2018年3月3日(土)19:00
「映画ドラえもん のび太の宝島」今井一暁監督 動きそのもので楽しませる工夫と、のび太の見せ場 (2)
(C) 藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2018
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――本作は、今井監督にとってもはじめての長編映画になります。ご自身のなかで、こんなことをやってみようというのが、もしありましたら聞かせてください。
今井:そうですね……。作品とのバランスをとるのが難しいんですけど、作り手が考えていることや「これが面白いんだ」というものは、やっぱり嘘をつくことなく入れたほうがいいだろうなとは思っています。そういう意味でいうと、僕には5歳になる息子がいまして、妻も働いているので、現代によくある共働きの夫婦であり、子育て中のパパでもあるんです。なので、監督のお話をいただいたときは、子どもをどちらが見るかとか、仕事とどう両立させるかといったところで、すごく悩んでいたというか、自分自身のいちばんの関心事だったんです。そういう自分が実際に経験していることだったら、嘘偽りなく映画の中に入れられるんじゃないか、そういうところを入れられたらいいなとは思っていました。
ただ、それをやりすぎてしまうと、なんだか説教くさくなったり、テーマ性ばかりが前面にでてきてしまったりしますし、何より「ドラえもん」らしくなくなってしまいます。それは避けたかったので、あくまでのび太たちのワクワクハラハラする冒険という筋をきっちりと維持しつつ、今回サブストーリー的なところでシルバーという悪役を登場させていますが、そういうサブ的な話のなかで、今お話したようなことを織り込めたらいいなと考えていました。そのバランスは本当に難しくて、ともすると暴走するんですよ。自分の体験ですから描きやすいですし、あれもこれもとなってしまって。そこは僕も気をつけていたつもりですが、見ている人が何を求めて、どういうものが楽しいと思うかという観客目線を忘れないよう、脚本の川村さんをはじめとするまわりの方々が、常に引き戻してくれました。
――シルバーをめぐるドラマに呼応して、のび太とお父さんの関係がフィーチャーされているのも印象的でした。
今井:たしかに、普段の「ドラえもん」ですと、野比ママ(※野比玉子)と比べてそんなに野比パパ(※野比のび助)はでてこないですよね。子どもにとってはやっぱりパパよりはママだと思いますし、作品としても、お父さんは家族のなかにデンと座っているようなイメージなのですが、今回は僕が子育てパパだったこともあってパパにも出張ってもらい、のび太との関係みたいなシーンを少しつくらせてもらっています。ただ、パパと息子だけではなく、もちろんそこにはママがいるわけで、映画の最後のところでは、のび太とパパが和解するのを、「やれやれ」と思いながら、こそっと見ている野比ママがいるんですよね。「しょうがないわね、男は」みたいな(笑)。
――なるほど(笑)。
今井:今お話したあたりは、僕が実感している今の親子関係への思いが、ちょっと入っているところかもしれません。今は共働きをしている家庭が増えていて、たぶんみんな同じような悩みを抱えていると思うんですよね。そういう現代ならではの部分を、38本目になる「映画ドラえもん」の1本としておりこむのは意味があるんじゃないか。そうした部分を信じてつくったところでもあります。
テーマ的なところでいうと、のび太くんについてもいろいろ考えました。のび太くんは勉強も運動もできない、基本駄目なキャラとして描かれていますが、そんな彼が活躍する意味、彼がもっている強さとはなんなのか。これは何度もお話していることなんですけど、「のび太の結婚前夜」という藤子(・F・不二雄)先生の大名作がありまして、結婚の前日に不安になっているしずかに彼女のお父さんが、「あの青年は人のしあわせを願い、人の苦しみを悲しむことのできる人だ」「のび太くんを選んだ、きみの判断は正しかったと思うよ」と告げる、素晴らしいセリフがあるんです。ここで言われている共感力というか、人の苦しみを自分の身におきかえて考えられるのが主人公であるのび太くんの素晴らしさなんですよね。そこに、藤子先生の弱者を絶対に裏切らない、弱者の味方であるスタンスを見てとれるような気もしていて。そんなところも本作では出せたらと思っていました。
(C) 藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2018
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――見ていて、いちばんハッとさせられたのはクライマックスの場面でした。シルバーの手によって危機的な状況になったとき、まずドラえもんが飛び込んでいって、その後、のび太が走っていくところがありますよね。作画的にも大変な手間がかかっていると思いますが、どうしてああいったシーンをつくられたのでしょうか。
今井:今言っていただいたところは、のび太くんの見せ場ですよね。身の危険をかえりみず、いつもは何もできない彼がヒーロー漫画の主人公のような大胆な行動をとりますが、ここはシナリオ会議でも、どうしようかとずいぶん話しあったところです。自らの正義ゆえに視野がせまくなっている敵役のシルバーの心には、なまなかなことをのび太くんにやらせたのでは届かないだろう。また、クライマックスとしてのび太の活躍を描くときに、武器をもって戦うこともやりたくなかったんです。そんななか、のび太くんの感情をすごく出せるようなシーンをつくろうと考えて、あのようなかたちになりました。
――ちなみに、のび太が走っていくところは、どなたが作画を担当しているのでしょうか。
今井:小島崇史さんです。亀田さんも、「小島さんならお任せできる」と言われてました。
――「フリップフラッパーズ」のキャラクターデザインや、他の作品でも印象的な仕事をされている方ですね。その手前のドラえもんが踏ん張るところもですか。
今井:前後はまた別の方で、小島さんには、のび太が駆けおりていく長い1カットだけを担当してもらいました。お話的にも大事なところですし、エネルギーのあるスペシャルなカットになったんじゃないかと思います。ほんとに大変な内容のカットをおさえていただきました。
今回は「ドラえもん」としては珍しく3DCGをけっこう使っているのですが、のび太が駆け抜けていくところって、3Dでつくった空間にうわーっと落ちていって、途中から小島さんの全原画になるじゃないですか。そこからまた3Dに戻っていくという、作画と3Dのいいところを同時に見せられたんじゃないかなと、一連のシーンはそういう意味でもうれしく思っているところです。
――今日は試写会の合間をぬってお話をうかがっていますが、公開を間近に控えて、今どんなお気持ちでしょうか。
今井:もう自分では客観的に見れないんですよね。制作中に、何度も繰り返し見て作りこんでいるので、もう何が面白いのかどうか分からなくなってしまって(苦笑)。初見の方が、この映画を見てどう思われるのかは、まったくの未知数ですし、僕自身、劇場長編ははじめてなので、そのあたりの手ごたえはまったく分からなくて……。ただ、初号を見たスタッフの反応はよくて、「すごくよかった」と言ってくれているんです。一緒につくってきたスタッフがいいと言ってくれているのは、やっぱりうれしいですし、その部分では手ごたえを感じています。まずはスタッフに面白いと思ってもらえるものをつくれたのは、よかったんじゃないかなと。
――5歳の息子さんに、映画を見せる予定はありますか。
今井:今日、妻と一緒に来てもらっているんですよ。ただ、うちの子どもは、今のところあんまりアニメには興味がなくて、見せれば見るんですけど、ネイチャー番組とかのほうが好きな子なんですよね(苦笑)。映画の制作中、とくに後半のほうは、ほとんど家に帰れない状況で、子どもにはさみしい思いをさせたでしょうし、妻にも負担をかけていたと思います。そんななか今日は一緒に見にきてくれて、ホッとしています。あとで、「映画どうだった?」と聞いて、「面白くなかった」と言われたらどうしようって思ってますけど(笑)。公開されたら、やっぱり子どもたちの感想をいちばん聞いてみたいですね。
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