2021年6月10日(木)19:00
平尾隆之と今井剛が語る「映画大好きポンポさん」映像編集の世界(後編) (2)
(C) 2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会
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■作品を依り代に作り手の思いがのっていく映画づくり
――これは平尾監督は答えづらいと思うので今井さんにうかがいたいんですけど、ジーンが映画をつくるなかで自分を見つめ直して“自分の映画”にしていく物語は、平尾監督が「ポンポさん」という原作を自分の映画にしていくのとリンクしているように見えました。後半のオリジナル展開をどうご覧になったのかをふくめて、うかがえるとありがたいです。
今井:そうですねえ。監督という職業というか作り手であるかぎり、やっぱりこの映画で描かれていることと何かしら近いものはあるのかもしれませんね。作中で具体的な言葉ではでていないと思うんですけど、キャラクターそれぞれの原風景が描かれているじゃないですか。ジーンにとってはスクリーンであり、ダルベールにとってはお母さんとピアノであり、作り手はどこかで自分の出発点やルーツのようなものをもっていて、そうしたものが作品づくりの原動力と無意識下で強く結びついているように思うんです。もちろん映画づくりの話ですから、自然と自分が入ってしまう部分も大きいんだと思いますが。
平尾:無意識で入っちゃうものなのかもしれませんね。
今井:そこは避けてとおれないものになっていくんじゃないでしょうか。でも、それを直接的ではなく、各キャラクターの心象風景的なものをとおして表現しているんだろうなっていうふうには思いますけどね。
平尾:ジーンやペーターゼンのセリフには、僕自身が思っていることとあてはまるというか、映画製作ってアニメの場合、企画から3、4年かかるんですよね。しかもメインスタッフだったらほぼ、作品にかかりっきりになります。それだけの時間をかけると、どんなに原作が好きだったとしても、みんなで身を粉にしながら映画をつくっていくので何かしら自然と各自の思いがのっていくんです。だから映画に取り組む前には、これは自分が3、4年かけてつくるべきものなのか自問自答しますし、スタッフの貴重な時間を使ってつくりあげていくのならば、やっぱりそれだけのものを原作にのせていきたいっていうのはあると思います。
今お話しているのは原作を否定しているというわけではなく、人の手が入るということは、作品が依り代になってみんなの思いをのっけていくことだと思うんです。「ポンポさん」という原作にはそれができる器の大きさがあったと思いますし、今回の映画のそうした部分を原作者の杉谷(庄吾)さんが快諾してくださったことに本当に感謝しています。
■「90分」にするための悪戦苦闘
――初号試写の上映前に「上映時間は90分です」というアナウンスで笑いがおこっていましたが、今回の映画が90分なのは原作ファンにうれしいポイントですよね。
平尾:厳密には90分じゃないんですけどね。
――えっ、違うんですか。
平尾・今井:(笑)
今井:KADOKAWAとCLAPのロゴが映ったあと、ピクチャースタートっていう画面がでる前に光がパアッと画面に漏れるライトリークという効果が入るんですけど、そのときに右上にポッと黒丸が入るんです――昔のフィルム上映で映写技師がフィルムを入れ替える合図に使われていた「パンチイン」っていうんですけど――その黒丸のコマからラストの90っていうカウンターが映るところまでを数えると、ドンピシャの90分になっています。
平尾:正確にいうと映画本編が90分なんです。
――最初の会社のロゴとエンドロールを抜いた本編正味の尺が90分ぴったりになっていると。それはすごいですね……! そこは尺がぴったりになるよう相当意識されたのでしょうか。
今井:意識というか、もう至難の業でしたよ。
一同:(笑)
平尾:今井さんのご苦労とプレッシャーは、とにかくすごかったと思います。
今井:とにかくこれは大変でした。もともとはエンドロールをふくめて90分にするのが原作で描かれていることふくめて、この作品にはいいんじゃないかと思っていたんですけど、ドンピシャ90分という表現をやろうとした場合、エンドロールだとなかなか難しかったんですよね。
