2019年1月1日(火)12:00
新春アニメプロデューサー放談 KADOKAWA・田中翔氏×東宝・吉澤隆氏(前編)アニメ村でおきつつある“明治維新”
謹賀新年。今年7月に開設5年目をむかえる「アニメハック」を、今年もどうぞご愛顧ください。
平成から新しい元号へと替わる節目の年であり、1年後には東京オリンピックをひかえる2019年。昨年行った新春企画から少し趣向を変えて、アニメプロデューサーの田中翔氏(KADOKAWA)と吉澤隆氏(東宝)による前後編の対談をお届けする。吉澤氏がGONZO、田中氏がハピネット在籍の頃から10年以上の交流があり、「月刊少女野崎くん」の企画立ち上げ時にも縁のあるふたりに、日々アニメの製作に携わるなかで感じていることを忌憚なく語ってもらった。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
―― 田中さんにとって、2018年はどんな1年だったでしょうか。
田中:もう終わってしまったのかと思うぐらい、あっという間にすぎた1年でした。自分としては仕込んでいた2本のオリジナル作品が世にでていったのが大きくて、それなりに修羅場も経験しましたが、新たなノウハウを蓄積することができました。
―― 昨年の新春インタビュー で、「宇宙(そら)よりも遠い場所」と「多田くんは恋をしない」の2本がどう受け止められるかで今後の仕事のやり方が変わってくると話されていました。その辺りはいかがでしたか。
田中:自分の思惑どおりだったところと、もっと頑張らなければいけないなと感じるところの両方があった感じです。どちらの作品からもたくさん得るものがあったので、それを活かして次は何をつくろうかなと考えています。ただ、2018年に流行ったオリジナルアニメはおそらく「ゾンビランドサガ」だと言われるでしょうから、そこは個人的に悔しいです(笑)。
吉澤:年の最後にまくってきましたからね。僕は、宮野真守さんのあのお芝居が聞けただけでも満足です。
田中:宮野さんのお芝居よかったですよね。次にオリジナルアニメをつくったときは、自分も最初に主人公を交通事故にあわせなければ! と思いました。
一同:(笑)。
―― 放送直前までストレートなゾンビものであるかのように宣伝して、ふたを開けたら佐賀が舞台のアイドルものだったのがよかったですよね。オンエアまで隠し通して、あの1話をやったのが功を奏した印象です。
田中:仕込みって大切ですよね。僕が去年やったオリジナル2本はほとんど何も仕込まずにど真ん中ストレートだったので、次はあっと驚く何かを仕込んでやろうと思います。
―― 吉澤さんは、2018年を振り返られていかがですか。3部作の「GODZILLA」が完結したのが大きかったと思いますが。
吉澤:企画から4年半近くかけ、やっと終わったという感じですね。SFもののオリジナルを、いちからつくるのは本当に大変で、今振り返ると、企画当初その辺りを甘く見ていたところがあったのかもしれないです。設定の量など尋常でないぐらい多くて、このままでは完成しないのではないかという瞬間もあったぐらいでした。
―― そんなに物量が多かったのですか。
吉澤:いろいろなプレッシャーがあったであろうなか、ポリゴン・ピクチュアズさんが頑張ってくださったおかげです。僕としては、5年、10年後に違った見方をしてもらえるようになってくれるとうれしいですし、これから先も続いていく「ゴジラ」シリーズのなかで、何かしらの爪あとを残せたのではないかと思っています。
―― おふたりは、それぞれのお仕事をご覧になっていますか。
吉澤:オンエアを見ていると翔さんの名前をよくみます。今、現場をどのぐらいやっているんですか。
田中:1クールに2本〜3本ぐらいですかね。2019年は10本くらいあるので、なるべく部下に任せながら極力サボりたいのですが、年始にしてもうすでに疲れてきています(笑)。
吉澤:僕は、翔さんのモチベーションの源泉が知りたいです。今の状況だとメーカーはいろいろと苦しいところがあるじゃないですか。メーカーの先入観にとらわれた企画の立て方をすると足元をすくわれてしまいかねないというか……。今はメーカー以外の人たちのほうが先入観なくアニメをつくっているところがありますよね。商品仕様などもふくめて、メーカーとしては「これをやられたら、たまらない」ということをやられていて。
