2019年1月15日(火)19:00
【明田川進の「音物語」】第20回 「鉄腕アトム」から半世紀以上にわたる“ギッちゃん”との付き合い
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この連載で折にふれて名前のでるギッちゃん(杉井ギサブロー氏)とは、本当に長い付き合いになります。今でも会社に「今日いる?」と電話がかかってきたり、何かの会で顔をあわせたあとにお茶をしたりすることが多いです。仕事の話はほとんどせず、お互いの近況や無駄話をして終わるのですけれど。
ギッちゃんは、僕が1963年に虫プロに入社し、「鉄腕アトム」の制作進行としてはじめて担当した話数の演出家でした。当時の僕は分からないことだらけで、とにかくがむしゃらだったと思いますが、ギッちゃんは人当たりがとても柔らかくて、制作に関することを丁寧に説明してくれました。僕と知り合った頃のギッちゃんはすでに演出家でしたが、アニメーターとしてすばらしいんだということは知っていて、アトムの顔を描かせたら手塚(治虫)さんそっくりだとみんなに言われていました。最初の担当がギッちゃんだったから、僕としても入りやすかったのだと思います。
やがてギッちゃんは仲間とアートフレッシュという会社をつくり、虫プロで「どろろ」の総監督をつとめます。音響の担当は田代(敦巳)氏でしたが、僕も手伝いとしてアフレコをときどき見にいったのを覚えています。その後、第17回 と第18回 でお話したように田代氏たちとグループ・タックを一緒に立ち上げることになりました。
ギッちゃんは、「この人には、こういうことをやらせたらいいのではないか」というプロデューサー的な目をもっている人だと昔から感じています。広い視野をもっていて、みんなを喜ばすための方法論をよく分かっているといいますか。とても面倒見のいい人でもあって、教え子がマジックカプセルに入りたいと言っているのだけどという相談をうけたこともあります。
不思議とテレビシリーズを一緒にやる機会はなく、ギッちゃんの作品で音響監督をやったのはPR映画の「氷の国のミースケ」(1970)や「動物村の消防士」(1972)、最近だと「トキ この地球(ほし)の未来を見つめて」(2003)という佐渡の朱鷺をモチーフにしたテレビスペシャルぐらいです。あと僕がギッちゃんと一緒にやった仕事は、京都精華大学が2006年にアニメーション学科を立ち上げてから5年間、音響の授業をうけもったことです。学科の骨子となるカリキュラムなどはギッちゃんがつくったそうで、前田庸生君や中田実紀雄氏といったグループ・タックの仲間たちも他のセクションの先生として呼ばれ、授業を行うことになりました。
僕は江戸っ子で田舎がないため、叔父がいる京都を田舎代わりにしょっちゅう遊びにいっていました。そのことをギッちゃんは知っていたから、学科を立ち上げるときに「アケさんなら京都に来てくれるのでは」との話になったそうです。京都に通うようになってからは、授業の前日に前乗りし、翌日授業が終わってからギッちゃんと一緒に帰ることが多くなりました。2日間授業があると、ずっと一緒にいることになるので延々としゃべっていて(笑)、京都の5年間はギッちゃんといろいろな話をしました。
京都精華大学の授業は、デジタルの技術から教えるのではなく、まずは基礎となるアナログの考え方をきっちり学んでから、今のデジタルのやり方に移るというカリキュラムでした。そのやり方に僕も共感して、音響の授業も3年間は「音とはどういうものか」の基礎をしっかり勉強し、4年目の卒業制作では実際にみんなで作品をつくってもらうというやり方をとりました。
人に教えるためには、自分もおさらいしないといけません。僕にとっても音の世界を見直すことができて非常に勉強になりました。そうした機会をつくってくれたギッちゃんにはとても感謝しています。
ギッちゃんがグループ・タックを辞めたあと、放浪の旅にでていたことをファンの方はご存じだと思います。自分で描いた絵を売りながら全国各地をめぐっていたそうです。さっき話した京都にいる僕の叔父を紹介したら、話をしに何度も来ていたと、あとから叔父から聞きました。放浪といっても、途中からは「ギッちゃんは今どうしてる?」と聞くと、タックの誰かが居場所を把握していて、旅先で「日本昔ばなし」の絵コンテを描く仕事をするようにもなりました。これはアニメの世界では普通ありえないことです。特に締め切りもなく、絵コンテができあがったらそのまま受けとるわけですから(笑)。その辺りは田代氏が鷹揚に受け入れた部分があったからできたことだと思います。
明田川進の「音物語」
[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム) マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。
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