2019年12月17日(火)20:00
【明田川進の「音物語」】第31回 「この世界の片隅に」のんさんの芝居
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ファンの方には今更の話かもしれませんが、つい最近、劇場アニメ「この世界の片隅に」を見て、のんさんの芝居に驚かされました。公開時、彼女が声を担当していることをニュースとして知っていましたが、その後すっかり忘れていて、彼女が主演であることを意識しないまま、「すず役の人の芝居、面白いな」と思いながら見ていたんです。鑑賞後、ジャケットに「のん」と書いてあるのを見て、そうか彼女だったのかと気づきました。
僕は朝ドラの「あまちゃん」が好きでずっと見ていて、のんさんには独特のテンポ感のあるキャピキャピした印象をもっていました。それだけに、「この世界の片隅に」のぐっと抑えた感じの芝居を見て、彼女のなかにこんな一面もあったのだなと驚いたんです。ひとりの女性が耐えしのんでいく部分がでていて、またそのなかにほんわかとした感じがでているところも魅力的で、すごくいい芝居をしているなと感じました。
方向性はまったく違いますが、僕が受けた印象としては、GAINAXの劇場アニメ「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(1987)に近いものがありました。「オネアミス」では主人公のシロツグを森本レオさんが演じています。最初は「この人が?」と思っていたところから、見ているうちにどんどんキャラクターに引き込まれていく感じがあったのを覚えていて、のんさんの芝居にも同じような印象をうけました。
「この世界の片隅に」の音響監督は、監督の片渕須直さん自身が担当されています。きっと自分の考えているキャラクターのイメージを、懇切丁寧にのんさんに伝えて、納得するまで収録をしたのでしょうね。僕は昔、トキをモチーフにした劇場アニメを企画していたときに片渕さんに相談したことがありました(※編注)。そのときに、ものすごくきちっとやられる方だと分かりましたから、「この世界の片隅に」では時代考証はもちろんのこと、音のほうもここまでやる方なのだなとあらためて思いました。
編注:片渕須直監督は「WEBアニメスタイル」連載のコラムで、トキに関する映画のシナリオを執筆した思い出を書いている。
「β運動の岸辺」第50回 最初の10年が終わり、次の10年が始まる」()
2020年の「音物語」では、これまでの連載で名前のでた方々との対談を予定しています。久しぶりにお話できた方もいて、僕自身楽しかったです。来年も「音物語」をよろしくお願いします。
明田川進の「音物語」
[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム) マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。
作品情報
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すずは、広島市江波で生まれた絵が得意な少女。昭和19(1944)年、20キロ離れた町・呉に嫁ぎ18歳で一家の主婦となったすずは、あらゆるものが欠乏していく中で、日々の食卓を作り出すために工夫を凝...
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