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特集・コラム 2026年1月2日(金)19:00

【編集Gのサブカル本棚】第55回 アニメーションの花火と実写の空撮映像

(C) 此元和津也/ホウセンカ製作委員会

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現実では見られないような凄い映像を見せてくれるのが、アニメ、実写ともに映像作品のひとつの醍醐味ではないかと思う。少なくとも筆者はそうで、「こんな映像どうやってつくったんだろう」とビックリさせてくれるようなものを見たい。
 執筆時点で国内興行収入歴代2位を記録しロングラン&メガヒット公開中の「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」は、物語の新たな舞台となる無限城の描写、作中で描かれる鬼と鬼殺隊による3つの戦いなど、とにかく凄い映像の連発に圧倒された。シリーズ最終章3部作の1作目であるため、物語自体は原作の漫画かアニメで追わなければいけないが、本作から見ても映像の凄さだけは十分堪能できるのではないかと思う。
 同じくロングラン公開中で、邦画実写の歴代記録を塗り替えた実写映画「国宝」も、「鬼滅の刃」とはまたベクトルの違う凄い映像だった。人気俳優の吉沢亮と横浜流星の2人が、邦画ではありえないほどの長期間の稽古を経て歌舞伎の女形を体当たりで演じる贅沢なつくりで、歌舞伎をよく知らなくてもその凄みを感じさせてくれる。2作ともヒットの要因は色々挙げられるだろうが、どちらもシンプルに凄い映像だったから普段映画を見ない人を劇場に呼べたという側面が大きかったように思う。

CGと相性が良い花火

一方、以前は凄いと感じていた映像表現に飽きてしまうこともある。個人的に見ていて胸が躍ることが少なくなったのがアニメーションで描かれる花火の表現だ。物語の舞台装置としてクライマックスやドラマチックな場面で用いられることが多い花火だが、どうにもテンプレートな表現であることが多いように感じてしまう。特に3DCGが本格的にアニメに導入されるようになってからは、物理演算を計算して描かれるCGの花火が、どれもこれも同じに見えてしまう。実際の花火も、今はデジタル上でシミュレーションして設計されているはずなので、アニメの花火は現実を忠実に模したものとなって進化しているのだろう。その弊害として、CGと相性が良いだけにアニメの花火表現の多くは似た表現に集約されていく。なかには過去のアーカイブやプリセットの機能ですませているものすらあるのではないかと疑ってしまうぐらい、同じような花火を見かけることが多い。これでは、作中の人物が「きれい」「美しい」と感銘をうけたセリフを言っていても、見ているほうはなんだか醒めてしまう。実際の花火も、花火そのものはどれも似たようなものだとは思うのだが、それでも凄いと感じるのは現実だからこそ。スペシャルな舞台装置として使うことが多いフィクションの場合は、それに見合うだけの工夫や差異がないといけないのではないかと思ってしまう。
 もちろん、今のアニメにも凄い花火の描写はあって、最近の作品でいうと「オッドタクシー」の木下麦(監督)&此元和津也(脚本)が手がけたオリジナル劇場アニメ「ホウセンカ」(2025年10月10日公開)の冒頭で印象的に描かれる花火は、創意工夫がこらされていて大変見応えがあった。言い方を変えると、アニメの花火で見る人を感動させるには、今はここまでやらなければいけないと作り手が覚悟を決めてつくっているようにも感じられた。

世界的に人気のオンラインゲーム「League of Legends」をアニメ化した「アーケイン」(Netflixで配信中。特にシーズン1はお勧め)は莫大な制作費がかけられていて、2Dルックの3DCGアニメでここまでハイカロリーな凄い映像を筆者は見たことがない。それなのに、炎や水しぶき、銃の硝煙などのエフェクトの多くは、なぜか手描きのアニメーションで描かれている。エフェクトもCGと相性がよくて、「アーケイン」ほどの作品ならばキャラクターと同じ3DCGで統一して描くことは簡単だったはずだが、制作陣はエフェクトをあえて手描きにするのがリッチな表現であると考えたのだと思う。

「踊る大捜査線」の空撮

実写の世界では、撮影用ドローンの登場によって空撮映像の価値が下がったなと感じることが多くなった。ドローンが手軽に使えるようになる前は、空撮には飛行機を手配するなど予算も手間もかかったリッチな映像表現だったが、今は制作予算がそれほど多くはないであろうテレビのバラエティ番組のちょっとしたロケでも、ドローンを使った空撮映像が流れるようになった。
 織田裕二主演のテレビドラマ「踊る大捜査線」を初めて映画化した「踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!」(1998)は、海上の橋を走る車を空撮でとらえた映像からはじまった。不確かな話で恐縮だが、ドラマから映画にするにあたって、空撮からはじめることで「これは映画だ」と感じてほしいという狙いがあったと、監督かプロデューサーのインタビューで読んだ記憶がある。公開当時に見た筆者の素直な感想としても、主な舞台が警察署内だったドラマと違って映画はスケールが大きくなったなと感じたのを覚えている。
 今でも実写の空撮はスケール感をだす効果が十分にあるとは思う。けれど、撮影用ドローンの登場によって、その効果は少しずつ減っているのではないかというのが筆者の印象で、アニメの花火と同じように見せ方を変えていかないと、これまでと同じ効果を観客に与えられなくなるような気がしている。

人の心を動かすもの

ここまでの話は、特定の映像表現にどれだけの手間がかかっているかが、見る人の心を動かす要素のひとつになっているのではないかという筆者の仮説でもある。観客は専門的なことは分からなくても、映像表現にどれだけ手間がかかっているかを本能的に見抜き、その手間に感動する側面があるのではないか。そのため、特定のシーンの撮影苦労話や制作日数、アニメの場合は動画枚数などが、宣伝のバックストーリーとして有効だと考えられているのだと思う。
 ここでいう手間は人の手がかかっていることも大切な要素で、すべてコンピューターやCGでやっていますだと有難みが減ってしまう。写真のように緻密に描かれた絵に人は感動するが、写真をデジタルで手描き風に変換した絵では、見た目は人が描いたものそっくりでもおそらく人は感動しない。生成AIによる画像や動画が、今のところ魅力が薄いと考えられることが多いのも、そうした人間の心理によるものではないかと筆者は考えている。PCやデジタルが出はじめた頃の過度な期待による誤解や偏見と同様に、生成AIも結局のところ道具でしかないはずで、それを人がどう使うかに価値がある。近い将来、生成AIを道具として上手く使った作品の「人の手間や工夫」が見る人の心を動かす可能性は十分にあると思う。(「大阪保険医雑誌」25年10月号掲載/一部改稿)

五所 光太郎

編集Gのサブカル本棚

[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ)
映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

作品情報

ホウセンカ

ホウセンカ 3

「ろくでもない一生だったな」独房で孤独な死を迎えようとしていた無期懲役囚の老人に声を掛けたのは、人の言葉を操るホウセンカだった。“会話”の中で、老人は自身の過去を振り返り始める。

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