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特集・コラム 2025年4月29日(火)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】アニメ関連株はなぜ上がる、株式市場を席捲するわけ

Production I.G制作の「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」ビジュアル

Production I.G制作の「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」ビジュアル

(C)1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT

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■10年間で15倍になった東映アニメの株価

10年間で資産が10倍になる。そんな夢のような話があれば、誰でも飛びつくだろう。そんなことがアニメ界隈で起きている。
日本を代表するアニメ会社である東映アニメーションの直近の株価は3530円(2025年4月24日現在)、10年前の15年3月31日は236円だった(株式分割後の金額調整済) 。10年あまりで株価は約15倍以上になった。会社の価値を示す時価総額は25年4月23日で軽く7000億円を超える。
 「攻殻機動隊」シリーズや「進撃の巨人」のアニメーション制作で知られるIGポートは、15年3月31日の336円(株式分割後の金額調整済)の株価が25年4月24日には2047円。こちらは東映アニメーションには及ばないが、それでも6倍になる。

いま国内株式市場で、コンテンツ関連株の好調が注目されている。映画やゲーム、音楽などエンタテイメントを生み出すソニーグループ、バンダイナムコホールディングス、東宝、KADOKAWAといった企業の株価が急伸しているためだ。
こうした状況は一般メディアでも、報じられている。たとえば日本経済新聞ではこんな感じだ。

「2024年のETFでアニメ一番 (日本経済新聞25年4月16日)」
“2024年の日本株ETF(上場投資信託)で「グローバルX ゲーム&アニメ―日本株式 ETF」が首位”

■トランプ関税の影響が少ないアニメ産業

コンテンツ関連株好調が目立つのは、世界経済の混乱が理由だ。海外からの輸入品に高率関税をかける米国トランプ大統領の政策で、いま世界的な景気後退懸念が広がっている。トランプ大統領就任以来、株式市場の下落で、世界で数百兆円もの時価総額が失われたともいう。
 日本も同様だ。24年7月に史上最高値4万2000円を超えた日経平均は、4月24日現在で3万5039円と高値から約16%も下落。下がり幅は大きい。

そのなかで気炎を吐くのが、コンテンツ関連企業だ。
 東映アニメーションの株価をもう少し短い期間で見ると、4月24日の終値が3530円、ちょうど1年前は2609円。35%の上昇率は日経平均の大きな下落と比べれば好調ぶりが際立つ。
 映画大手の東宝は、直近4月14日の決算発表で「IP・アニメ事業」の立ち上げを明らかにした。「映画」「演劇」「不動産」に続く第4の主力事業として、アニメを重視する。こちらの4月24日の終値は8320円、1年前は5334円、およそ56%とやはり高い上昇率になる。

コンテンツ関連株が買われる理由は、トランプ関税の構造にある。自動車、家電、鉄鋼などと違い、商品の輸送がほぼないコンテンツ分野は関税の影響を受けにくい。これまでと同じ条件で輸出が可能だ。
 アニメやゲームは現在、売上げのかなりを海外に頼る輸出依存型産業だが、今回の関税騒動とは無関係にみえる。投資家が安心して資金を投じられる数少ない分野である。

ただ好調の理由は、トランプ関税だけでない。コンテンツ分野は、そもそも近年は際立った成長産業なのだ。なかでもアニメ産業の成長は顕著だ。日本動画協会によれば、日本アニメの世界市場は09年の1兆2611億円からコロナ禍を除けばほぼ右肩あがりで23年には3兆3465億円と3倍近くに膨れ上がった。
 他産業での投資リスクが高まるなか、この成長性にあらためて注目が集まった。

■アニメ産業は万全か?

それではコンテンツ企業・アニメ企業の株価は、今後もあがり続けるのだろうか。投資を考えたときに、これからも有望市場と考えてよいのだろうか。
 トランプ政権によって引き起こされるリスクに対して、実は盤石と言い難い。いまはハード(製品)輸入がトランプ政権の関心事だが、それがコンテンツやソフト産業に移らないとは言いきれない。
 先日、トランプ政権が発表した海外の非関税障壁8項目のひとつに、「偽物、海賊版、知的財産の盗用」といったソフト関連も挙げられている。
 映画撮影のロケ地がハリウッドからカナダやメキシコ、ヨーロッパに移っていることや、ロケ地誘致のための各国が優遇処置をしていることを問題視する可能性はすでに指摘されている。
 アニメーション業界に近いところでは、米国映画のCG・VFX制作で東南アジアやインドへの外注が増えているが、これが今後標的になってもおかしくない。そうなれば映画やテレビ番組、ゲームの輸入にもハードルが設けられる可能性はないわけはない。
 もちろんそこで日本が対象になるのか、日本にどんな影響があるかは分からない。それでも先が読めないこと自体がトランプ政権の最大のリスクだ。

PER(株価収益率)、PBR (株価純資産倍率)と呼ばれる株式評価に用いられる指標が、一部のコンテンツ企業でかなり高い水準まであがっていることは注意すべき点だ。
 こうした数値には各社がこれまでつくりだしてきた作品やキャラクター、制作スタジオのブランドといった無形の資産価値が十分反映されていないことも理由だ。しかし、より大きな理由は今後の成長産業としてのアニメやコンテンツに対する期待だ。もし成長への期待がそがれれば、それは株価の下落というかたちになるだろう。
 コンテンツ関連株式ブームは、実は今回が初めてではない。00年代前半にもコンテンツ株の大きなブームがあった。プロダクションI.G(現IGポート)やGDH(現ゴンゾ)など関連企業の上場も相次ぎ、アニメやゲームの企業の株が盛りあがった。その時期に相場を牽引したGDH、バンダイビジュアル、トムス・エンタテインメント、マッグガーデン、ジャパンコンテンツ信託といった会社は現在の株式市場に存在しない。上場廃止や他企業に買収、吸収されるかたちで当時とは異なる立ち位置にある。
 ただ20年前に比べて日本のアニメ企業は海外市場によりアクセスしやすくなり、そこにはアニメやキャラクターから派生する未開拓の2次展開市場が広がる。今後の成長余地がある点で、状況はだいぶ違う。油断は大敵ではあるが、日本アニメの成長はまだしばらく続くのかもしれない。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

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