2018年1月1日(月)12:00
新春アニメプロデューサー放談(1)KADOKAWA田中翔氏 「パッケージが売れる作品を作りたい」
謹賀新年。2018年7月で開設4年目をむかえる「アニメハック」を、今年もどうぞご愛顧ください。
数多くのアニメ作品が世に送りだされ、さまざまなトピックがあった17年。アニメファンや作り手にとって、18年はどんな1年になるのだろうか。新春特別企画として、アニメメーカーのプロデューサーたちに、昨年を振り返ってもらいながら、今年の展望を語ってもらう短期連載をスタート。第1回(※)は、1月2日から放送がはじまる「よりもい」こと、「宇宙(そら)よりも遠い場所」を手がけるKADOKAWAの田中翔プロデューサーに、自身が感じるアニメ業界の現状から、ビジネス面でもっとも大切にしていることなど、思うところを率直に語ってもらった。
※掲載順は、原則取材を行った順
取材・構成/五所光太郎(アニメハック編集部)
――2017年は、「幼女戦記」や「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」など、たくさんの作品を手がけられてきました。振り返ってみて、どんな1年だったと思いますか。
田中:新年早々、暗い話題で恐縮ですが、アニメ業界的には危機的な1年だったのかなと思います。パッケージの数字も非常に厳しく、これまでのビジネススキームが本当に通じなくなってきたと感じることが多かったです。そうした現状のなか、自分の中では明確な意図をもって、実験的なタイトルを手がけてきたつもりで、その中からヒットしたものや、原作が売れるものがあったのはよかったなと思っています。個人的なことでいうと、「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」で、人生初の新作劇場アニメをやれたのは大きく、忘れられない仕事になりました。死ぬ間際にもう一回思い出すぐらいの経験をさせてもらったと思っています。
――「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」は、ご自身の中で、かなり大きなお仕事だったのですね。
田中:新作劇場アニメをやることができたら、(アニメの仕事を)辞めてもいいぐらいに考えていた大きな目標でした。自分のなかで、ひとつ区切りがついた思いです。そんな「ノーゲーム・ノーライフ ゼロ」のブルーレイとDVDが2月23日に発売されますので、皆さんぜひ買ってください!(笑)
――17年のKADOKAWAさんの作品は、「メイドインアビス」もすごかったですし、放送中の「少女終末旅行」も1話を見て、少女2人が戦車に乗りながらしゃべるだけという挑戦的な内容と、このクオリティで1クールやるのかと驚かされました(注:この取材は17年11月末に行われた)。いい意味で、ちょっとどうかしている作品だなと感じましたし、非常にとがった作品を作られている印象です。
田中:そう感じていただけたのでしたら、ありがたいです。自分が面白いと思える作品を、同じように面白いと思っていただけたことは非常にうれしいことです。いつも独りよがりにならないように、この面白さが他の人たちにはどう映るのか、客観的な視点を忘れることなく企画や作品を作ってきた積み重ねが、結果となって表れてくれたことは大きな前進だったと思っています。自分自身、つねにそうしたスタンスで作品づくりに臨んできたつもりではありますが、特に(17年)1月番の「幼女戦記」などは、企画段階で想定した以上に多くのユーザーの皆様に好評をいただくことができました。また、社内的な話になりますが、自分が所属するアニメ第二企画開発課は、旧メディアファクトリーのチームということもあり、良くも悪くも自由な人間が多く、旧角川書店のチームである一課で行っているアニメ作りとは自然に差別化されていく傾向があります。もちろん意識的に少し毛色の違ったものをやっていこうという思いもあって、「メイドインアビス」などはそれらが顕著にでたタイトルだと思います。いろいろな意味で一皮むけた素晴らしい作品だったなと。
――「メイドインアビス」も「少女終末旅行」も、これだけの映像がテレビで毎週放送されているのはすごいとしか言いようがなくて、ちょっと怖くなってしまうぐらいでした。
