2019年1月1日(火)20:30
新春アニメプロデューサー放談 KADOKAWA・田中翔氏×東宝・吉澤隆氏(後編)アニメは人の手と気持ちでつくられている
アニメプロデューサーの田中翔氏(KADOKAWA)と吉澤隆氏(東宝)による対談の後編では、プロデューサーの大きな仕事のひとつである企画にたいする考え方や、スタッフワークについての赤裸々な話題が展開。2018年に発表されたタイトルのなかで、特に印象に残ったものもあげてもらった。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
――1月に総集編が劇場公開される「メイドインアビス」もそうですが、田中さんのチームが手がける作品はどれも、テレビシリーズでここまでつくりこむのかと思うものが多い印象です。何か秘訣はあるのですか。
田中:僕らにできることはそんなになくて、あるとすれば、制作会社さんが一生懸命作品に取り組むことができる環境をつくることくらいです。こちらから働きかけて監督のモチベーションは上げられるかもしれませんが、監督ひとりでできることは限られていますし、やっぱりアニメはみんなでつくっているものですから。
吉澤:プロデューサーの力だけでクオリティが大きく上がることはないですよね。僕らがものをつくっているわけではないですから、そう考えること自体がおかしなことだと思っています。できることといったら、現場の相談に乗ることぐらいですよね。
田中:ただ、もし言えることがあるとすれば、シンプルにスタジオがやりたいものをつくっているからというのはあるかもしれません。そして、制作進行のひとりひとりまでが作品を深く理解していて、他のスタッフにたいして「もっと良いものにしましょう」と言える現場だと、良いものができあがっていくケースが多いと思います。
今お話したような部分はスタジオごとにカラーがあって、「こんなアニメがつくりたい」という志向も、「将来は何々になりたい」みたいな各人の目的もまちまちです。そうしたスタジオの特色にマッチしていて、スタッフみんながやりたいであろう企画を提示するのも我々の仕事の一部です。ただ、それがいきすぎると、「つくっている側は楽しいけれど、ユーザーはまったく興味ないよね」というものをたまにつくってしまうこともあるのですが(苦笑)。
吉澤:作品がまわりからどう見えているかを考えるのも、僕らの大事な仕事ですよね。ユーザーに見てもらうためにつくっているわけですから、その視点で見て100パーセント違うと思ったときには全力でとめなければいけない――。
田中:才能にあふれたスーパークリエイターほど、自分の人生の満足度のためにつくることになりがちですから、その辺りのバランスはなかなか難しいですよね。個人的には、自分以外の大勢の人間が見たときにどう思うのかを考えなくなったフィルムは駄目だと思っています。
――どんな方向にいったとしても、スタッフが愛着をもって楽しんでつくっていると感じられるものがファンに響くときもあると思います。
田中:たしかにそういう面もあります。数字的には厳しかったとしても、そこから新たな仕事につながって花開いたり、ユーザーの心に深く残っていたりすることもありますから。
吉澤:スタッフの人たちがやりたかった企画や、大変ながらも楽しんでつくった作品は、打ち上げのときの雰囲気がだいぶ違いますよね。
田中:そうですね。誰ひとり欠けることなく集まって朝までワイワイ騒ぐものもあれば、残念ながらそうでないものもある。ただそれは結果論で、どのタイトルも誰かが命をかけてつくりたいと思ったからこそ生まれてきていて、適当につくられているものはひとつもないはずだと思いますが。
吉澤:僕らがそこを失ってしまったら、やる意味が本当になくなってしまいますよね。それこそ「映像が売れなくても○○が売れればいい」みたいになってしまうと、もう楽しくありませんから。
――それだけアニメをつくるのは大変で、強い思いがないとつくれないということなのですね。
吉澤:思いがなくてもつくれてしまうのかもしれませんが、やっぱりそれはフィルムに出てしまうと思うんですよ。「ああ、これは誰もノッていないのかもしれないな」と。そういう作品は不幸だなと思います。
田中:「もうちょっとだけやろう」「時間はないけどここだけは直そう」みたいな小さな積み重ねがフィルムにでるんですよね。思い入れが少ないと「まあいっか」となってしまいがちで、これはいろいろな要因がありますから、しょうがないところもあるんですけれど。どうしても人間の手でつくるものですから、良くも悪くも自然と気持ちが入っていくんですよね。「まあいっか」のレベルをどこまであげられるのか、それが重要だと思っています。
吉澤:アニメーションの語源は「アニマ=魂」というぐらいですものね。
田中:作業でアニメがつくれたら苦労はないのですが、今も昔もアニメの要は“人”です。そして、そんな“人”を動かすのは、やっぱり“気持ち”なんですよね。美味しいご飯を食べればやる気はでるかもしれませんが、そこからさらにもう一歩を踏み出すには、己のモチベーションが作品に向いていなければ難しいと思います。
作品情報
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隅々まで探索されつくした世界に、唯一残された秘境の大穴『アビス』。どこまで続くとも知れない深く巨大なその縦穴には、奇妙奇怪な生物たちが生息し、今の人類では作りえない貴重な遺物が眠っている。「アビ...
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