2025年6月7日(土)19:00
【数土直志の「月刊アニメビジネス」】「ガンダム」の革新、両面作戦で成功した「ジークアクス」

劇場先行版が6月20日から再上映される
(C) 創通・サンライズ
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1月に劇場先行版が公開され、4月からテレビシリーズがスタートした「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)」が大人気だ。シリーズの冒頭を異なるかたちで再編集した劇場先行公開後、テレビ・配信で展開をする。新エピソードが放送されるたびに、SNSのトレンドは大賑わいだ。
人気の秘密は時代のトレンドを見たキャラクターデザインと従来の宇宙世紀シリーズを平行世界とする独自ストーリー展開だ。これまでのシリーズを知らなくても作品に入りやすい。
一方で往年の「ガンダム」ファンは、意表のついた展開や作品に散りばめられたお馴染みのキャラクターやメカニックの登場に歓喜する。一昨年の「機動戦士ガンダム 水星の魔女」に続くシリーズ大ヒットは、「ガンダム」ブランドの底力を見せつける。
「ジークアクス」や「水星の魔女」のヒットで見落としがちだが、「ガンダム」は今、長期にわたり堅実にブランド価値を拡大している。現在の人気は一過性でない。
作品を生み、マネジメントするバンダイナムコホールディングスの決算資料からその一端がうかがえる。関連売上は過去20年にわたり伸び続けている。
【バンダイナムコグループの「ガンダム」シリーズの売上の推移】
2005年3月期 213億円
2010年3月期 346億円
2015年3月期 652億円
2020年3月期 781億円
2021年3月期 950億円
2022年3月期 1017億円
2023年3月期 1313億円
2024年3月期 1457億円
2025年3月期 1535億円
*バンダイナムコホールディングス決算説明会補足資料より作成
「今『ガンダム』シリーズは、同時にいくつ展開されているのか?」。ファンでもこれに答えられる人はほとんどいないだろう。「ガンダム」の成功には、異なるシリーズをいくつも同時展開する独自の戦略がある。
「ジークアクス」に加え、第2部製作が発表されている「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」、「水星の魔女」も引き続き人気が高い。フランスで制作するVR作品「機動戦士ガンダム:銀灰の幻影」、米国のレジェンダリー・ピクチャーズと共同製作する実写版ガンダム。2021年に再始動が突然発表された「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」のように、発表されていない水面下の企画もあるはずだ。
複数の「ガンダム」企画の同時進行は、数打てば当たると闇雲につくられているわけでない。むしろ明確な戦略があるはずだ。そのひとつが視聴ターゲットの違いである。
沢山あるシリーズは主に4つのカテゴリーに分けられる。
(1)若い世代を対象にした宇宙世紀以外が舞台のアナザーワールドのシリーズ
(2)ファーストガンダム世代を中心とした往年のファンがメインターゲットの宇宙世紀シリーズ
(3)ガンプラでのバトルなどを軸にするキッズ向けシリーズ
(4)海外視聴者に向け作られる作品
(1)はテレビで2クール(半年)、4クール(1年)など長めに放送するシリーズが多い。作品の起点である1979年の「機動戦士ガンダム」から続くフォーマットだ。当初は「Zガンダム」「ガンダムZZ」「Vガンダム」と宇宙世紀の続編だったが、94年の「機動武闘伝 Gガンダム」以降はガンダムのタイトルはつくが、宇宙世紀とは関連のない作品がほとんどだ。
これらの作品は、いわば大河ドラマで「ガンダム」のフラッグシップタイトルである。玩具企画と連動することで広告・宣伝も大きく打つ。玩具ビジネスが中心のためターゲットは若い世代である。主人公たちが低年齢の少年少女とされていることから、新しいファンの獲得を狙っていることも分かる。
(3)のガンプラを中心としたシリーズはさらに低年齢に向けたもので、複雑なストーリーを避け、玩具としての魅力をアピールする。
宇宙世紀を舞台にハードでシリアスなストーリーを描くのが (3)の作品群だ。近年の代表作は「閃光のハサウェイ」だろう。政治的な駆け引きも背景に重厚な作品づくりが際立った。「機動戦士ガンダムUC」「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」「機動戦士ガンダム サンダーボルト」などがこの流れにあり、作品数も豊富だ。メインターゲットは長年ガンダムを愛好する中高年、お馴染みのストーリーを大人向けの味わいで描く。
(4)の海外向け作品も「宇宙世紀×重厚なストーリー×リアル志向の戦闘・メカニック」が基本コンセプト。2024年にNetflixで世界独占配信されたCG作品「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」や企画進行中の実写版「ガンダム」などになる
コンセプトは(3)と似ているが、ターゲットはだいぶ違う。こちらはガンダムを知らない海外の視聴者にハード志向でアピールする。宇宙世紀ガンダムを知ってもらいたいとの狙いがある。(2)では宇宙世紀がファンのつなぎ止めであるのに対し、ここではファンのための新しい入り口になる。
こうして見ると「ガンダム」作品の自由さに驚かされる。決めごとさえ守れば、かなり自由に作品を組み立てられる。監督やスタッフのオリジナリティも発揮できる。
それは同じ作品でより多くの世代、地域を目指す「ワンピース」「名探偵コナン」「ハローキティ」などとかなり違う。これらがワンコンテンツ戦略であるのに対し、「ガンダム」は世代や属性に向けて作品を絶妙に細分化する。「ガンダム」はいくつもの作品を異なる人たちに届けることで、巨大なブランドを成立させている。
ここで「ジークアクス」に戻ってみよう。本作はどのタイプに当てはまるのだろうか。一見すると若い世代、新しいファンの獲得を狙ったアナザーガンダムの系譜に映る。予算が豊富なシリーズで、劇場先行公開といったビジネス枠組みからもフラッグシップタイトルであることも分かる。
一方でファーストガンダムを前提にした従来ファンが喜ぶ設定が多く用意されている。現在発表されているシリーズ1クール(3カ月)という短さも、(1)のタイプとはだいぶ趣が異なる。
「ジークアクス」は宇宙世紀を平行世界に押しこめることで、アナザーガンダムと同様に自由なストーリーを実現し、時代性をもった作品となっている。宇宙世紀を知らなくてもよいし、そこから宇宙世紀シリーズを探索すればさらに楽しめる。若いファンと往年のファンの両サイドのファンを獲得する。ここに「ジークアクス」成功の神髄がある。
バンダイナムコのビジネス戦略では、いつの時代も主軸の「宇宙世紀」を若い世代に向けてどう届けるかは課題になってきた。「ジークアクス」は若者と往年のファンを同時にとりにいくことで、そんな壁を楽々と飛び超える。
ファーストガンダムに登場するマ・クベ大佐ならきっと「これで宇宙世紀ガンダムは、あと100年は戦える」と言うのでないだろうか。

数土直志の「月刊アニメビジネス」
[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ) ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。
作品情報
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