2021年4月29日(木)19:00
【編集Gのサブカル本棚】第5回 作り手の矜持を感じた「バーチャルさんはみている」幻の最終回
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テレビ番組に出演したり企業やサービスの宣伝に起用されたり、すっかり定着した感のあるVtuber。パイオニアであるキズナアイが2016年12月に「バーチャルYouTuber」を名乗って以来、数えきれないほどのVtuberが世に出ている。最近では、新人声優が自身とリンクした名前の3DCGキャラクターを演じ、モーションキャプチャーで動きもとりこむというVtuber的な発想で制作された「アイドールズ」という作品もでてきた。そんなVtuberたちで30分のアニメ番組づくりに挑戦した「バーチャルさんはみている」が放送されてから約2年が経つ。自分の観測範囲ではけして評判がいいとはいえなかった同作を、放送終了直後に以下のような投稿をFacebookにするぐらい個人的に楽しく見ていた。
今期のアニメで、なんだかんだでいちばん楽しく見ていたのは「バーチャルさんはみている」でした。だんだん録画しているのを真っ先にチェックするようになって、中盤からは「えっ、もう終わり」と思うぐらい体感時間が短く感じられ(ミニコーナーの集まりだからというのもあるのですけど)、最終回は少し寂しく思えてしまうぐらいでした。未放送話が入っているブルーレイは買ってもいいかなとちょっと思っているぐらいには気にいっています。
個人的には、1話の印象が「けものフレンズ」に近かったです。見る前はネタとして1話だけ見る気満々だったのに、妙にクセになってくる感じと、一般的な深夜アニメとはまったく違った文法でつくられていて、面白い・面白くないはともかく、バットを勢いよく振っている感じに好感がもてました。1クールで終わらず、このまま2クール続けたら、「ぱにぽにだっしゅ!」ぐらい突き抜けたものになったんじゃないか……というのは褒めすぎかもしれませんが。ただ、つくっている側もノッているんじゃないかなというのは見ていて伝わってきました。庵野秀明監督が「アイデア協力」としてクレジットされていたり、おそらくその関係で鶴巻和哉監督がつくった(?)Vtuberが投稿コーナーに登場していたりと謎なところも多くて、メイキングも気になる作品です。
Vtuberはまったくくわしくなく、最近深夜テレビで電脳少女シロを見るなあぐらいだった私が、メイン6人+サブ10数人のVtuberに愛着をもつぐらいにはなれたので、構成やお話もネットで叩かれているほど悪くはなかったんじゃないかなあと思っています。コーナーでは、「てーへんだ!アカリちゃん」と「委員長、3時です。」が特に好きでした(あと、オープニングとエンディングトーク)。まあ、なんで相談やウンチク系のネタが多いんだろうとか、このグダグダな間(ま)や山なしオチなしのコーナーは一体なんなんだ? とか、つまらないと言われるポイントが沢山あるのもよく分かるんですけれど、私は3ヶ月とても楽しませてもらいました。
その後、テレビ未放送回を目当てにブルーレイ5、6巻を購入し、「幻の最終回」を見た。アバンのオープニングトークで、「この回テレビでは使わない回らしいよ」「じゃあもう何でも言っていいよ」という発言がでてきたときは予定調和の範囲内だと思ったが、予想の斜め上をいくその後の展開に吹き出してしまった。
視聴者の悩みにミライアカリが脳内天使&悪魔になって答える「てーへんだ!アカリちゃん」では、「バーチャルさんはみている」の放送が終わってロスになったというファンからの投稿が寄せられる。「Vtuberを知らない人が見たらすごい異端児のアニメだと思う」「この作品をきっかけにVtuberに興味をもってもらえれば」というアイドリングトークのあと、脳内悪魔のミライアカリからは「重症だな、病院に行ったほうがいい」と毒舌が飛び出す。また、月ノ美兎が究極の2択質問をゲストに出す「委員長、3時です。」では、「『バーチャルさんはみている』は? A、神アニメ B、糞アニメ」という攻めたお題がだされ、ゲストの剣持刀也がやっぱり神アニメじゃないですかと言うと「背中に銃口でも突き付けられているんですか?」と月ノ美兎が突っ込む。その後、「(ニコ生で)60パーセントも『とても良かった』って人が1話の段階からいたぐらいですからね」「おい、やめろやめろ」というなかなかにクリティカルなやりとりもあり、いつもは強引にどちらが正解かを発表するところを今回にかぎり正解を視聴者に委ねたままコーナーは終わる。
自分たちのつくった作品が不評であったことをある部分で認め、それを笑いに変えようとする渾身の自虐ギャグ。そこに作り手としての矜持を感じつつ、これはブルーレイを購入した好意的なファン向けだからこそ実現できたことなのだろうなとも思った。オンエア版最終回ラストの次回予告で、テレビ未放送回を「内容は平和なものとなっております」と告知していたが、まさしく平和で“やさしい世界”が幻の最終回のなかにあった。
編集Gのサブカル本棚
[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。
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