――たしかにエンドロールのどこまでがぴったり最後かは微妙ですね。エンドロールが終わって画面が真っ黒になったあと、右下にコピーライトがでたりもしますし。
今井:そうなんですよ。どこからどこまでが90分なのかっていうことになるので、気持ちよく「ここまでで90分」という表現を見せるためにエンドロールはちょっと別に考えようということになりました。
――ソフト化のさいには、右上にタイムコードをだすモードをつけて、ぴったり90分で終わっていることが分かるようにしてもらいたいです。
平尾:(笑)。ダビング前はタイムコードがでていて、たしかにちゃんと90分になっていましたよね。
今井:ちゃんと90分になっていることがスタッフに分かるように、作業しているときは常にカウンターを頭から入れていました。
――90分ジャストにするために、どれぐらい調整されたのですか。ほんの少しだったらいいですけど、そのために尺を調整するのはものすごく大変なことだと思うのですけれど。
平尾:いやあ……。
今井:制作スケジュール上、どうしてもAパートからはじまって、B、C、Dパートと進んでいくので、最終的な総尺はやっぱりDパートが終わってからでないと出ないじゃないですか。そのころにはもうA、Bパートは音の仕込みがはじまっているわけです。だから、そこらへんはあんまり切らないようにして総尺を90分にしたいなという思いはあったんですけど……。
平尾:(小さく笑う)
今井:(きっぱりと)全然無理でしたね。まったくできなかった(笑)。なので、音チームには大変なご迷惑をかけましたが、Aパートからこまかーく切っていって、なんとか90分という尺にあわせました。
――それはめちゃくちゃ大変ですね。
平尾:最後のほうは、僕らもけっこう絶望的な気持ちになってたんですよ。最後の定尺出しのカッティングのときに、僕と居村さんは編集に立ち会ってたんですけど、たしか50秒ぐらいオーバーしていたんでしたっけ。
今井:(同席していた編集助手の方に聞いて)50秒ちょい残っていたそうです。そこまできっつきつにやっているのにまだ50秒以上残っていて、これは90分の映画とはいえ大変なことになるなと……。
平尾:それを見て僕と居村さんは、これはもう今までずっとどこも落とさずにとやってきたけれど、どこかのシーンを丸ごと切らないと入らないかなあと覚悟していたんです。そうしたら、その後ろでずうっと今井さんが作業していたんですよね。なんだか無言だなあと思っていたら、突然「あ、2コマ足りない」と今井さんが言いはじめて(笑)。その間、実はずーっと細かく切っていて最終的に50秒強オーバーから2コマ足りない尺足らずのところまで追いこんでいたという。あのときは、僕も居村さんも「えっ」となって鳥肌がたちました。
――映画のジーンのように、編集作業に没頭されていたのですね。
今井:どれだけ切れるか分からないまま無心でとにかく細かく切っていって、それが終わったときはジーン君と同じ気持ちでしたね。「あ、時間はどうなっているんだろう」と見てみたらちょうどいい尺で、しかもちょっと足りないなと。
そもそも映画って尺にしばられないから豊かな表現があるはずなのに、ポンポさんが余計なことを言うから(笑)。90分だって言っているんで、じゃあやっぱりそれにあわせなきゃねってなると、もうそれは大変な作業でした。
平尾:ほんとに1コマたりとも多くても少なくてもいけないという。最終的に90分ジャストにあわせることは、制作中、今井さんにとって常に大変なプレッシャーだったはずです。作画は作画で芝居をかさねてくるし、コンテ・演出ではエピソードを増やそうとするし、そのうえで90分ジャストっていうのは相当なご苦労をおかけしたんじゃないかと思います。
今井:途中までは真っ白なカットで、だいたいの尺を決めて編集で短くなってきたなあなんて思っても、絵描きさんが頑張って描くとカットの尺が伸びるんですよね。「あれ、増えて戻ってきたぞ」となって(笑)、また切っていかないとみたいなところがいくつもあったんで、そこはたしかに大変でしたね。
――最後に、今井さんからはパッと見では分からないけれど編集で工夫されているところ、平尾監督からは2回目以降見る方向けに、初見では気づかないであろうギミックなどがあったら聞かせてください。
