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特集・コラム 2024年12月31日(火)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】2024年10大ニュース「巨大化する業界、加速する企業拡張」

(C)藤本タツキ/集英社 (C) 2024「ルックバック」製作委員会

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1.ソニーとKADOKAWAを巡る動き
2.有力スタジオの相次ぐ買収:サイエンスSARU、動画工房、エイトビッット
3.「君たちはどう生きるか」にアカデミー賞
4.東宝、米国配給会社GKIDSを買収
5.世界の日本アニメ市場3兆円超えで過去最高
6.新たなクールジャパン戦略とミュージアム構想の再浮上
7.少数スタッフ、58分尺の「ルックバック」興収20億円の大ヒット
8.「エヴァンゲリオン」シリーズのカラー、新たな「ガンダム」「ヤマト」制作発表
9.アニメータースキル検定スタート
10.テレビ局の反転攻勢:午後11時台にアニメ枠が次々

2024年12月に日本動画協会が発表した「アニメ産業レポート2024」の数字は、ちょっとしたサプライズだった。23年の日本アニメの世界市場が3兆3465億円と過去最高を記録した。驚きは伸び率の高さだ。毎年過去最高を続けるなか22年に3兆円目前まで迫ったが、23年は14.3%増で軽く大台超え、1年間で4000億円以上の市場が新たに誕生した。
 市場拡大の点では、日本アニメは好調だ。この成長する市場が様々な動きを生んでいる。ひとつは市場の陣取り合戦が活発化していること。アニメ関連各社は成長戦略を掲げ、より大きな売上げと利益を目指す。20世紀には中小企業の集まりとみられていたアニメ業界はいまやビッグビジネスになり、巨大企業が闊歩する。

なかでもソニーグループの存在が大きい。日本ではアニプレックス、海外では動画配信のクランチロールという巨大企業を傘下にもつ。24年にクランチロールの世界の課金ユーザーは1500万人を超えた。
 それだけに11月にそのソニーグループがエンタテイメントの巨大企業KADOKAWAの買収を検討と報じられたさいには業界がどよめいた。両社のアニメタイトルやビジネスが統合され、アニメの原作になる小説やマンガが豊富な4大出版社の一角がソニーグループに入れば、アニメ業界で圧倒的な存在になる。結局はソニーグループがKADOKAWAの株式約10%を保有と小さな動きになったが、巨大企業がさらに巨大化する潮流を認識させた。

アニメ業界はもともとM&Aの多かったが、24年はとりわけ目立った。企業規模、事業領域の拡大が目的で、特にアニメスタジオを囲い込む動きが活発化している。
 3月にバンダイナムコフィルムワークスが「ブルーロック」のエイトビットを、5月には東宝が「ダンダダン」のサイエンスSARUを、7月にはKADOKAWAが「【推しの子】」の動画工房を、それぞれ完全子会社化している。さらに東宝は新海誠作品でお馴染みのコミックス・ウェーブ・フィルム、「BEASTARS」など3DCGアニメで評価が高いオレンジにも出資した。共通するのはヒット作を生み出す優良スタジオであることだ。
 東宝は積極的なM&Aで急成長する。企業買収は国内だけでなく、海外にも広がる。東宝による米国のアニメーション映画配給会社GKIDSの完全買収は世界の映画業界を驚かせた。北米のアニメーション業界の中心のひとつであるGIKDSをステップに東宝は海外配給の基盤を手に入れる。
 そのGKIDSの貢献が大きかったのが、宮﨑駿監督の「君たちはどう生きるか」のアカデミー賞長編アニメーション受賞だろう。日本作品としては、21年ぶり2度目。前回も宮崎監督の「千と千尋の神隠し」だ。スタジオジブリへの長年の高い評価に加えて、昨今の世界的な日本アニメムーブメントでさらに注目が高まったことも理由にありそうだ。

成長するアニメ業界は国からも関心を持たれる。内閣府は6月に国の新たな成長戦略「新たなクールジャパン戦略」を発表、コンテンツ重視を打ち出す。アニメはそのひとつだ。これに合せてアニメ、特撮、ゲームのミュージアムであるメディア芸術ナショナルセンター構想が本格的に始動した。麻生政権の国立メディア芸術総合センターの挫折以来、15年ぶりにミュージアム構想が浮上した。
 そうした成長に対して引き続き懸念されるのが人材不足である。制作スタッフの就業環境は改善されつつあるが、技術のあるスタッフが不足した状態では将来にわったって制作することはおぼつかない。アニメスタジオなどでは新人育成への投資が活発化し、業界団体NAFCA(一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟)はアニメーターの技術力をはかる「アニメータースキル検定」をスタートした。しかしこれらの成果がでるまでには時間がかかる。こうした動きの継続が今後の鍵となる。

アニメ作品でエポックメイキングだったのは、押山清高監督の「ルックバック」だ。何百人ものスタッフで作り上げる大作アニメが注目されがちななか、監督自身のスタジオで少数のスタッフで制作した。本編58分は映画興行には難しい長さだが、口コミで人気を広げて興行収入で20億円を超えるヒットとなった。1700円の一律料金の導入、アマゾンスタジオの製作出資参加などビジネス面でも注目された。
 「らんま1/2」や「魔法騎士レイアース」「キャッツ・アイ」など往年の傑作のリブートブームがさらに加速したのも24年の特徴だ。そうしたなか「エヴァンゲリオン」シリーズで知られるカラーが「宇宙戦艦ヤマト」と「ガンダム」という長年のビッグタイトルの新作制作を発表してファンを沸かせた。往年の名作を新たな時代に合せてリブートさせることを得意とする庵野秀明が率いるカラーだけに、25年以降に向けて期待が高まる。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

ルックバック

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