2022年7月21日(木)19:00
【明田川進の「音物語」】第63回 教える側ができるのはきっかけづくり
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前回に続いて「教えること」についてお話します。僕がジュニアの人相手に本番の収録を模したかたちで授業をするのは、演じる場をあたえて、そこでの演技を評価することが、役者が育つ大きなきっかけになると考えているからです。できればそこで、自分の演技がよいと言われるのが本人にとっていちばんよくて、その人のよいところをいかに上手く引っ張りあげられるかにかかっていると思っています。
僕が大切なことだとよく話す「ディレクションをうけて芝居を変える」ことは、言葉にするのは簡単ですが、実際にやるのは大変です。ほとんどの場合、最初は上手く変えられなくて、こつこつ努力していくなかで少しずつよくなっていく人が残っていける人だと思います。ごくまれに天性の芝居心をもった人もいますが、そういう人も感覚だけでなく、相手からの言葉で芝居を変えていかなければなりません。
事前にしっかり台本を読みこむことも大事です。ベテランの声優さんのなかには相手との掛け合いを大事にするために、あえて読みこみすぎないようにしている人もいますが、それは現場で芝居を変えられる経験があるからできることです。まずは台本をとおして絵の状況やセリフを把握して自分のなかで納得しておかないといけません。演劇の経験がある人には分かってもらえると思いますが、まず自分のもっているイメージを真っ白にして、そこから台本で書かれている状況でこのキャラクターだったらどうするのかを自分なりに考えて演じてみるといいと思います。はまり役と言われるようになった人は、本人が表現を考えていくなかで芝居がどんどん膨らんだ結果であることが多いはずです。
僕は自分の教え方が上手いとか、自分が教えたことでみんなが育ったとは、これっぽっちも思っていません。僕らができるのは花開くきっかけをつくってあげることだけで、そのきっかけを上手くとらえてくれることを祈るしかありません。最終的には、本人の能力や努力次第なのだろうと思います。
明田川進の「音物語」
[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム) マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。
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