田中:難しい話ですよね。アニメビジネスは今なかなかピンチですから。6~7年ぶりぐらいにピンチの時代が到来して今後どうなるかという……。去年に続いて、年明けにふさわしくない暗い話題で申し訳ないのですけれど。
吉澤:ただやっぱり、お客さんがそちらにいくのも正義だと思うので、その辺りは僕らもしっかりしていかなければと思っています。去年のインタビューで翔さんが言っていた「ビデオグラムを買ってくれるような作品をつくることがまずは大事だ」というのは、まさにその通りだと思うのですけれど。
―― 昨年、田中さんはブルーレイやDVDを買ってもらうビジネスは厳しくなりつつあるけれど、今でもそこが根幹であることは変わらないと話されていました。1年経っても、その考えは変わりませんか。
田中:そうですね。すごく無責任な言い方をすると、パッケージを買わないってことは、所有欲を刺激するほど強い魅力がないってことなんだと思います。
吉澤:うーん……。
田中:国内に限れば、アニメーションにお金を払ってくれるユーザーの習慣や購買行動のようなものは、昔からさほど変化していません。例えば今までパッケージを買ってくれていた人が配信に流れて、どんどんお金を払ってくれているかといえば、そんなことはないですから。とすれば、考えられることはひとつで、買いたい! と思わせることができていないんです。我々は所有欲を刺激する魅力的な作品をつくっていかなければならないのだ! という話はさておき、直面しているピンチはまた別のお話だったりします。市場が違えば、ビジネスの考え方もまったく違うだけで、買いたいと思えないなら、買いたいと思えるものを用意すればいいじゃないというものだったり、そもそもモノではなく、サービスとして売ってみたりと、まったく違うアプローチで攻めてくる新興勢力に殺されかけているという。吉澤さんが言われたように、いわゆる閉じた“アニメ村”に“黒船”が乗り込んできて、ワーッとなっている感じなんですよね。メーカーの人間からみた話ですが。
吉澤:こんな例えでいいのか分かりませんが、今は明治維新みたいな感じですよね。鎖国がとかれかかっているという(笑)。
田中:そうかもしれません。文化の違いと言って逃げたいところですが、ユーザーにとってみれば、どれもみな同じアニメですし、結局は泣き言でしかないんですが。
吉澤:彼らは別にパッケージを売らなくていいですからね。映像さえ流れればOKな場合もあって、パッケージは出さないという選択肢すらあります。
田中:終着点というか出口が違いますからね。我々と見ているゴールがまるで違っているから、そもそも同じ土俵ではなかなか戦えないという。
吉澤:今のアニメの一部は、おもちゃを売るためにつくられたかつてのアニメのように、昔のモデルに戻っているところがあると思います。僕らはプロモーションとして完成した映像を見てもらい、そのパッケージにお金を払ってもらうやり方でやってきましたが、今の外部の人たちはおもちゃに変わる“何か”に目的をシフトさせているからパッケージの売り上げに頼らなくていいんです。
田中:映像そのものを商品にしないビジネスですよね。そうしたビジネスが台頭しつつあって、映像というか、モノを売る我々のような業界にとっては危機的な状況といいますか。でも、もしかしたら、「みんなでそうなりましょう」ということなのかも……。その答えはまだ分かりませんが、今はただ我々の“村”が破壊されつつあることは確かかなと。
吉澤:明治維新でいうところの長州藩や薩摩藩が、僕らの村からでてくるかもしれないですよね。どこが幕府だって話になりますけど(笑)。
田中:(笑)。僕らは今の状況にあらがうよう戦っているつもりですし、何か裏をかけないかみたいなことは、常に考えているんですけれど。
吉澤:ただ、ユーザーの選択肢が増えていること自体は、とてもいいことだとも思うんです。これまでの話は僕らの事情であって、アニメがなくなるなんてことはないですし、単にテレビアニメの製作事情が変わりつつあるという感じで。
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