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インタビュー 2022年2月11日(金)19:00

磯光雄と吉田健一の宇宙の旅(後編) 井上俊之の戦車のような仕事ぶり、見た人の景色を変える磯監督 (2)

(C) MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

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――磯監督は企画書の絵などはたくさん描かれているはずですが、作品の実作業では絵の部分にどれぐらいタッチされているのでしょう。

磯:絵は描いていますが、昔のように作画の修正用紙でっていうかたちではなくなっていますね。他の人でやっているのを聞いたことがないようなことを、たぶんやっています。けれど、これもちょっと明かせないです。今のアニメ業界の力学からちょっと脱したことをやっていて、それは自分の原作・監督作品でしかできないようなことですね。

■アニメーター・監督として、見る人の景色を変える磯光雄氏

――これまでいろんな監督とご一緒されてきた吉田さんから見て、今回ご一緒された磯監督のお仕事ぶりについて、どんなふうに思われましたか。

吉田:いやあ、やっぱりいろいろな意味で“容量”が多い方だなとは思いましたね。「磯さん」という質量があるとして、その物理的な質量の外で仕事をされているような感覚がありました。

――磯監督の本体が別にあるように感じるということですか。

吉田:なんというか別の空間で動いている感じなんですよね。僕らには分からないところを使って仕事をしている気がして、それって一緒に働くスタッフとしてはすごくつかみづらくはあるんですよ。だけど、それこそが磯さんの魅力だと思います。
 磯さんが監督になる前、アニメーターをフルでやっていたときにも同じような感覚がありました。磯さんの作画によって次の世界への扉が開いたんですよね。アニメーターの磯さんはまさにそれをやってきた人で、アニメーションの景色を変えた人なんです。爆発、美術の表現などなんでもいいんですけど、アニメをかたちづくっている記号や景色のようなものがあるじゃないですか。磯さんは、そうした景色の見え方を変えてしまった。アニメーター時代の磯さんをそういう人だと認識していたので、監督作品をやるようになったらどうなるのかなと思っていたら、やっぱり見た人の景色を変えちゃうタイプの監督さんだなと思ったんですよ。

――私もそう思います。

吉田:スタッフとしては、やっぱり景色が変わる作品に参加したいじゃないですか。それが監督の作品をやりたいと思った理由のひとつで、その一端を担えることは僕にとってもすごくうれしいことですからね。「地球外少年少女」を見た人も、昨日と違う窓を開けてくれるといいなと思います――ちょっとポエジーな言い方をしてしまいましたが(笑)。

――吉田さんは、違う景色を見ることができましたか。

吉田:スタッフのひとりなので作品についてはなんとも言えませんが、監督とご一緒して僕には見えていなかったものを見せてもらえた感じはありました。ぜひ、今後の作品でもそういうことをやってほしいなと思っています。

磯:毎回やるかどうかは分からないですよ。大変なので(笑)。

吉田:まあ大変ですよね。大変だとは思いますけれど。

磯:でもまあ、たしかに見ている人の景色を変えることができたらなとは思ってます。私自身、これまで景色を変えられた作品にふれてきましたから。ただ、だからといってそれと同じことをやれば、もう一回景色が変わるわけでもないんですよね。

吉田:そうなんですよねえ。

磯:最初にお話ししたとおり、吉田健一の前にもっとも大きくキャラクターデザインの景色を変えたのは安彦(良和)さんだと思っていて、吉田くんもそれに似た仕事を実現していると思うんだけど、吉田君が変えたのは単なる安彦さんの真似でもコピーでもないんですよ。景色を変えられたものを自分のものにして、自分の絵で結果をだしているというか。1回目の核分裂と2回目の核分裂は別なものだろうし、吉田君はそういうことが分かってできている数少ない人だと思っています。

吉田:ありがとうございます。

磯:なかなか分かりあえないことも多かったけどね(笑)。

吉田:いえいえいえ(笑)。分かりあえない……まあ、そこはなかなか難しいところもありますけれど。

磯:うん。

※ここから先のパートは後編(4~6話)で描かれる物語の核心について触れています。全話鑑賞後にご覧ください。

(C) MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

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(C) MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会

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――物語の根幹にかかわることだと思うので駄目元で伺いますが、「地球外少年少女」は見ながら人が死なない作品だと思っていたところ、5話であるキャラクターが宇宙の外に飛び出してしまって驚きました。あそこは作画もこみで、だいぶ雰囲気が変わっていましたよね。

吉田:うーん。どうなんでしょう。

磯:(芝居がかった感じで)その件に関しては、お答えするわけにはいかないです(笑)。

吉田:(笑)

――2回目を見たとき、語られていない大きな余白のようなものがあるのではと感じました。

磯:(うれしそうに)あっ、何かを感じました? たしかにこの作品にはまだ秘密が残されています。この話は作品の核心にふれる部分で、Netflixで最後まで見た方にも今はまだちょっと言えない裏側の大きな流れがあるんです。劇場で販売される後編のブルーレイには6話の絵コンテがつきますが、それを見るとカットナンバーが70カットぐらい飛んでいましてね。物語としてはしっかり完結させていますが、(言葉をためて)本当のラストが実はまだ……。

吉田:フフフ。

――気になるところはありましたが、6話のラスト10分ぐらいでキャラクターのその後など、ものすごい勢いでお話をたたんでいくのは圧巻で、見終わって何かが足りないとは思わなかったです。

吉田:そんなふうに引っかかって考えてもらうのも楽しいんじゃないですかね。もうちょっと見てもらえると何かが分かっていいかもしれません。

磯:そうですね。2回と言わず、何度も見てもらって何かを感じてもらえるとうれしいです。せっかくなのでお話しておくと、約3時間の尺できれいに収まっていると言ってもらいましたが、実際は入れたいシーンを泣く泣く切りまくってなんとか収めているのが正直なところで、特に6話では重要なシーンを諸事情でどうしてもカットせざるを得ませんでした。これはいつかぜひ皆さんにお見せできたらいいなと思っています――というのを最後の一文にしておいてください(笑)。

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