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特集・コラム 2024年11月30日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】KADOKAWAとソニー、海外ビジネスに補完関係はあるか?

「アニメエキスポ」会場写真(著者撮影)

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■ソニーとKADOKAWA、海外エンタメ事業はどうなる?

11月20日にソニーグループがKADOKAWAと買収に向けた協議をしているとのニュースが伝わり、エンタメ業界を揺るがした。出版から映画・アニメ、ゲームまで幅広いジャンルにまたがる大手エンタメ企業のKADOKAWAが、映画・音楽・ゲーム・アニメ分野の世界企業であるソニーとひとつになれば、国内のエンタメ業界のパワーバランスも変えかねない。
 とりわけアニメ分野では影響は大きい。ソニーグループのアニプレックス、KADOKAWAのアニメ・映像事業は、ともに国内で有数の規模を誇るからだ。協議の行方は不透明だが、それでも大きな話題になることからも衝撃の大きさが分かる。

国内の動きも気になるが、ここでは海外展開を軸に両社を取り巻く状況を考えたい。
 コンテンツ業界は成長性が高いと、いま大きな注目を浴びている。しかし国内は人口減少が続いていることもあり、成長の本丸は世界にあると見られている。ソニーグループとKADOKAWAが一緒になったとしたら海外では何が起こるのだろう。

海外事業では、ソニーグループに世の目が向きがちだ。映画部門はハリウッドメジャーの一角で本社は米国にあるし、ゲームでも音楽でも米国本社をもつ。もはやソニーグループを日本企業としていいのか戸惑うほどのグローバルビジネスだ。
 アニメではアニプレックスが2000年代後半より積極的に海外市場を開拓してきた。近年は日本アニメ配信のクランチロールの大型買収が成功するなど、アニメ分野の展開も加速している。
 一方のKADOKAWAも、実は近年、海外事業が急激にアクティブになっているのだが、ソニーグループほどその内容は知られていない。

■海外事業に苦戦してきたKADOKAWAの00年代から10年代初頭

KADOKAWAの海外ビジネスの急伸が気づかれていない理由のひとつは、少し前までKADOKAWAは海外ビジネスが得意でないと見られていたからだ。
 米国で映画・アニメ事業を手がけていたKADOKAWAピクチャーズUSAは09年に撤退、ドリームワークスに出資もした米国のKADOKAWAホールディングスも13年に撤退している。香港でも映画事業会社KADOKAWAインターナショナル・グループ・ホールディングスが13年に売却されている。
 映像・アニメ以外では、11年に鳴り物入りでスタートした「ニコニコ動画」英語版がある。筆者も米国のイベント「アニメエキスポ」で、ニコニコ動画の繰り広げた大型プロモーションに驚いた一人だ。しかしわずか数年でこの事業は停止している。13年には、クリエイター教育の海外進出としてクールジャパン機構の出資も受けた角川コンテンツアカデミーを展開したが、こちらも16年には撤退している。
 日本企業の海外直接進出は、苦労が多く、成功率は必ずしも高くない。当時のKADOKAWAは、そんなケースの代表企業にも見えた。

■中国から米国、東南アジア、フランスまで拡大する出版子会社

状況を変えたのが、10年代以降のアジアビジネスである。10年に現地出版社と共同出資した中国法人に、その後テンセントも加わり、マンガ、ライトノベルの出版やアニメ分野で成功する。また台湾国際角川書店の業績も好調を続けている。マレーシアでは買収したマンガ・児童書の出版社の業績が伸び始めた。
 さらに16年に日本マンガ・小説の翻訳出版の北米有力会社Yen Pressの株の51%を取得、近年のマンガブーム追い風を受けて売上を大きく伸ばしている。北米ではさらにデジタル書籍・マンガの定額課金サービスのJ-Novel Club、アニメ情報サイトのANIME NEWS NETWORKを次々に買収し事業を拡大する。

23年以降は、タイでマンガ・ラノベ出版社First Page Proを買収、韓国でO'FAN HOUSE、インドネシアでPT PHOENIX GRAMEDIA、フランスでVegaと共同出資を軸に出版子会社ネットワークを急ピッチで構築しつつある。
 こうした海外展開には、3つの軸がある。

(1)出版事業が重点領域
(2)アジア地域に強い
(3)現地とのパートナーシップ
  (一部株式取得・共同出資)、しかし最大出資者

■海外エンタメ事業の2つの補完関係

ソニーグループに話を戻してみたい。ソニーの海外のエンタメビジネスで、アニメ、マンガを見た時に、アニメの強さに比べて、マンガビジネスには大きな基盤はない。
 クランチロールは講談社とのパートナーシップと組むことでマンガでの配信プラットフォーム確立を目指したが、十分成長していない。講談社は23年に「Kマンガ」を立ち上げ、自社プラットフォームの構築に舵を切った。
 一方のKADOKAWAは、北米翻訳出版のYen Pressが日本マンガ・ラノベ分野で小学館・集英社系のVIZ Media、講談社に続く規模をもつ。さらに北米と台湾では電子書籍の配信プラットフォーム「BOOK☆WALKER」を展開する。こちらも好調で、高成長を続けている。

ソニーにとってのKADOKAWAの魅力は、原作になるマンガ・小説を保有することとの指摘は多い。しかし海外ではKADOKAWAは、出版流通でも大きな強みをもっている。
 KADOKAWAが得意とするアジアマーケットは、クランチロールが十分に行き渡っていない地域だ。アニプレックスとKADOKAWAが協力することで、日本コンテンツをさらに広げることができるかもしれない。
 ソニーグループがKADOKAWAをグループ化するかどうかは現段階では分からない。しかし海外ビジネスにおいては、「北米・ヨーロッパのソニー、アジアのKADOKAWA」と「ゲーム・アニメのソニー、小説・マンガのKADOKAWA」といった相互補完関係も成り立つ。それらは両社のビジネスをより強固にできるはずだ。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

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