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特集・コラム 2025年1月13日(月)19:00

【明田川進の「音物語」】第85回 杉井ギサブロー監督のこぼれ話 「鬼滅の刃」アニメ化の上手さ

「劇場版『鬼滅の刃』無限城編」は2025年公開

「劇場版『鬼滅の刃』無限城編」は2025年公開

(C) 吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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明田川進さんと杉井ギサブロー監督の対談で記事にできなかった杉井監督のお話のほんの一部を、「こぼれ話」としてお届けします。
 近年の大ヒット作であるアニメ「鬼滅の刃」シリーズを例に挙げて、漫画をアニメ化するさいの工夫、テレビや映画などの媒体の違いによって映像が表現できることの違いについて語られました。

■映画とテレビの違い

映画とテレビで、映像の作り方はまったく違うと僕は思っています。僕らが映画館でスクリーンを見ているとき、実はスクリーンの外にも世界があるんです。カメラがPANしたしたときスクリーンの端を越えてもその先は真っ暗ですから、その延長線上にも世界が感じられる。一方、テレビの場合は、まわりに物などが置いてありますからそうはなりません。映像の世界はモニターの中だけにあります。
 ですから、テレビの場合の演出は「横へ」なんですよ。この先どうなるかというのを「横に」引っ張って見せていくのが実写・アニメを問わずテレビシリーズの基本的な作り方です。それが映画になると「奥へ」もできるんです。スクリーンの奥に描きたいものを見せようとしたときに、映画でしか伝えられないものを観客に体験として届けられる。テレビでそんなことをしたら、みんな寝てしまいますが、真っ暗ななかで見る非日常な空間である映画館ではそういうことができるんです。
 今の話の例として言うと、アニメの「鬼滅の刃」のテレビシリーズと劇場版(※「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」)は違う映像なんです。僕は監督がそのことを熟知してやっているであろうことが感じられて、とても上手いなと思ったんです。

■アニメ「鬼滅の刃」の上手さ

僕は漫画原作のアニメでヒットしたものがあると、すぐに本屋に行って原作を1~3巻だけ買うことにしています。「ONE PIECE」のときもそうでした。どんな内容の漫画なのかを3巻まで読んで把握し、それをアニメのスタッフたちがどのようにアニメ化しているのかを分析するんです。
 「鬼滅の刃」のときも同じように原作を3巻まで読んでからアニメを見ました。ちょっと昔の話ですから細かい部分は忘れてしまいましたが、いのししの被り物をつけた(嘴平)伊之助が、森の奥のほうにいる鬼の位置を動物的な勘で感じとるくだりがありました。漫画ではそれを何コマかで描いているのですが、アニメでは伊之助から1カットで森の中をカメラががーっと移動して鬼まで行き着くんです。それを見た瞬間、「上手い!」と思いましたね。アニメでは1カットにすることで漫画の時間軸を変換しているんです。そうすることで伊之助の能力をアニメならではの描き方で演出している。
 アニメの「鬼滅の刃」は、カメラワークが非常に上手いですよね。鬼と戦っているアクションでキャラクターが急にスローモーションになることもあって、これは手描きでやるとものすごく大変なんです。僕も何度もやっていますが、短いカットでも大量の枚数を描かないとスローモーションに見えない。「鬼滅の刃」がどうやっているのかくわしくは分かりませんが、きっと何かしらのかたちでCGも上手く使っているはずです。そうしたところもふくめてCGの使い方が絵画的で上手くて、そこも監督が優れているなと思ったところです。

■「?」を抱えながらアニメをつくる

そんなアニメ「鬼滅の刃」の劇場版では、テレビシリーズと違って意識して奥行きを描こうとしていることが感じられました。最初の話に戻りますが、映画では映像や音響の力を使って画面に出ていないものが描けます。表面的には見えない「奥」を観客が想像して見ることができる。これはテレビでは絶対無理で、画面にでているものしか見えません。
 スマホの映像になると、もっと違ってきます。スマホ自体を手にとって動かすことができますから。映像は同じでも、映画館、テレビ、スマホでまったく違う伝わりかたになるんです。何が違うかというと、人間が感じとる感性が違う。媒体によって人間の情感に訴える視覚や聴覚の質がことなってくるわけで、そこが映像の面白いところだと思っています。僕がアニメをつくるときはどういう条件で映像が見られるかを強く意識して、その媒体の特性をフルに活用したものをつくるようにしています。
 そんなふうに僕は「一体これってなんなの?」というクエスチョンを抱えながらアニメをつくっています。今の時代とはなんなのかということも考えて、そういうことに興味がなくなったらこの仕事を辞めようかなと思っています。

明田川 進

明田川進の「音物語」

[筆者紹介]
明田川 進(アケタガワ ススム)
マジックカプセル代表取締役社長、日本音声製作者連盟理事。日本のアニメ黎明期から音の現場に携わり続け、音響監督を手がけた作品は「リボンの騎士」「AKIRA」「銀河英雄伝説」「カスミン」など多数。

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