2015年6月12日(金)19:00
スタジオコロリド最新作「台風のノルダ」新井陽次郎&石田祐康インタビュー!友情…つまり、ドラマを描きたいというところからスタートした企画
6月5日から3週間限定で劇場公開中の短編アニメ「台風のノルダ」。劇場用短編「陽なたのアオシグレ」や、ノイタミナ10thスペシャルアニメーション「ポレットのイス」を制作した、20代のスタッフが集まる新進気鋭のアニメスタジオ・スタジオコロリドによる最新作だ。また、スタジオジブリ時代に「借りぐらしのアリエッティ」や「風立ちぬ」などに参加したアニメーター・新井陽次郎の初監督作品ということで、国内外から大きな注目を集めている。
今回は、新井監督とスタジオコロリドの前作「陽なたのアオシグレ」で監督を務め、本作ではキャラクターデザインと作画監督を兼任した石田祐康氏に、制作の裏側と本作に込めた想いを語っていただいた。
――新井さんは、石田さんによる監督作品「陽なたのアオシグレ」では、キャラクターデザインと作画監督を担当していましたが、「台風のノルダ」ではポジションを入れ替えての制作になりましたね。どういった経緯なのでしょう?
新井: 「アオシグレ」の時は、ジブリにいた僕に石田くんが「一緒にやりたいね」ということで声をかけてくれた作品なので、僕が彼のお手伝いをする形になりました。その作業中に、僕の方から「監督として作品を作ってみたい」という話をしていたのが実現した形ですね。
僕の方ではふたつ企画を考えていて、ひとつは、今までのスタジオコロリドのカラーを踏襲した、幼い姉妹のお話。もう一本が「ノルダ」のもとになる、多少毛色の異なるものでした。どちらにしようかとても悩んだのですが、そんな中で石田くんが「YKK presents “FASTENING DAYS」を終えて、こちらの企画にキャラクターデザインとして参加してくれることになった。それなら、スタジオ全体にとって新しいチャレンジができるのでは? と考え、年齢層高めの視聴者を意識したこちらの企画(台風のノルダ)を制作することに決めました。石田くんがいなければ、できない挑戦でしたね。
――新しいチャレンジには石田さんの参加が不可欠だったんですね。新井さん、石田さん、お互いに「彼のここがすごい」と思うところはありますか?
新井:石田くんのことは「フミコの告白」を作る以前から知っていて、当時からひとりでアニメを1本作ってしまう、そのエネルギーと技術には感服していましたね。
ほかには、たくさんの作品から要素を抽出して、自分のフィルターを通してアウトプットすることがすごく上手です。作品に対する姿勢についても「見習わなければ」と思わせられることがありますね。
石田:新井くんは、幅広く取り入れるのはたぶん苦手なんです。でも、そのぶん一極集中型で、ひとつのことをとことんこだわって突き詰めていくタイプ。彼はもともと、僕のように子供のころから「アニメが大好き!」という人ではなく、高校時代は美術に興味があったんだそうです。にもかかわらず、わずかな期間であっという間に実力をつけてしまった。
器用なアニメーターではないと思いますが、一極集中であるがゆえに「これを」とお願いした時のポテンシャルの高さには、目をみはるところがありますね。自分とはタイプが違うので、補いあうことができているんでしょう。
――新井さんは、もともとは芸術志向だったんですか?
新井:もともと絵を描くことは好きだったので、高校卒業に際し、進路を考えていた時に「どうせならジブリで背景をやりたいな」と思ったんです。
石田:それは初耳! 「背景を」と考えるまで、美術方向に傾倒していたんだ!?
新井:そうなんですよ(笑)。そんな時に「交響詩篇エウレカセブン」と(メインアニメーターの)吉田健一さんの存在を知って、「こんなにキャラクターを魅力的に見せられるんだ」と衝撃を受けました。吉田健一さんは、アニメーターとしてももちろん素晴らしいのですが、世界観や画面の見せ方など「絵を描いている」と感じさせてくれました。画面全体として見せる絵作りを考えていらっしゃるんでしょうね。
そこからですね、キャラクターを描くことに興味を持つようになったのは。その後、僕はジブリでアニメ制作に携わることになりましたが、これも吉田さんの経歴をたどった結果です。
――では「ノルダ」の内容についてお聞きしていきます。本作で表現したかったことはなんですか?
