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特集・コラム 2022年3月21日(月)19:00

【明田川進の「音物語」】第59回 本番中に芝居をとめてはいけない

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今の若い人のなかには、本番中に自分が間違えてしまったとき「あ、いけない」と口にだしてしまい、すぐに戻してやり直せると思っている人がいます。僕がジュニアの人に教えるとき、そういうことは絶対にやってはいけないと話しています。

自分1人でやっているのならまだいいですが、本番でみんないっせいに自分のベストの演技をやろうとしているときに、自分が間違えたからといって声をだしてしまうのは失礼にあたります。その声によって相手のいい芝居が録り直しになってしまう可能性もありますから、ちょっとぐらい間違えてもそのまま演技を続けることが大事です。本人にとっても、そこで素に戻ってしまったらその人の芝居が全部駄目になってしまうでしょうから続けたほうがいいと思います。

ただ、僕がジュニアの人に行うアフレコの授業の最初では逆に、ほんの少しでも失敗したらすぐとめるようにしています。失敗した瞬間にとめて、なぜとめたかを説明し、失敗しないよう真剣にやることを徹底してもらうためです。そうすると、明らかに間違ったときはもちろんですが、そうでない場合も、どうしてここでとめられたのだろうかと本人が考えるようになるんですよね。そこが大事なんです。また、途中でとめられることで、流れをとめずに続けることの大切さを感じてほしいとも思っています。そのためには緊張感をもってやらなくては駄目で、先輩たちはフィルムの時代、一切とめることなくこのままやっていたんだよという話をよくします。

フィルムの時代は、収録の途中でとめて戻るわけにはいきませんでした。どんなことがあってもそのまま進んでいくしかなくて、事前にやるテストでみんなの息をあわせる勉強をして、本番ではきっちりあわせるよう取り組んでいました。それでも、どうしてもセリフがこぼれたところなどは編集で調整してもらっていました。

逆に今の若い人のほうが大変で、すごいことをやっているなと思うのは、絵がほとんど完成していないなかアフレコに臨んでいるケースが多いことです。線撮りや吹き出しのみの収録のときは、台本にある数行のト書きを手がかりに、自分が演じるキャラクターがどんな状況にいて、どういう演技をしなければいけないかを自分なりに納得してやらなければいけません。これは相当の引き出しの広さがないとできないことで、昔の声優さんだったらできない人も多かったはずです。絵がほとんどないなかで、自分なりの演技をつくりだせるのはすごい能力だと思います。

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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