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特集・コラム 2023年5月20日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】海外で「君の名は。」の興収を超えた「すずめの戸締まり」、新海誠のさらなる飛躍

(C) 2022 「すずめの戸締まり」製作委員会

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■新海監督作品で、海外最大ヒット

昨年11月11日に全国公開された「すずめの戸締まり」が、5月27日に終映となる。本作は東日本大震災を正面から取りあげたことで、新海誠の作風の変化を感じさせた。監督のキャリアのなかでも重要な転換点となった作品だ。
 ビジネス面で注目されるのは、興行成績である。半年あまりの上映で国内興行収入は146.6億円(2023年5月14日現在、興行通信社調べ)で、新海誠監督作品で3作連続100億円超えを実現した。ただ前作「天気の子」の142億円は上回るが、06年の「君の名は。」の251億円からはだいぶ離れる。あらためて「君の名は。」は特別な映画だった印象が強く、新海誠のキャリアは安定期に入ったかのように見える。

しかし視点を国内から海外に移すと、見え方が変わる。「すずめの戸締まり」はむしろ、新海誠のさらなる飛躍の第一歩なのだ。
 それも興行収入に表れている。例えば中国。3月24日の全国公開から5月15日までの興行収入は8.03億元(約157億円)で、「君の名は。」の5.77億元を大きく超えた。中国における日本映画の歴代最高を更新した。
 北米では5月15日までに1049万ドル(約14億円)になった。金額は中国よりだいぶ小さいが、「君の名は。」の約500万ドル、「天気の子」の約800万ドルから右肩あがりだ。オリジナル企画の海外アニメーションがアートハウス(インディーズ)に分類される北米では、かなり大きなヒットである。
 同じような現象は韓国やヨーロッパ各国、世界中で起きている。世界的にみれば、新海誠の最大ヒット作は「すずめの戸締まり」なのだ。

■作品の積み重ねとベルリン国際映画祭コンペインの相乗効果

大ヒットの理由はいくつかある。ひとつは過去作品での積み重ねだ。これまでの作品を見て満足したファンが新作を見るために映画館に戻ってくる。同時に過去作品の実績からプロモーションにもこれまで以上に力が入っている。これが新たな観客を呼びこむ。
 世界公開直前、2月にベルリン国際映画祭のメインコンペティションに選ばれたのも大きかった。それまでのコア層を中心としたファンムービーとの海外での評価を一変させた。映画監督“新海誠”が強調され、作家性のある作品として一般メディアへの露出が増えたことで、アニメファンからさらに映画ファンにと作品を幅広い層に届けることに成功した。

海外ヒットが大きくなるなかで、興味深い現象も起きている。海外の映画興行収入が日本国内のそれを大きく上回ったことだ。
 中国本土157億円、韓国56億円、北米14億円、台湾11億円、これらの合算だけでも約237億円、日本国内の興行収入を超える。世界興行収入に占める日本国内の割合は全体の3分の1程度だ。これまでの2作品の国内外比率と比べても、「すずめの戸締まり」での海外比率の大きさは顕著だ。

■新海誠監督は、海外での評価をどう受けとるのか

日本の映画チケット料金が世界でも最高値圏にあることを考えれば、観客動員数での国外比率はさらに高まる。実際に中国での動員数は2000万人を大きく超えている。
 「すずめの戸締まり」の映画を支えたのは、日本だけでない。もっと言ってしまえば「すずめの戸締まり」で、新海誠作品の観客の重心は日本から海外に移ったのだ。これが今回、「すずめの戸締まり」が残した最大のビジネス的な変化である。
 むしろ世界にとっては「すずめの戸締まり」が新海誠の新たなスタートで、第一歩なのである。今後はグローバルでのさらなる展開、飛躍が期待され、実際にそうなっていくだろう。

新海誠はいまや世界の映画界のスターだ。次回作のビジネスプランでは、こうした変化が重要な視点として組み込まれるに違いない。そうした時に、昔からたびたびアニメで議論される「日本アニメは世界を意識して作るべきかどうか」といった問題が浮上するかもしれない。
 しかしこれについて新海誠は明快だ。最近のインタビューでは、「監督としては海外をまったく意識していない」、「グローバルなものを作ろうと思っていない。ローカルなものでいい」と語っている。自分たちの作品をグローバルに寄せるのでなく、世界が新海誠に近づいてくる、それが作品への理解を深めるというわけだ。
 それこそが世界の映画界から新海誠が差別化され、卓越し、記憶に残る理由なのである。だからこれからも新海誠監督は自分の生きる場所、日本に根ざしたアニメーション制作を続けるに違いない。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

すずめの戸締まり

すずめの戸締まり 5

九州の静かな町で暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)は、「扉を探してるんだ」という旅の青年に出会う。彼の後を追うすずめが山中の廃墟で見つけたのは、まるで、そこだけが崩壊から取り残されたようにぽつん...

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