2018年2月26日(月)19:00
「さよならの朝に約束の花をかざろう」岡田麿里監督、堀川憲司プロデューサーの創作論 作品は人と人の関係性から生まれてくる
(C) PROJECT MAQUIA
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2月24日から公開中のオリジナル劇場アニメ「さよならの朝に約束の花をかざろう」。“別れの一族”と呼ばれる長命の血をひく少女マキアが、激動する時代の流れのなかで、人間の少年エリアルと絆を紡いでいくファンタジー作品だ。「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「心が叫びたがってるんだ。」などを手がけてきた脚本家の岡田麿里が初監督をつとめる本作は、どのように作られていったのか。ラインプロデューサーとして岡田監督と並走した、P.A.WORKS代表の堀川憲司氏にも同席してもらい、制作の経緯を聞いた。
――岡田さんから「監督をやってみたい」と堀川さんに話されたそうですね。なぜ監督をやってみようと思われたのでしょうか。
岡田:堀川さんと無駄話をしているなかで、「“100パーセント岡田麿里”の作品をいつか見てみたい」と言われたことがあったんです。それを私が変な方向に考えすぎたのが、最初のきっかけだったと思います。アニメは、どのセクションも人の手がかかっていないところがなくて、すごく時間のかかるものですから、基本的に誰かの100パーセントって存在しないジャンルだと思います。ただ、脚本はいろいろな方の意見で変更されていくことも多いので、「変更しない脚本」という意味で100パーセントを求めてくださっていた――ということが、本作の取材を一緒に受けていくなかで分かってきたんですけど(笑)、当時の私はそうは思わなかったんですね。私自身、アニメの脚本には、もっと挑戦できるところがあるかもしれないと感じていて、堀川さんのひとことをきっかけにいろいろ考えた結果、「(監督を)挑戦させていただきたい」と思うようになりました。
――「劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME」もオリジナルですが、その前にテレビシリーズがありましたから、本作がP.A.WORKS初の完全オリジナル劇場アニメになります。それだけでもチャレンジなのに、脚本家の岡田さんを監督にむかえるのは、かなりの冒険だったと思いますが、どんなお考えで現場をつくっていったのでしょう。いろいろ大変なこともあったのではないかと思います。
堀川:冒険と言っていただきましたが、自分としてはむしろ「新しいことができそうだ」という未知のものがないと面白みを感じないタイプなんです。完成形が最初から見えているようなものは、面白くありませんから。岡田さんが映画の監督をやるのならば、今まで見たことがないものができるのではないかという好奇心のほうが強くて、大変さというのはそんなになかったです。大枠のことでいいますと、ファンタジーという題材がちょっと敬遠されるところがあったので、そこに対して踏ん切りをつけるというか、企画を軌道にのせるまでに、けっこうかかったというのはありますけれど。
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監督をひとり据えたとき、ラインプロデューサーとして、現場がうまくまわらない大変さは、周りのスタッフが監督を監督として認めないというのが、ひとつあるんですよ。「この監督で大丈夫なんだろうか?」と思われてしまうと、とにかく(現場が)転がらない。その点、本作では僕と同様に、「岡田さんなら、何か面白いことができそうだ」と、真摯(しんし)な気持ちでみんな参加してくれました。こうした部分は、プロデューサーから仕掛けづらい部分なんですよね。やっぱりクリエイターは、「あなたはこの仕事で契約したのだから、やってください」というロジックだけでなく、作品自体にのってもらわないと、やっていけないものですからね。本作で核になってやってくれている人は、自分がもっている能力を監督が引き出して、新しいものができるだろうとの思いを強くもって参加しているので、そこは自然に転がっていきましたし、そこさえ転がっていけば、そんなに大変なことはないと思っていました。
――岡田さんは、監督として具体的にどんなことをされているのでしょうか。
岡田:監督をやらせていただく条件として、堀川さんから「すべてのパートとかかわりなさい」との話をいただきました。具体的には、作打ち(作画打ち合わせ)など、すべての打ち合わせにでるということです。最初は分からないことだらけでしたが、自分にとってはよかったと思います。皆さんがどのように仕事に取り組まれているか知識としてはあっても、実際のところは分かっていなかったことも多々あって、現実と想像ってこんなに違うんだなと。
作業の割合としては、レイアウトや原画のチェックが多かったです。メインスタッフの部屋に席をいただいて、まわりの鉛筆の音を聞きながら、自分も久しぶりに鉛筆をもって作業しました。普段は家にいて、ひとりで仕事をしているので、みんなでひとつの場所にいるというのがすごくよかったですし、最後まで作品の側にいられることもうれしかったです。
――脚本のお仕事ですと、シナリオが決定稿になったあとは、制作スタッフに委ねることになるわけですものね。
岡田:例えば、その日の自分の仕事が3時間で終わったとしても、その場にいてスタッフとお喋りをしていると、作品に関する思わぬ突破口が生まれることがあるんです。そういうときに、堀川さんが言った言葉の意味が分かってきました。作品って、人と人との関係性のなかで生まれてくるんだなと。
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――堀川さんは、現場のプロデューサーとして、新人監督の岡田さんの仕事ぶりをどうご覧になりましたか。
堀川:新人らしからぬ仕事ぶりだったと思います。デザイナーや作画監督、美術監督といったスタッフたちの仕事の「ここがいい部分だ」と、彼らの力を見抜くのが上手いんですよね。脚本家として、過去に一緒に仕事をしてきた人もいるのですが、そうした部分を的確に見ていたんだなと。
最終的な映像のビジョンがカチッと決まっている監督の場合だと、スタッフに対してもそれをガチッとあてはめて「こうしてくれ」となることが多いのですが、岡田さんの場合は、スタッフたちに自由度を与えて委ね、彼らがやりたいように遊ばせて、そこから自分がほしいものを引っ張り出す部分が多かったように思います。引っ張り出すときも、スタッフにイマジネーションを働かせるような言葉で刺激を与えるのが上手い人だなとも思いました。「ああ、彼や彼女のあそこが良いところだったんだ」と僕も気がつかないようなところを岡田さんは見ていたんだなと。これって、なかなか難しいことなんですよ。例えば、デザインについてそういうところを指摘するとき、相手が自分でも良いと思っているところでないと(言葉が)響かないわけです。そういう部分を上手く刺激しながら、くすぐっていくのが上手いなと思いました。
――岡田さんが言葉で上手く刺激したのは、例えばどんなセクションの仕事なのでしょうか。
堀川:多くは、設定やデザイン関係、あとは美術の部分ですかね。各パートの演出で緻密にやっていく各原画というより、作品のコアになっている人たちの仕事です。そうした部分が引っ張りあげられると、作品トータルの印象や世界観が大きく変わってくるんです。そういう部分で「あ、そこを見ているんだな」って思うことが多かったですし、なかなか面白い挑発の仕方をするなと(笑)。良い部分を引っ張りあげるのが本当に上手くて、相手にクリエイティブな余地を残しつつっていうのがすごく大事なんですよね。
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