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インタビュー 2019年8月5日(月)19:00

「天気の子」を“みんなの映画”にするために新海誠と川村元気が考えたこと (2)

(C)2019「天気の子」製作委員会

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――ビジュアル面でいいますと、東京各地の建物や店、食べ物や小道具、メーカーのロゴなどがほとんど実名ででていて、それが今の東京を感じさせる迫ってくるようなリアリティにつながっていると思いました。これを実現するのには、大変なご苦労があったと思います。

川村:観客としても、有名チェーン店などを、ちょっと名前をもじってだしているのを見るのが好きじゃないんです。なんだか醒めてしまうんですよね。実写映画のときも、美術については許可をきちんととって、なるべく本物を使うことを心がけています。
 新海さんの作品は、普段みんなが見ている日本や東京という街にある生活そのものを描いて、それがアニメーションになることで不思議な異化効果をひきおこすところが大きな魅力であり、武器でもあると思っています。そのために丹念に許可をとる作業をやっていて、スタッフの皆さんは大変だったと思います。

新海:本当に大変だったと思います。「天気の子」では、許可とりの作業をするプロデュースチームの現場と、それをかたちにする美術や2Dワークの現場のあいだで、いつも以上に密なやりとりをしていました。美術背景や小道具にあるロゴひとつとっても、許可がおりないと画面にだすわけにはいかないですから。
 企業のロゴや商品のデザインというものは、時間や労力、デザイナー等の才能を費やし、企業や商品を代表してつくられた、ひとつの芸術だと思います。それをちょっとだけ変えて気軽に画面にだしても、やっぱり現実から数段おちる表現にしかならないんですよね。なので、僕としては全部現実のものにしたいですけれど、いろいろな理由でそうはいかない場合もあります。そのときは現実にあってもおかしくないぐらいのクオリティを架空のものでつくらないといけません。

川村:そうなんですよね。

新海:現実にあるものはそのまま生かせたほうが、画面の格が何段もあがりますし、川村さんが言われたような「生活の実感」もよりでます。なので、許可をとる作業をしていただきながら、難しいと分かったものは頑張って架空のものをつくっていく、時間との勝負の面もありました。アニメーションの制作現場、許可をとるプロデュースサイド、どちらのスタッフにも大変な苦労をかけましたが、やった甲斐はあったと思っています。

――「天気の子」は公開11日前に完成するまで、新海監督のツイッターなどでリアルタイムに状況を報告されていました。なぜ、ここまでかかることになったのでしょうか。

新海:制作当初から、7月までかかるであろうことが分かっていたんです。「君の名は。」公開直後の段階から、これだけの物量があるものを3年後の夏に公開するのならば、ギリギリまでつくることになるであろうことはわりと最初に見えていて。そんななか、川村さんや宣伝チームが考えられたのが、試写を一切やらないことだったんじゃないかと思います。

川村:みんなまっさらの状態で、「せーのドン」で見てもらえたらなというのはありました。最初にお話したとおり、「天気の子」自体が賛否の分かれる内容なのだから、「君の名は。」と比べてどうこうみたいな話ではなくて、作品自体について議論してほしかったんです。SNSがあって、映画を見た人すべてが評論家やメディアたりうる今の時代に、ファンもマスコミも同時に見る状況があっても良いんじゃないかと。そういうことをやったら、一体どうなるんだろうみたいなことをみんなで話した記憶があります。

新海:今日も取材を受けていると、最速上映にきてくださった方や、9時の初回を見てから来ましたというメディアの方もいらっしゃって、なんだか新鮮でした。試写室で見るのと、初日にお客さんと混じって見るのは、同じ映画でもたぶん体験が違ってくるような気がして……。

――おっしゃるとおり、まったく違う体験でした。

新海:もちろんスケジュールが許せば試写をやれたらという気持ちもありましたが、そうした環境で見ていただいたほうが、もしかしたら映画にとって幸せなのかもしれないという発見もありました。

(C)2019「天気の子」製作委員会

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――少年少女である帆高と陽菜以外の、須賀を代表する大人たちの事情も丁寧に描かれているのが印象的でした。序盤で帆高を組みふせて殴るスカウトの男が、最後のほうに家にいるところがチラッと映るじゃないですか。

川村:あそこ、いいですよね。

――あんなに酷いことをする男にも奥さんと赤ちゃんがいるのが分かって、また違った顔を見せているのが、とても心に残りました。

新海:ありがとうございます。「天気の子」では、モブをモブとして描かないような映画にできたらなと、ちょっと思っていました。映画で描いている「世界が狂っているかもしれない」という気分も、モチーフである天気も、誰もが無関係なものではありませんし、逃れようがないのだと考えていましたから。
 モブって見ていて気になっちゃわないような「ノイズのない普通の顔」にすることが多いと思うんですけど、「天気の子」では名前のない通行人であっても、ちょっと個性的な人を多くしていて、神社のお爺ちゃんもあのようなキャラの立った感じになりました。途中で、「すげえものがあるんだよ」と裏路地でさわぐ中学生男子のふたり組も、だいぶ濃い顔をしていて(笑)。