今井:編集的には、カットとカットのつなぎにはいろいろと意図したところがあるので、そこを探っていただくと面白いかなと思います。例えば、ジーンが編集作業をするときにマウスをカチッとやりますけど、そのマウス操作をジーンがすると、イメージシーンとしてブレードをもったジーンが現れてフィルムを切っていくじゃないですか。そのブレードがでるところと、マウスのカチッという動作をたしか6コマぐらい、ふわっとOL(オーバーラップ)させているんですよ。要するにマウスイコールブレードだということで、あのマウスが編集マンのフィルムを切る動作なんですよっていうことをリンクさせています。
あと、編集で何度も組み替えたところでいったら、劇中で電話をしているカットのあとにポンポさんに電話しようとするカットを直列でつなげたり、最後のアリアのところの振り向きの連続とかもそうですね。そんなふうに繰り返すことで、カットつなぎの気持ちよさをだしたり、反対に理屈じゃないつなぎを挟んだり、いろいろ抱き合わせというか、細かい意味合いがあるカットのつなぎがいろいろとあるんですよ。そういうのを見つけてもらえると面白いかなと。
これは今日試写を見て思ったところですが、スイスでの撮影でヤギの数が足りないってなったあとオオカミの絵が映りますが、そこってオオカミの鳴き声が絵に先行して入っているんですよ。それって「食い気味」じゃないですか。食い気味だから、食べられてしまったっていう(笑)。
――なるほど(笑)。
今井:そういう理屈付けもできるわけでしょう。そんなところもふくめて、つないだ映像って音もふくめて面白いところや隠れた楽しみがいっぱいあるんですよね。もうひとつ、これは編集のことではありませんが、さっきお話したようにこの映画では、クリエイターにとっての原風景である「アリア」とはなんなのか明確にはしてないですよね。2回目は「自分にとってのアリアってなんだろう」と考えながら見てみると、作り手がどこに悩んで、どんなふうにして映画がつくられているのか、より楽しめるんじゃないかと思います。
(C) 2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会
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――最後に平尾監督からお願いします。
平尾:そうですね……。いろいろありすぎるんですけど、例えば映画の最初に映るジーンやナタリーたちのVTR映像は、後半でアランがインタビューするところとリンクしているところとか、最初に女性が歌を歌ってパフォーマンスしているのがニャカデミー賞のオープニングセレモニーで、その女性がジーンに受賞のインタビューをしているところとかは、きちんと分かってもらえるかなと悩みながらつくったところです。初見で分かった方も、2回目を見るときはまた違った見え方がするんじゃないかなと思います。
あと、これはすごく細かいところですけど、ダルベールがレッスン場で女性のバイオリニストに譜面を投げつける場面がありますよね。あの場面はもう一回でてくるんですけど、そのときに投げているのは譜面ではないんですよ。
――そうなんですか。まったく気がつきませんでした。
平尾:現実と劇中劇がリンクしている伏線として、2回目はダルベールがもっているものを「MEISTER」の脚本に変えているんです。2回目以降を見るときは、「あ、ほんとにそうなってる」と思ってもらえたらありがたいかなと思います。あと、ペーターゼンへのジーンのツッコミが、だんだん鋭くなっているところですかね。最後のほうはペーターゼンに一言も言わせないっていう(笑)。
今井:あれも90分に収めるためのやり方のひとつでした。もともとは、ちゃんとセリフがあったのに(笑)。
平尾:90分に収めるためでもありつつ、それをギャグにしちゃえばちゃんと意味合いもでるんじゃないかっていうところから生まれたアイデアでした。
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作品情報
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敏腕映画プロデューサー・ポンポさんのもとで製作アシスタントをしているジーン。映画に心を奪われた彼は、観た映画をすべて記憶している映画通だ。映画を撮ることにも憧れていたが、自分には無理だと卑屈にな...
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