新井:「台風によって、学校に閉じ込められてしまった」というシチュエーションを最初に思いついたんです。これは、幼少期に僕が台風に感じたワクワク感がもとになっていて、台風がもたらす空気感や、現象の荒々しさを表現できれば、おもしろいものに仕上がるんじゃないかと。
もうひとつは、男の子同士の友情。「素直に(思っていることを)伝えること」が本作の大きなテーマなんです。東と西条の友情を通じて「素直になれば、すれ違いや争いが少なくなる」ということを伝えられれば、と思っています。
石田:僕は「YKK」で一度キャラクターデザインをやっていますが、こちらは肩の力を抜いて携われた作品でした。一方、本作は新井くんが監督ということもあり、とにかく気合を入れなければいけませんでしたね。というのも、新井くん本人が一介の絵描きなので、彼のお眼鏡にかなうものにしなければいけません。また、コロリドというスタジオが持つカラーややり方もあるわけです。それらをクリアした上で、さらに「自分だったら、こう描きたい」あるいは「こう描いてきた」というのを整理しつつ、盛り込んでいきました。
時折、本作のキャラクターデザインは「ジブリっぽい」と言われることがあるんですが、ことさらジブリを意識しているわけではありません。僕はもともと「新世紀エヴァンゲリオン」の貞本義行さんや、先程も話題に登った吉田健一さん、ほかにも京都アニメーションからの影響を受けていて、元々は直線的な絵柄が好きだったところもあります。ところが、新井くんの柔らかい曲線的なデザインを見た時に「いいな!」と思ってしまって……。今回「ノルダ」をやることになったおかげで、新井くんが持つ柔らかいキャラクターの描き方を自分の中で整理できたような気がします。
新井:最近は京アニも柔らかい線の描き方になっていますから、(石田くんには)もともと柔らかい線を描く素地があったのかもしれませんね。
――「ノルダ」と同時上映の「アオシグレ」を続けて見ると、まったく異なる世界観が描かれていることがよくわかります。お互いの絵柄の違いなども意識した上で、作品の方向性を決定したのでしょうか?
新井:美術監督の西村美香さんが写実的な絵を描く方なので、それとマッチさせるには、ある程度の“エッジ”が必要だと考えたんです。もちろん、コロリドらしい柔らかさも必要ですが、それだけでは足りない。“エッジ”については石田くんに強くお願いしましたね。
石田:その塩梅にはジレンマがありました。エッジを効かせすぎるとどこかで見たような流行りの絵になってしまいますし。これまでの作品に比べ、線が多いこともあって、自分を含めたスタッフみんながとても苦労しましたが、それでもやれてよかったと思います。
――キャラクターデザインはどうやって決めていったのでしょうか?
石田:僕が悩んでいた時に、新井くんが方向性を提示してくれました。初期のデザインでは、東がメガネをかけていて、西条は絆創膏にソバカス、みたいなもっとヤンチャな野球少年だったんですよ。
新井:東は、髪が少し長くて目にかかっていたり、猫っ毛にすることで東の繊細さが出せるのでは? と考えましたね。一方、西条はまっすぐでわかりやすいヤツなので、キャラクターデザインもトゲトゲにしてくれ、とお願いしています(笑)。ノルダに関しては、ほぼ石田くんのイメージがすべてですね。ノルダの髪型は、途中でいつの間にか三つ編みになるんですが、これも石田くんが「やりたい!」と言い出したんです(笑)。
石田:新井くんから聞いていたノルダのイメージ“神秘的な少女”にできるかなと思ったんです。それだけ聞くとよくあるアニメ的ヒロインの姿が思い浮かぶのですが、かといってアニメアニメしたくないな、と考えた時に、あの“着物美人”的な三つ編みならばいけるのでは? と。
新井:三つ編みへの髪型の変化は、ストーリー上、ノルダが自身のコントロールを取り戻したことの象徴としても機能しています。きっと、故郷では三つ編みにしていたんでしょうね。
石田:三つ編みを編めるくらいだから、相当冷静になってるはず(笑)。
作品情報
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その少女は、台風にのってやって来た。
僕たちに「本当に大切なこと」を教えてくれた、不思議な少女との一夜の物語。
舞台はとある離島、文化祭前日の中学校。幼いころからずっと続けていた野球をやめたこと...
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