2023年3月23日(木)13:00
第1回新潟国際アニメーション映画祭、グランプリは村上春樹原作「めくらやなぎと眠る女」 押井守審査委員長「現代文学を表現する最適なスタイル」
「めくらやなぎと眠る女」場面写真
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「第1回新潟国際アニメーション映画祭」の長編コンペティション部門授賞式が3月22日あり、村上春樹の小説が原作のピエール・フォルデ監督「めくらやなぎと眠る女」(フランス、カナダ、オランダ、ルクセンブルク)がグランプリを受賞した。審査委員長の押井守監督は「一見すると非常に地味ですが、現代文学を表現する最適なスタイルとして、3人の審査員の意見が唯一一致した作品です」とコメントした。
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「めくらやなぎと眠る女」は映画監督・作曲家・画家として活躍するアーティストのフォルデ監督が村上氏の短編のエピソードを脚色した物語。東日本大震災数日後の東京を舞台に、キョウコ、コムラ、カタギリという3人と、邪悪な柳、巨大なミミズ、かえるくんなど不可思議なもの達が登場し、記憶や夢、妄想がないまぜになりながらも本当の自分と日常生活を取り戻していく。
この日、フォルデ監督の授賞式出席はかなわなかったが、ビデオメッセージで「とてもとてもうれしいです。是非皆様の感想を聞きたいです」と喜びのコメントを伝えた。
押井監督は、授賞式後の会見で、「村上春樹のあの原作をあれ以外の表現は無理だと思う。実写映画ではかえるくんが出てきた時点で破綻してしまうし、また、今のアニメーションのかっこいいキャラクターだったらダメだった。なんとなく情けなく、少し気持ちの悪い時間の流れに力があり、最小限の情報量の線画に説得力があった。それは美しいこととは別で、日本人には逆に不可能な表現だと思う。現代文学を映像化するのにはアニメーションが一番向いている。表現の様式と伝えたいテーマが一番フィットしていた」「決して美しさはないが、泥臭く生々しく微妙に卑猥。村上作品そのもの。画期的な作品」と評した。
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また今回、従来の映画賞にある監督賞、美術賞、音楽賞ではなく、制作手法やジャンルの境界に捉われず、アニメの世界に進化を与えるような作品に贈られる「境界賞」(Evolve Award)、「奨励賞」、そして「歌舞伎」の語源であり、従来の価値観にとらわれない斬新な挑戦を試みた作品に贈られる「傾奇賞」(KABUKU Award)が創設され、発表された。
押井監督は「これだけ多様な表現が10本並んだところで、通常の映画のような評価が成立するのか審査の冒頭で議論になりました。アニメーションの表現は本来からして多様なもの。その作品にフィットしたスタイルが必ず存在する。今回は作品の趣旨とそれに適合したスタイルが存在したか、通常の映画の審査とは異なる基準で決定しました」と総評し、グランプリ以外の3つの賞は、審査員が協議して作った前例のない賞。アニメーションが置かれた立ち位置を象徴する賞です」と述べた。
長編コンペティション部門には世界15カ国から21作のエントリーがあり、10本の作品が選出された。押井監督とともに、米国のアニメーション専門の配給会社GKIDSのデイビッド・ジェステット氏、米国の映画プロデューサージンコ・ゴトウ氏が審査した。
傾奇賞に輝いた「カムサ 忘却の井戸」ヴィノム監督は、「少ないスタッフで短編を長編に変えたことが大変難しく、完成してとてもうれしかった。スタッフとここにいるすべての監督にもお礼を申し上げたい。新潟で多くの才能ある人々に出会えました。押井監督の『天使のたまご』からインスピレーションを得たのでお礼を言いたい」と感無量の面持ちでスピーチした。
奨励賞を受賞した「劇場版 ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」牧原亮太郎監督は「作っている間はコロナが一番大変な時期で、スタジオに人もいないし、配信向けということもあり、お客さん、スタッフの顔も見えづらい中で作っていました。皆さんの顔を見ながらお見せする機会が得られなかったので、(実際の)お客さんを見ることができ感動しました。作ってくれたスタッフのみなさんにお礼を言うこともできなかったので、この場を借りて感謝を述べたいです」と喜びを語った。
最後にフェスティバル・ディレクターの井上伸一郎氏が会期を振り返り、新潟での今後の同映画祭のさらなる盛り上がりを誓っていた。
▼各賞は以下の通り
グランプリ「めくらやなぎと眠る女」(フランス/カナダ/オランダ/ルクセンブルク)ピエール・フォルデ監督
傾奇賞「カムサ 忘却の井戸」(アルジェリア)ヴィノム監督
奨励賞「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」(日本)牧原亮太郎監督
境界賞「四つの悪夢」(オランダ/フランス)ロスト監督
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