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インタビュー 2021年9月9日(木)19:00

広島ではじまる新たなアニメーションフェスが目指すもの 「ひろしまアニメーションシーズン」土居伸彰氏、山村浩二氏に聞く

「ひろしま国際平和文化祭 開催1年前PRイベント」(8月2日開催)集合写真。左がディレクターの宮崎しずか氏、左から2番目が山村氏、その右が土居氏

「ひろしま国際平和文化祭 開催1年前PRイベント」(8月2日開催)集合写真。左がディレクターの宮崎しずか氏、左から2番目が山村氏、その右が土居氏

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8月1日に「ひろしま国際平和文化祭」の開催が発表された。広島の文化を活性化し、市民に向けて発信する2022年の一大イベントだ。その中心イベントのひとつに「ひろしまアニメーションシーズン」がある。国内外のアニメーションを集めた「コンペティション」、アニメーションスタッフを顕彰する「アワード」、そしてセミナーやワークショップの「アカデミー」の3つから構成される祭典だ。
 広島でアニメーションと言えば、1985年から行われてきた「広島国際アニメーションフェスティバル」が20年を最後に終了したばかり。なぜいま新しいイベントなのか。
 「アニメーションシーズン」のプロデューサーには株式会社ニューディアー代表でアニメーション製作・配給をする一方で「新千歳空港国際アニメーション映画祭」の立ち上げ、現在はアーティスティック・ディレクターも務める土居伸彰氏、ディレクターには世界的なアニメーション作家で東京藝術大学大学院映像研究科教授の山村浩二氏、広島を拠点に活動するアニメーション作家・比治山大学短期大学部講師の宮崎しずか氏が就任する。重量級の布陣からは、新しいイベントの意気込みも伝わる。
 「広島アニメーションシーズン」とは、22年の夏にどんなプログラムが飛び出すのか、その目指すところを、国内外のアニメーション映画祭に精通する土居氏と山村氏に伺った。(取材・文/数土直志)

■「地域性の重視」と「現代アニメーションの状況の俯瞰」

――昨年、歴史もあり、世界で名高い「広島国際アニメーションフェスティバル」が終了と伝えられ、今後を心配していました。そのなかで山村浩二さん、土居伸彰さんと国際映画祭をよく知る2人が参加する「ひろしまアニメーションシーズン」の立ち上げが発表されました。ほっとする一方で、いわゆるアニメ-ション映画祭なのか、どういった枠組みか分かりません。概要や立ち上がりを教えていただけますか。

土居伸彰氏

土居伸彰氏

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土居伸彰氏(以下、土居):ASIFA-JAPAN(国際アニメーションフィルム協会日本支部)と広島市が共催していた「広島国際アニメーションフェスティバル」の後継ではなく、広島市が新たに立ち上げた「ひろしま国際平和文化祭」の一環です。
 22年の8月に広島市を舞台に1カ月間行われる文化イベントで、音楽部門とメディア芸術部門の2つで構成されます。メディア芸術部門は、その歴史もふまえ、アニメーションが中心となります。プロフェッショナルだけではなく、市民への還元や産業振興・文化育成もミッションになります。

――メディア芸術部門というと、マンガやメディアアートなども含まれるのでしょうか?

土居:基本的にはアニメーションが中心ですが、映画も含めてメディア芸術のプログラムも展開します。市内には広島市まんが図書館や広島市映像文化ライブラリーなどの関連施設がありますし、11月には「広島国際映画祭」が開催されています。それらの事業・施設との連携も予定しています。

――来年8月ということですが、「アニメーションシーズン」はそのなかでどのくらい?

土居:8月17日から21日の5日間がメインの期間になります。アーティスト・イン・レジデンスや教育プロジェクトをプレイベント的に行っていくので、実際はもう少し長期ですが。

――会場は、広島市内になりますか?

土居:JMSアステールプラザという広島市のホールが中心会場となりますが、市内の映画館や文化施設、ギャラリーといった広島市全体の様々な場所と連携します。市全体を使うことで、市外からの来場者に広島の街を見て楽しんでもらいたいです。

山村浩二氏

山村浩二氏

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――山村先生のディレクターの仕事と土居さんのプロデューサーの役割はどのように分けられていますか?

山村浩二氏(以下、山村):私の仕事はアニメーションのアワードとコンペティションで、土居くんとかなり話し合っています。基本的な方向性を2人で決め、プロデュース的な全体の仕切りを土居くんが、僕はアーティスティックな立場で主に作品選定の方向性を決めています。以前からの広島との縁もありますし、新しく立ち上げるなかで、自分の考える理想的な見せ方ができればと思っています。

土居:ディレクターのひとりである広島を拠点にするアニメーション作家の宮崎しずかさんの参加も重要です。宮崎さんを中心に、専門的な内容を市民が楽しめる連携を図っていきます。

――イベントのミッションや目指すところは?

