2025年4月27日(日)19:00
【編集Gのサブカル本棚】第47回 連続2クールのテレビアニメが増えた背景

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筆者は2005年頃から定点観測的にテレビアニメを視聴し続けている。もちろんすべてを見ているわけではないが、リアルタイムで見ている人間には自明のことでも、後追いで見た場合はなかなか気がつけない放送当時の重要なトピックが隠れている場合がある。
例えば11年放送の「魔法少女まどか☆マギカ」は、10話まで放送された直後に東日本大震災が発生し、残り2話が放送されて完結するまでに1カ月近くを要した。このことはウィキペディアにも書かれているが、実際にこの流れで見ていると作品の受けとめ方がだいぶ違ってくると思う。他にも、初回放送・配信時には制作が追いつかずにラフな映像だったものが、その後の再放送などではリテイク後の映像に差し替わることもよくある。そうした表にあらわれない情報が、作品の歴史を振り返るときに意外と大きなファクターになってくることも多い。
1クール物が多かった要因
春・夏・秋・冬クールごとに始まるテレビアニメ群を毎回チェックしていて最近感じているのが、連続2クールのテレビアニメが増えてきたなということだ。テレビアニメを意識して見だした05年当時は深夜アニメと言えば基本的に連続2クールというイメージだったが、徐々に1クール物が大半を占めるようになり、ここ数年で連続2クール物が増えてきたという印象だ。各クールごとの2クール作品を数えて具体的な数字を挙げるのがいちばんなのだろうが、ここは定点観測している筆者の感覚でということでお許しいただきたい。
少し前まで深夜アニメに1クール物が多かったのは、アニメスタジオが作品をつくる手間がより増えて、連続2クールをつくりきるのが難しくなったことが大きな要因としてあると思う。05年放送の「AIR」、06年放送の「涼宮ハルヒの憂鬱」あたりでアニメファンから注目されるようになった京都アニメーションの作品で当時驚かれたことのひとつが、テレビアニメなのにキャラクターの絵柄がシリーズを通して統一されていたことだった。それまでのテレビアニメは各話の作画監督などの個性で絵柄が異なるのは当たり前で、京アニ作品が1クール通して絵柄を統一しているのは、時間をかけてリリースされる高額のOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)のようなリッチなつくりだった。その頃から他のスタジオの作品でも、総作画監督をおいてシリーズ全体の絵柄にずれが生じないように気を遣う流れになっていった。
アニメファンは絵柄のずれを許さないようになったのだなと当時痛感したのは「創聖のアクエリオン」(05)と「天元突破グレンラガン」(07)で、アニメーターの個性をあえていかした話数がネットで批判されるのを見たときだった。とくに「アクエリオン」は絵柄が異なることに物語上のきちんとした意味があり、その前提で絵柄は独特だが素晴らしい絵を描くアニメーターを中核においた話数だったにも関わらず、作品ファンの多くからは受け入れられなかったようだ。その後、総作画監督制を敷いてキャラクターの絵柄を統一するのは当たり前になり、総作画監督制を敷かないつくりの作品のほうが珍しくて挑戦的だと一部で話題になるぐらいになった。
それまではつくるほうも観るほうも絵柄が多少まちまちでも気にしなかったのが、絵の見栄えを統一するぶん制作カロリーが余計にかかるようになり、そうなると2クール連続でつくるのは難しくなってくる。そうした背景も要因となって1クール作品が増えてきたように思う。
先鞭をつけた「鬼滅の刃」
1クール作品が多かったなか、今の連続2クールの流れの先鞭をつけたのは19年にスタートしたアニメ「鬼滅の刃」シリーズだったと筆者は考えている。制作元のufotableはそれまでテレビアニメでは1クール作品のみを手がけ、ゲーム「Fate」シリーズのファン層を大きく広げたテレビアニメ「Fate/Zero」も分割2クール(※1クール目の放送後、概ね1年以内の間をあけて2クール目を放送する形式)だった。当時から劇場アニメ並のハイカロリーな映像づくりに定評のあったufotableが2クール連続で放送するのは大変な覚悟が必要だったはずで、放送前に「鬼滅の刃」の第1期「竈門炭治郎 立志編」が連続2クールだと知ったときは、これは凄いことになるとufotableファンとしてワクワクしたのを覚えている。
アニメ「鬼滅の刃」第1期の放送前はのちに空前の大ヒットを飛ばすような雰囲気ではなく、放送が始まって尻上がりに人気があがっていき“神回”として話題になった19話「ヒノカミ」で火がついた。イフの話をしても仕方がないが、もし「鬼滅の刃」の第1期が1クールだったら人気に火がつくのはもっと遅くなるか、今ほどではなかったかもしれない。アニメ好きの方には分かっていただけると思うが、楽しく見ていた2クール作品が2クール目に入ったときのドライブ感は1クール作品では味わえないものがある。「鬼滅の刃」の直後にヒットした「呪術廻戦」(20)のテレビアニメ第1期も連続2クールで、直近のヒット作である「葬送のフリーレン」(23~24)も、ゆったりしたところが魅力の物語を2クール連続でやったからこそのヒットだったように思う。さらに直近の作品では、「薬屋のひとりごと」「夜桜さんちの大作戦」「2.5次元の誘惑」「アオのハコ」「チ。 ―地球の運動について―」など、主に集英社の「ジャンプ」系漫画のアニメ化に連続2クールものが多い傾向にある。
出資する製作側が2クールを選択している側面もある。1クール作品よりも制作費や制作期間がかかるリスクをとれるだけの自信がある作品を連続2クール作品として世に送りだす。アニメスタジオも1クールの別作品を2本作るより、2クール作品を1つ作るほうが効率の面でも良い。近年作品の消費スピードがとてつもなく早くなって、1クール作品がスマッシュヒットしても、そこから間を空けすぎてしまうと話題はすぐに別の作品に移ってしまう。そのため勝負をかけられる作品は連続2クールでやろうという判断もあるのだと思う。
連続2クール作品が増えているのは今のアニメ業界が活況をていしている証拠でもあり、ファンとしては間を空けずに作品が観られるのはうれしいかぎりだ。ただ、毎クールごとに始まる膨大な数のテレビアニメをチェックしている身からすると、連続2クールと聞くと「それだけ長く続くのならあとでまとめて見ればいいかな」と思ってしまうこともある。
24年のテレビアニメで個人的に先の話数が楽しみで仕方がなかった「おーい!トンボ」「MFゴースト」は、第1期と第2期の間があく典型的な分割クール形式だった。毎週の放送を見たあと、次のクールが始まるまで待つ時間もそれはそれで有意義なもので、結局のところ作品が面白ければどれだけ待たされても、その時間が作品の魅力をふくらませていくこともあるように思う。(「大阪保険医雑誌」25年1月号掲載/一部改稿)

編集Gのサブカル本棚
[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。
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