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特集・コラム 2024年10月10日(木)19:00

【明田川進の「音物語」】第79回 AIの進化と声優の芝居

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最近のAIの進化は目覚ましいものがあって、声優の仕事が奪われてしまうかもしれないなんて話がでることもあります。感情をこめる必要がないガイドやアナウンスの音声などの分野では、すでにAIによって職域がおかされている部分があると思います。ただ、僕の会社でやっているような声で芝居をする仕事については、今のところAIに脅かされることはないようにも感じています。

AIが生成する絵や映像は、人がつくったものと見分けがつかないほどのものもでてきて本当に驚かされます。ただ、そこにつける声までも人間がやる芝居と同じようにAIがきちっとできるのかは疑問です。僕がいつも話している役者同士の掛け合いや、役者本人にしかだせないその人のカラーみたいなものを表現するのは、今の段階ではAIには難しいのではないかなと思っています。

声のAI化については、随分前から関心をもってみていました。その大きなきっかけは、富山敬さんが亡くなられて「銀河英雄伝説」(※OVA版)のヤン・ウェンリー役を誰にお願いしようか探しまわっているときでした。なかなか思うような人が見つからないとき、富山さんのこれまでの声をコンピューターが解析することで、新しいセリフをしゃべらせることができる時代がすぐそこまできているという話を聞き、京都でそうした研究をやっている人に一度話を聞きにいったことがありました。そのときは、犯罪に使われる可能性もあって国が介入せざるをえないだろうから、すぐに実用化することはないだろうということでした。

その後、ある芸能人の会話などをコンピューターに取りこみ、AIによって別の新しい話をつくる試みがあったという話を聞きましたが、感情表現の部分ではまだまだ厳しいものがあったそうです。今のAIの技術であれば、短い映像につける歌や声の芝居などに実験的に使うことは十分に可能だと思います。ただ、長尺のドラマやアニメなどにAIの声をキャスティングする未来は当分先の話ではないかと思いますし、ベテランの役者さんの演技から感じられる「味があっていいね」という境地にまでいたるのはAIには難しいのではないかな……というのが今の段階での僕の印象です。人間には不可能なほど何回となくAIにトライさせれば味のある芝居が偶然でてくるかもしれませんが、連続性がないと意味がありませんからね。

声優さんのなかには、声のAI化を脅威ではなく肯定的にとらえる発言をされている方もいます。けれど、そうした発言は、「AIが私の芝居に敵うわけがない」「私たちプロの声優はここまでやっているんだ」という自信の裏返しではないかと僕は深読みしてしまいます。魅力的な役者の芝居は、僕ら発注側の想定を蹴散らしていくかのように、想定外のキャラクター像をつくりあげてしまうことが多々あって、声の演技が絵すら変えていってしまうことすらあります。役者はみんなそれぐらいの自負をもっているはずでしょうし、そうであってほしいとも思います。

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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