川村:僕も見ていて気になった(笑)。

新海:あのふたりは現実の中学生に声をあててもらえたのもよかったです。そんなふうにモブでも「これって私かもしれない」と思ってもらえるような人物にして、全員無関係ではない話にしたいという気持ちで描いていたところはあります。

――予告にも登場していましたが、本作には銃が重要なアイテムとして出てきます。描写もふくめ、考えぬかれたうえで出しているように感じたのですが、出す決断をするにあたってどんな話し合いをされたのでしょうか。

川村:たしかに銃は、いちばん議論したもののひとつでした。

新海:決断ではありました。僕はやっぱりちょっと出したかったんですよ。

川村:そうでしたね。

新海:今でも出すことが必要だったなと思っていますが、今回の映画における帆高は、家出をすることで社会から逸脱して、結果として社会と対立することになっていきます。その行き着く先として銃がでてくれば物語が明快になるなと最初から考えていて。ただ、それには大きな嘘をつかなければいけませんから、そこをどうケアするのかを川村さんたちと話し合っていきました。

川村:『どうなんですかねえ?』と何回か言ってみましたが、何度消しても復活してくるから、それならやってみたら面白いんじゃないかなと。『君の名は。』の『口噛み酒』も同じように消しましょうと言ったけれど、結局やることになりましたから(笑)。映画の中で効果的な、違和感になり得ると感じたのです。予告編を見ていただければ分かるとおり、実際、銃は非常にいいアクセントになっていると思います。

新海:銃声がすると、やっぱり一瞬で空気が変わりますから。

――帆高の人物像についても聞かせてください。意識的にやられているとパンフレットのインタビューにもありましたが、家出の理由をふくめ彼の過去を描いていないですよね。

新海:はい。

――ネットカフェでカップラーメンのふたを押さえるのに使っていた文庫本はサリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」でした。そういうところから、なんとなく彼の内面をおしはかることはできましたが。

新海:「キャッチャー・イン・ザ・ライ」は、ホールデン少年が家出をする話なので、帆高の気分を補足するものとして出しました。帆高の過去を描かないことについては、僕自身、多少の迷いはあったのですが、「それは絶対いらないよ」と川村さんが言ってくれたことは励みになりました。描いたとしても凡庸などこかで見た話にしかならないと思うんです。パンフレットでもお話していますが、「天気の子」では、前を向いたまま止まらずに転がり続ける少年少女の話にしたくて、過去のトラウマを克服するために何かをすることは、気分として今回はやりたくないなとスタートの時点から考えていました。見ている方のなかには、もしかしたら「どうしても物足りない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが。

川村:1900万人以上に見ていただいた「君の名は。」のあとの映画だからこそ、多くの人にとって「天気の子」が“みんなの映画”になってほしいなと思っていました。みんな子どもの頃に、家や学校、住んでいる町から出てみたいと思う経験を一度は通過している気がします。作中で帆高の具体的な過去エピソードを描くよりも、まったく描かないことによって見る人が自分の人生でそれを補完する。そんな、みんなが当事者になるような映画であるべきなのかなと思ったんです。

――なるほど。

川村:「天気」というモチーフ自体、みんなが当事者なものですよね。新海さんがよく話していたことですが、みんなだいたい朝スマホで天気をチェックするじゃないですか。それぐらい天気は全人類にとって関係がある。それと同じように、「ここではない場所に行きたい」「大事な人やことのために、すべてを投げ打ってもいい」みたいな気分になることが一度ぐらいはあるだろうし、今の10代にはビビッドなテーマであるはずです。年をとるとだんだんそれがなくなって、社会と折り合いをつけていくことになるんですけど(苦笑)、それを体現した須賀のようなキャラクターもいて、彼の行動を見ることで「誰かを強く思っていた」ことを思い出す大人の観客もいてほしい。そんなふうに、子どもや大人からおじいちゃんおばあちゃんまで、みんな当事者になってほしいと願いながら、新海さんと何を描いて何を描かないかを決めていった記憶があります。

――今日は舞台挨拶の直前にありがとうございました。最後に、新海監督から一言お願いします。

新海:これまでお話してきたように、もしかしたら「天気の子」は主人公がわがままな選択をする、とても自分勝手な映画なのかもしれません。それでも、帆高と陽菜の姿を見て、「自分もそうだよ」と思っていただける方がこの世の中にはたくさんいるのではないか。そんなことを望み、信じながらつくった映画でもあります。と同時に、「自分はそうは思わない」という方もたくさんいらっしゃると思います。これからいろいろな感想にふれることが少し怖くもありますが、それこそが何より楽しみにしていたことでもあります。皆さんが映画を見て何を感じたのかを、時間をかけて聞いていくことができればうれしく思います。

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天気の子

天気の子 13

「あの光の中に、行ってみたかった」。高1の夏。離島から家出し、東京にやってきた帆高。しかし生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく見つけた仕事は、怪しげなオカルト雑誌のライター業だった。彼...

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