2021年6月25日(金)19:00
【編集Gのサブカル本棚】第7回 「ひぐらしのなく頃に業・卒」のハイコンテクストな試み
![](https://eiga.k-img.com/images/anime/news/113790/photo/493bd1429cf55d88/320.jpg?1624597809)
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7月1日からスタートするテレビアニメ「ひぐらしのなく頃に卒」が楽しみだ。初回は1、2話連続放送で、この枠組みにも何か必然性やサプライズが仕組まれているのではないかとわくわくする。「卒」は、昨年10月~今年3月まで放送された「ひぐらしのなく頃に業」に続く解決編で、「業」の終盤で明かされた黒幕と思われる人物がどのように犯行を繰り返していたかが、黒幕にあやつられていたであろう周囲のキャラクターの隠された行動とともに描かれるようだ。
「業」は放送前、スタジオディーン制作のテレビシリーズ(06~07)と同様、原作ゲームを新たな座組で映像化する再アニメ化であるかのように告知されていた。それが「業」2話のアバンタイトルに「カケラの世界」が登場することで「ひぐらし」ファンは単なるリメイクではないことに気がつき、アバン後のオープニングで本作のタイトルが「ひぐらしのなく頃に業」、本編終了後に1~3話のサブタイトルが「鬼騙し編」であることが明らかにされた。昔PCの体験版をプレイしたきり「ひぐらし」に触れていなかった筆者が、2話放送後のネットのざわつきを見ながら自分なりに調べておそるおそる書いたのが下記のニュース記事で、4話放送終了後には今回のシリーズが完全新作であることが公式に発表された。
「ひぐらしのなく頃に」2話で正式タイトル発表、新展開に 物語の先を予感させる最新PV公開 https://anime.eiga.com/news/112096/
よく分からないけれど、どうやら今回のアニメだけを見ても十分には楽しめないようだから、この機会に原作ゲームをプレイしてから「業」を見ることにしよう。そうして原作ゲーム群がすべて収められたPS4版「ひぐらしのなく頃に奉」を一通り終えてから「業」を見はじめて、ようやく今回のアニメシリーズの狙いが分かり、原作ゲームの履修を前提とした本シリーズの試みに驚かされた。原作を知らない人に新たに知ってもらうのが主な目的のリメイク・リブート作品でも、これまでのシリーズと切り離した新作でもなく、原作をよく知ったファンだけがより楽しむことができる、リブートという皮をかぶった限りなく続編に近いつくりになっているのだ。ファンの裾野が広いからこそできることで、テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」&旧劇場版と「シン・エヴァンゲリオン劇場版」で完結した新劇場版4部作の関係に近いものがある。
「業」は1クール目の「祟騙し編」まで、サブタイトルが原作ゲームのものと1字違いになっている。それに象徴されるとおり原作の物語が少しずつズレながら展開され、電車が途中から違う路線にはいって分岐するように気がつくとまったく違う地点に到達している。本来だったら死ぬはずの人物が死なない、悪役だったはずの人物がなぜか良い人になっている、本来の黒幕が計画を実行できていないようだ……など、原作ゲームの展開を知っているからこその意外性と楽しみに満ちている。原作ゲームを知らない人も本シリーズから見て大丈夫と言いたいところだが、「業」では原作ゲームの本ネタが自明のものとしてあっさり明かされているのでお勧めできない。原作ゲームの物語を知っているファンに向けた2週目の楽しみとしての「業」であり、その解決編の「卒」なのだ。
「業」の最終エピソード「郷壊し編」では、仲睦まじい間柄だった2人の人物の断絶が描かれた。「業」の本編の一部で色味などが不自然に変わった主観カットの意味など謎解き部分も気になるが、修復不可能と思われるこの断絶が「卒」では何かしらのかたちで昇華され、今回のシリーズのテーマが浮かびあがってくることにも期待している。個人的に原作ゲームでもっとも心打たれたエピソード「皆殺し編」では、主人公が自分1人で抱え込むのをやめて周囲に相談し、皆で力をあわせることで、これまで悪い方向に進んでいた物事がどどっと好転していく様子がライド感たっぷりに描かれた。外枠は残虐趣味にみえる「ひぐらし」シリーズには道徳的なテーマやメッセージがひそめられていて、「なく頃に」シリーズ第2作「うみねこのなく頃に」ではそれらがより顕著にあらわれている。
「業」「卒」のもとになる物語を書きおろした原作者の竜騎士07氏は、「ひぐらし」「うみねこ」シリーズは犯人やトリックを当てることだけが主眼ではなく、現在進行形のストーリーを考察しながら楽しむ作者と読み手のコミュニケーションこそが醍醐味であると折にふれて話している。開幕早々、メタミステリ的な展開をみせた「うみねこ」の解決編では謎解きミステリとしては異例な幕の閉じ方をさせて物議をかもしたが、それもプレイヤーである読み手を信頼しているからこそだった。「業」「卒」の清々しいくらい一見さんお断りなつくりにも、制作スタッフの「ここまでやっても楽しんでもらえるはず」という確信とファンへの信頼感が感じられる。タイトルから連想される“卒業”という言葉の意味を考えながら、新しい「ひぐらし」の物語の結末を見届けたい。
参考文献
・「竜騎士07 インタビューズ 完全版」(星海社文庫)
・「Febri」掲載「ひぐらしのなく頃に業」原作・竜騎士07インタビュー
![五所 光太郎](https://eiga.k-img.com/images/anime/column_series/1022/0635be09cef84746.jpg?1608792525)
編集Gのサブカル本棚
[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。
作品情報
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