2025年9月27日(土)19:00
【数土直志の「月刊アニメビジネス」】アニメ映画のヒットも左右する? 劇場スクリーン数とヒットの関係

「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」キービジュアル
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
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「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」「映画 名探偵コナン 隻眼の残像」「チェンソーマン レゼ篇」と、2025年の日本の劇場アニメは大ヒット作品が相次ぎ好調だ。近年の劇場アニメのヒットの巨大化の流れが続いている。ひと昔前なら、劇場アニメで興行収入が10億円を超えればヒットとされたが、現在は当初から数十億円の興行を期待する声もあがる。100億円超えの作品も珍しくなくなってきた。
こうした傾向はアニメファンの拡大と大衆化を反映するが、一方で劇場興行のシステムが変わったことも大きい。公開直後の最初の週末に映画館で300、400スクリーンを使った大型公開が増え、スタートでの人気や話題が大ヒットにつながることが増えている。
2020年10月に公開され、日本の映画史上最大のヒットとなった「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の成功の影響が大きい。当時はコロナ禍の真っ最中で劇場にて上映できる作品が少なかった。その結果、映画館のスクリーンのほとんどを、本作で埋め尽くことになった。もともと人気が高かっただけにファンがそこに押し寄せ、スタートで記録的な数字を打ち立てたのだ。それが社会現象としてニュースなどに取りあげられることで、話題と関心を増幅したのだ。
「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の大ヒット以降、公開初日により多くのスクリーンを確保してスタートダッシュをかける傾向が加速した。2022年の「ONE PIECE FILM RED」、近年ますます興収を伸ばす「名探偵コナン」シリーズなども、この仕組みで成功している。
こうしたやりかたが実現可能になったのは、2010年代以降のデジタルシネマ普及の影響が大きい。2000年代までは劇場映画の上映にはスクリーンごとにフィルムが必要だった。これが数百本となれば、制作コストの負担も大きい。そのため当初のスクリーン数はハリウッド大作などでもなければ慎重に見積もられた。しかしデジタル上映ではデータの複製で限りなくコストを抑えながら、いくつものスクリーンで同時上映できる。短期間のスクリーン拡大が可能になる。
それに映画興行は最初の週末3日間が勝負とする現在の初動重視の傾向が加わる。初動の観客動員はスクリーン数に大きな影響をうける。もしスクリーン数が少なければ、たとえすべての上映が満員になったとしても、大きな興行収入は稼げない。そこで公開日にどれだけ劇場のスクリーン数を押さえるかが重要になる。
ただ興行の大型化はプラス面ばかりではない。たとえスクリーン数の多くても、作品にポテンシャルがなければ客は集まらず、ヒットにつながらない。さらに初週末の観客が少なければ翌週からあっという間にスクリーン数は減られてしまう。
さらに重要なのは、作品の完成度や評価が必ずしも興行と連動するわけでもないことだ。傑作だけれどターゲットとするファンがフォーカスされた映画もある。そんな作品を200、300スクリーンで公開すると大きな劇場に観客が数人という現象もおこる。それは実際のファンの支持と関係なく、映画館からは売れない映画と印象をもたれるし、ファンの気持ちも傷つけかねない。同じ動員数でも限られた劇場に人があふれるほうがヒット感はでる。それが口コミというかたちで、さらなる集客につながり大きなヒットへと広がっていく。
本来であれば、作品の性格に合わせてスクリーン数が設定するのが、作品にとっても、観客にとっても、作り手にとっても幸せだ。20年前、細田守監督の出世作「時をかける少女」は当初6スクリーンの上映を連日満員にして口コミでその人気と評価を高めた。こうした小さくはじめて、大きく育てた例はほかにも少なくない。
昨今はオリジナル作品で知名度の必ずしも高くない作品が、数百スクリーン規模でスタートすることも多い。興行が10億円に達しなくても、十分ファンに支持されたと思える作品も少なくないのだが、興行規模の大きさと比較して厳しい評価をくだされがちだ。
スクリーン数の拡大には昨今のアニメ製作側の事情もある。アニメ製作費が高騰し、小規模公開では劇場が全部埋まっても製作資金が回収できないからだ。当初から興行赤字が決まってしまうビジネスプランをプロデュサーは選択しにくい。
それでも現在の一方向のスクリーン拡大主義に残念な気持ちになることも多く、この作品であればもっと劇場数を絞ったスタートがよかったのではと感じることはしばしばだ。

数土直志の「月刊アニメビジネス」
[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ) ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。
作品情報
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鬼となった妹・禰󠄀豆子を人間に戻すため鬼狩りの組織《鬼殺隊》に入った竈門炭治郎。入隊後、仲間である我妻善逸、嘴平伊之助と共に様々な鬼と戦い、成長しながら友情や絆を深めていく。そして炭治郎は《鬼殺...

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