は2日間で1万6700人、人口30万人あまりの地方都市と考えれば大成功だろう。

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多くの人にとっては突然登場して成功したように見える「高知アニクリ祭」だが、実際はかなり周到に準備されてスタートした。もともと2022年1月に立ちあがった「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」の一環なのである。
 「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」は高知にアニメ産業を創りだす壮大なプロジェクトで、高知県初のアニメスタジオとして21年に設立したスタジオエイトカラーもそのひとつに位置付けられている。地元を舞台にした長編映画制作、さらに産業・文化集積の複合ビル建設も進んでいる。

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大規模プロジェクトを支えているのが、地元自治体や経済界、教育機関を巻きこんだ産官学の連携の強さである。「高知アニクリ祭」前日の4月19日に高知市内で開催された「アニ魂サミット」には、地元政治家や企業・メディアの有力企業のトップが並んだ。
 さらに東京から日本のアニメ・マンガ業界のトップが多数招かれていた。東京でも実現することのない業界の重鎮の顔が並び、「高知アニメクリエイター聖地プロジェクト」の県ぐるみの強力な支援をアピールした。財政面を含めたバックアップの厚さも感じさせる。

■行政の方向転換に翻弄されるアニメイベント

こうした枠組みが、短期間で巨大プロジェクトを推進する力になったのは確かだが、実は少し心配も感じた。周りからの支援が大きいほど、それに頼りすぎてしまわないかだ。何かの拍子でそれが崩れたときの影響も大きい。
 同じ四国では徳島市で09年から「マチ★アソビ」が毎年開催されている。毎年春と秋にアニメ・マンガ・ゲームのファンや関係者が多数訪れることで有名な大型イベントである。
 いつもならゴールデンウィークで最新イベントがあるはずだが、今年は開催されない。事業を財政面で支援してきた徳島県がイベントの枠組みを変えたいとしたことから、昨年末よりイベント運営側とのコミュニケーションの齟齬が生まれた結果だ。
 発表によれば今年秋に小規模で再開、25年には新たな組織での開催を目指すという。消滅の危機は後退したが、今後どのような体制を築くのか、永続的なシステムになるか気になるところだ。

今回の「マチ★アソビ」の出来事は、長期政権が続いた知事が新しい知事に替わったことで行政を刷新したという事情もあったとみられる。しかし同時に地方でのアニメプロジェクトと行政のもろい関係を露呈した。
 行政の方針転換により、存続危機になったイベントがこれまでにも少なくない。広島では、20年に1985年から30年以上続いた広島国際アニメーションフェスティバルが終了している。こちらも主催団体と行政とのコミュニケーションの掛け違えがあったと聞いている。
 96年にスタートしたアニメーション神戸が15年にひっそり終了したことはあまり話題にならなかった。こちらは設立目的が神戸震災からの復興だったことから使命を終えたのとの認識だ。地方から国に広げると、97年から続いた文化庁メディア芸術祭が22年に終了している。文化行政の方向転換であるという。

■イベントは、なぜ長く続けないといけないのか

支援を終了する理由は、それぞれあるのだろう。歴史が長くなればなるほど、変化の早いカルチャーシーンとの乖離が生じる。組織の硬直化もおきるし、チャレンシ精神や斬新さも薄くなる傾向がある。
 それでも古いビルをすべて取り壊して巨大ビルを立てる都市再開発のようなやりかたが正しいとは思えない。イベントやプロジェクトは、歴史を重ねるなかで知名度やブランドを築き、それは国内外にアピールする貴重な財産だ。
 同じブランド価値を新しいプロジェクトが築こうとすれば、そこからさらに20年、30年かかるだろう。すごろくの「スタートに戻る」みたいなものだ。必要とされるのはいちからやり直しでなく、時代に合わせたアップデートである。
 フランスのカンヌ映画祭は今年77回目、素晴らしい映画と共に77年続いてきたことに価値がある。これをやめて来年から第1回ニューフランス映画祭にしますと言い出す人は現地にはいないだろう。何十年も続く作品やキャラクターに支えられているアニメ業界こそ、長く続くことの重要さを知っているはずではないだろうか。

しかし、「広島国際アニメーションフェスティバル」「文化庁メディア芸術祭」「アニメーション神戸」「CGアニメコンテスト」「東京国際アニメフェア」……、大きく育ちながら途切れてしまったブランドは少なくない。
 だが、なくなってしまったものを嘆いてだけでははじまらない。重要なのは、同じことを繰り返さないことだ。いまあるものを育て、長く続けていくこと。だから「マチ★アソビ」にはよい感じで続いてほしいし、はじまったばかりの「高知アニクリ祭」の未来に期待したい。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

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