田中:ありがとうございます(笑)。皆さんが、あまり見たことがないジャンルや要素をもつタイトルで、かつアニメ化して面白く見られるものを原作に選ぶ。制作にあたっては、できるかぎりクオリティを高くしていく。12年にKADOKAWAに転職してから、そうしたことをずっとブレることなくプランニングの前提として、企画、制作を行ってきました。そのかいもあって、徐々にではありますが、メーカー独自の色みたいなものを感じていただけるようになってきたと思っています。例えば「少女終末旅行」は、アフレコ現場が基本2人というTVアニメとは思えない現場でしたからね(笑)。
―― たしかにそうですよね。
田中:原作がメッセージ性にあふれていることもあり、メインキャストが2人でも、きちんと考えて作れば、違和感なく30分を楽しく見ていただけるはずと信じていました。オンエア開始前は少々不安もありましたが、できあがりは胸を張れるものでしたし、皆さんの反応を見ている限り、飽きることなく楽しんで見ていただけたのかなという感触をもっています。
―― ご自身の作品から離れて、17年に印象的だったアニメ関連のトピックスはあったでしょうか。
田中:こんな答えで申し訳ないのですが、17年は、とりたてて目新しい企画がない静かな1年だったように思います。特段新しいことをしているタイトルもなかったですし、過去に大ヒットしたタイトルの続編もいくつかありましたが、期待に応えるどころか、話題にさえならないものがあったりと、何年かごとにある変換期といいますか、これまでの考え方をあらためざるをえない力不足を痛感する1年でした。
―― なるほど。
田中:おそらくユーザーの皆さんも同じだと思います。「2017年は、どんなアニメを見ていましたか」と聞かれても、「何をやっていたんだっけ」と迷ってしまうような……。これは個々のタイトルのよしあしの話ではなくて、そういう1年だったという話ではありますが。なので、自分としてはセオリーにのっとったルーティーンで作品を作っていくのではなく、これまで見たことのないものだったり、別の楽しみ方をあたえてくれたりするような目新しいタイトルを作っていかないといけないなと、あらためて強く感じました。そのなかで、手前味噌ながら、自分のチームの部下が作った「メイドインアビス」は別格の動きができたタイトルだったんじゃないかと思います。もともと、あの原作は、僕と部下が社内コンペで争ったタイトルなんです。
―― そうなんですか。
田中:原作元の竹書房さんにアニメ化を提案するにあたって、自分と部下の山下(愼平)でコンペをして、自分が負けるっていう(笑)。彼がキネマシトラスさんで映像化する案をだして、それが通ったかたちです。できたものを見ると、あれ以上のものは作れなかっただろうなと思えるほどのハマり具合で、結果的に彼の案以上の正解はなかったと思っています。
―― ビジネス面の話も聞かせてください。最初にパッケージが本当に売れていないとの話がありましたが、ここ数年、海外向けの配信や劇場でのイベント上映などの試みが実を結びつつあるようにみえます。そのあたりについて、どうお考えですか。
田中:「パッケージビジネスは崩壊する」と言われながら、もう10年以上経っていますよね(笑)。「するする詐欺」じゃないですが、今でも十分残っているじゃないかとツッコミを入れたい気持ちもあります。とはいえ、事業の割合としては徐々に変わってきている状況だと感じています。最近ですと、国内ではとくに話題になっていないタイトルであるにも関わらず、例えば「海外(向けの配信や販売)で高く売れました」みたいな、事業体(製作委員会)としては上手くいってしまっているタイトルがたくさんあります。弊社も国内でパッケージが売れたかというと、けして芳しくはないけれど、リクープはしている。そうしたタイトルに16年度から17年度にかけては助けられた印象がありつつ、さらに17年度はそこも落ち込みはじめて、パッケージもさらに厳しくなっているという……正直、八方塞がりなんじゃないかと思ってしまうような状況ではあります。
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