山村:個人の想いとしては、「地域性をもった映画祭」です。いま国際フェスティバルが世界中にあるなかで日本、広島のフェスティバルの特徴をだしたい。かつ「現代のアニメーションの状況をきちんと俯瞰できるかたち」。その両方を兼ねた地域性と世界のバランスをとれた映画祭です。

土居:「ひろしま国際平和文化祭」全体が主に「市民のため」に開催されることから、「市民に向けた展開」について、常に考えています。アニメーション映画祭がこれまで長い期間開催されてきたのに、関係者の知名度に比べて地元の人に知られていなかったり、自分たちとはあまり関係ないものであるという雰囲気もありました。山村さんがおっしゃった「今のアニメーションの最新状況を伝えること」はおろそかにせず、そのなかでその魅力を市民に届ける努力をしていきたいです。

■“環太平洋・アジア”を打ち出し、ワールドコンペはジャンル別

――いま世界にアニメーション映画祭は、大小何百もありますが、そのなかで広島を差別化して知名度を上げていくには?

山村:環太平洋・アジアの部門が大きいです。アニメーション映画祭はヨーロッパが多く、そのなかでアニメーションの評価づけがされますが、どうしてもアジア、日本的な価値観では判断されていない実感があるんです。例えば「曖昧さ」は、特に日本では大切な価値となるのですが、ヨーロッパでは弱さと捉えられがちです。ヨーロッパを外した賞のなかで評価することで拾い上げられる作品を通して現状を知らしめる。キュレーションも含めて環太平洋・アジアの部分でまずは特色を出していく。

――主要な映画祭のセレクションはヨーロッパ作品が大半で、アメリカやアジアからはまだ少ないです。これはクオリティに差なのか、それとも判断の方法の違いなのでしょうか?

山村:判断の違いが大きいと思います。ロシアの映画祭に行くといわゆるヨーロッパとは違ったセレクションですし、中国に行くと「こんな映画があったのか」と気づかされたりします。見えていない、見られていない、もしくはエントリーさえされていないことがあります。今までの映画祭でこぼれ落ちた作品に新たな視点をつくって紹介していきたいと思います。

――世界でなく、一部地域を対象とすることでマイナーな映画祭とみられる危惧はありませんか?

山村:環太平洋・アジアの賞は、この映画祭の格式を高める重要なもので、新しい映画祭の個性として受け止められるでしょうから、そのような危惧はしていません。また「ワールドコンペティション」もあって、こちらは世界全体が対象です。これは、「ドラマ」「コメディ」「ドキュメンタリー」「抽象」などカテゴリーに分けます。カテゴリー別にするのは、市民にも分かりやすくするためです。映画祭によくある「コンペ1」「コンペ2」といった区分では、専門性のある人以外にはどのような作品が上映されているかよく分かりません。これ以外にも、キュレーターによる特集上映プログラムでは、世界におけるベストな作品を選びます。

――取り上げたいジャンル、国はありますか?

山村:東南アジアと南米の作品をきちんと見せたいです。ロシア、中国もたくさんつくられているのに埋もれている作品があります。ヨーロッパの映画祭だと少ないアメリカの作品もきちんと見られる映画祭にしたいです。

――キュレーションによる特集プログラムの方向性は?

山村:まだ決まっていない段階ですが、世界のトレンドでもあるLGBTQやマイノリティの問題を考えるテーマを持った作品のプログラムはやれたらいいですね。他にも「絶対笑えるアニメーション」「生物多様性」「アメリカのオルタナティブ・カートゥーン」「メメント・モリ」など、アイデアは沢山あるので、斬新な切り口の特集プログラムを徐々に実現したいです。

――いい作品や選考委員・審査員が映画祭のキモとなりますが、これをどう高めますか?

土居:選考のメンバーはある程度固定化します。以前の映画祭では大会ごとに違う面々が選考をしてきましたが、そうしたやり方では映画祭としての歴史を責任をもって築くことは難しいです。今回はアーティスティック・ディレクターを芸術面での責任者として捉え、その意向が選考に強く反映されるようにします。アーティスティック・ディレクター自身が選考チームを組み、特集上映のためにキュレーターを呼び、映画祭がどういうものをフィーチャーするのか、どういう基準で作品を選ぶかに責任をもつことでクオリティを担保し、映画祭のアイデンティティを出します。

山村:いい作品を集めるには、これからいろいろと準備と人材のネットワークをつくらなければいけません。いい作品が必ずしも最初からエントリーしてくれるわけでありません。各地域の作品を知っている人たちの意見を聞き、こちらから誘っていかないとクオリティはあがらない。上映作品のクオリティを保証するのはセレクションが大きいですから。最後の賞を決定する審査委員は、「この人が決めたからこういう賞になったよね」と言えるものになったらいいなと思っています。選考委員は固定しますが、たぶん審査員は入れ替わります。その人選はユニークなものにしたい。

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