2021年9月9日(木)19:00
広島ではじまる新たなアニメーションフェスが目指すもの 「ひろしまアニメーションシーズン」土居伸彰氏、山村浩二氏に聞く (2)
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■分け隔てなく面白い作品を
――これまでの「広島国際アニメーションフェスティバル」と「ひろしまアニメーションシーズン」の関係をどう捉えますか。新たなイベントですが、遺産として引き継ぐものもあると思います。
土居:オフィシャルには違う映画祭ではありますが、開催場所は重なります。アニメーション業界でのこれまで「広島」のイメージや存在感は過去の映画祭のおかげでつくられるわけで、意識しないわけにはいきません。
2010年代に入るまで、「広島国際アニメーションフェスティバル」は日本国内で海外のアニメーションをまとめて見られる唯一の場所でした。国際的にも、アニメーションの芸術性を重視してきたアジア有数の映画祭の歴史があります。その志を、新しい体制のなかで、どう受け継ぐか考えなければいけません。ただそれはこれまでのフェスティバルとは別の方法論になります。実際に今回のやりかたはかなり違ったものです。理念をリスペクトして引き継ぎつつ、我々が何をすべきか考えることが、結果として、「アニメーションにおける広島」を連続性と発展性をもって見てもらえることにつながると考えます。
山村:「広島国際アニメーションフェスティバル」は1985年にアジア初のアニメーションフェスとしてはじまった時から、「愛と平和」という広島の理念に加えて、アニメーションを知ってもらう啓蒙的な役割がありました。ただプログラムは次第に硬直して若い世代や現代性を取りこぼしていました。新しい「ひろしまアニメーションシーズン」ではアニメーション啓蒙は引き続き必要だと感じていますが、より新しい概念、新しい世代へと向けていきたいです。
現在はアニメーションの枠組みや概念が大きく広がっています。視聴環境も以前は映画祭でしか作品が見られませんでしたが、いまはインターネットも普及しています。いままたコロナ禍でオンラインフェスが増え、ハイブリッド型で劇場とオンラインと、視聴の状況が変化しています。ただオンラインは専門性や興味がある人にはアクセスしやすいですけれど、市民となると難しいです。そこで2年に一度の映画祭で、キュレーションされたよい作品が提示される価値は、いまだに大きい。逆にいま広がり過ぎているものをコンパクトにまとめて、アクセスしやすいものにしたいです。アニメーションへの愛は「広島国際アニメーションフェスティバル」から引き継ぎ、刷新したプログラムで新しい世代へつなげていきたいと思います。
――映画祭にはいわゆる商業アニメとの関わりもあるのでしょうか?
土居:そこは「アワード」が大きな役割を持ちます。アワードは「アニメ」と呼ばれる商業作品を含めた日本のアニメーションの功績をコンペティションと別のかたちで顕彰します。いろいろな分野の専門家の意見を集約し、2年間で日本のアニメーションのなかでおきた特筆すべき成果を決めることで価値づくりをしていきます。多くの映画祭には功労賞がありますが、それよりは若い世代、いま現在新しい潮流をつくりつつある方々にフォーカスするイメージです。アワードについては現在制度設計中で、環太平洋やアジアにまで広げる可能性も検討しています。
山村:いまは監督ばかりが注目されがちなので、音楽や撮影といったいろんな役職にスポットをあてたいです。
土居:アワードの受賞者をお招きして、フェスティバル期間中にその作品や業績を市内の映画館で特集するようなプログラムもできればいいと考えています。そうすれば、アワードを通じて、日本の「アニメ」の素晴らしい成果も一望できるようになります。
山村:長編はいままでの短編だけのコンペティションだと参加しづらかったのですが、「ワールドコンペティション」は短編・長編を隔てなく募集し、よい作品を上映していきます。またカテゴリー別なので、商業作品も同じ評価軸で選定され、上映されやすくなります。
■2年に一度の開催が課題、どう乗り越える
――広島・地域とつながりでの施策はどのようなことがありますか?
土居:ひとつはアーティスト・イン・レジデンスです。海外の作家だけでなく、日本の作家も対象にします。
――広島に住みながら広島をテーマにした作品をでしょうか。
土居:22年の5月から半年間、広島で滞在制作していただく予定です。直接的に広島に関わる作品でなくてもいいと思っていますが、広島に滞在する意味のあるプロジェクトであることはこだわっていきたいです。招聘作家と市民との交流は積極的にやります。学生、地域で活動しているかた、一般の人、子どもたちといった市民で組んだチームと短いアニメーションを一緒につくってもらう。招聘されたアーティストがリーダーとなってディレクションする交流を考えています。
あとは教育との連携をやっていきたい。通年でメディア芸術やアニメーションの専門家のかたが市民に向けたレクチャーなどをやっていく。もうひとつアワードの受賞作品やコンペテシション作品を教材化して、それを市で使う試みをやりたいです。
山村:最近、私個人にも美術の先生や地方での映画教室から講演やワークショップの依頼が増えています。そういったアニメーション入門に使えるアニメーションをどう読み解くのかの教材。作品鑑賞の際に単純に見るだけでなく、こういう見方が出来ると示唆するものです。幼児向け、中高生向け、より専門的なもの、いろいろなレベルが考えられます。
――広島の最大の弱点は2年に一度の開催だと思うですが。
山村:初期の段階では毎年を目指していたんです。一般的な映画祭はいまでは毎年が常識ですので。将来的には毎年開催にしたいというのは僕の希望です。今後きちんと認められれば変わってくると期待します。
土居:毎年開催にならなかったのは僕がいちばん悔しいと思っている部分です。もちろん予算の問題もあります。実際、「アニメーションシーズン」の予算は、これまでのアニメーションフェスティバルよりもかなり少ないです。そのなかで、コンペだけでなく、アカデミー、レジデンス、アワードをやる。映画祭の運営をいかに効率的にやれるか、ある意味実験ですね。もう少し予算があればもっとすごいことができますと、夢が膨らませることができればと思っています。第1回の結果次第で、第2回以降の規模は変化すると思っています。
――第2回以降も見すえていると思いますが、将来的な目標はありますか?
土居:いろいろな人に、「この映画祭があってうれしい」と思ってもらえることです。広島市、応援してくれている地元企業、アニメーションのプロフェッショナル、そして何よりも市民にとって。クオリティを落とさず、妥協せずにきっちりと楽しんでもらう。それにより国際的にアジアを代表するファーストクラスのアニメーション映画祭として確立されることが目標です。そうした映画祭が広島にあることで、市民のみなさんも誇らしく思えるような格式あるものになっていけば。
広島の街も楽しんでもらいたい。広島は非常にいいところなんですよ。映画祭に来て、合わせて近隣も訪れて欲しい。広島広域都市圏との連携も予定しています。
山村:映画祭があることが市民にとって誇りになり、世界からはクオリティで保証される映画祭にしていきたいです。いろんな可能性のある出会いの場をつくりつつ、信頼足りうるプログラムをいつも上映して、かつそこで選ばれたものの価値観がきちんと世界中に浸透していく映画祭です。
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