2019年5月30日(木)19:00
美少女フィギュアの伏流“エロフィギュア”の現在 専門ブランドの急増と海外人気
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これまで、現在のフィギュアジャンルの人気タイトルや状況の移り変わりについても何回か書いてきた当コラムですが、今回は美少女フィギュアというジャンルにおいてひとつの大きな伏流となっているある存在について。それはセクシー系のフィギュア、いわゆるエロフィギュアです。
エロいフィギュアというのは、フィギュアの黎明期から存在しファンの心を引きつけていました。それこそ、1980年代には「ガ○ダム」や「うる○やつら」の女性キャラのプラモデルを改造して水着やヌードにするというのがもてはやされていましたし、美少女キャラのガレージキットが本格的に始まった90年代には、人気キャラのそっくりさんのヌードフィギュアが出ていたりもしました。
現在のような塗装済みのPVC完成品フィギュアが出始めた2000年代初期には、服を脱がせることが出来る美少女フィギュアが多数登場、某特撮番組になぞらえて「キャストオフ」という通称も使われるようになりました。脱げること、裸であることをメインにしたフィギュアもジャンルとして定着し、そちら系専門のフィギュアブランドも多数生まれました。と、このように元々非常に根強い存在だったこのジャンルなのですが、最近またいろいろと面白いことになっているのです。
まずはブランドの増加。以前からセクシー系フィギュアを中心に展開するメーカーは存在していましたが、このところその専門ブランドが急増しているのです。その状況を確認できるのが、ネイティブの通販サイト。
セクシー系フィギュア専門のブランド、ネイティブはそのクオリティの高さで人気のメーカーで、販売は自社のウェブサイトでの通販のみです。コンスタントに自社ブランドのフィギュアを発表&通販してきたのですが、数年前からこの通販サイトで他社ブランドのフィギュアも並ぶようになっています。これはネイティブの別ブランドというわけではなく、それぞれ別個の会社のブランド。それがこの数年で急激に増えているのです。
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このネイティブの通販サイト(https://native-store.net/ja/)の右側のバナーに注目。ココに並んでいるのが各ブランドになります。テーマや造形の方向性などブランドごとの特徴があったりで、なかなかバリエーションに富んだことになっているのも、この流れのポイント。もちろん、そのクオリティも極上のもの揃いです。
次に、セクシー系フィギュアの方向性の変化。もともと、いわゆる美少女ゲームキャラの立体化は盛んに行われていました。一時期盛んに立体化されていたのは「ToHeart2」のタマ姉こと、向坂環。一般アニメでもセクシーシーンが多い作品からのフィギュアも人気でした。代表的なのは「一騎当千」の関羽雲長。いずれもいわゆるキャストオフ可能で、最盛期には1カ月に何体も新作フィギュアが発表され、週刊タマ姉、週刊関羽と呼ばれるくらいの勢いでした。それぞれ実際の売上もすごかったそうです。
現在でも美少女ゲームキャラのフィギュア化は人気なのですが、それとは少し違うパターンのフィギュアも多めになっています。それは、人気イラストレーターとのコラボ。
ネイティブの場合はその最初期から、イラストレーターと組んで描き下ろしイラストを立体化するのを中心にしていました。フィギュア向き、立体向きのシチュエーションを企画段階から打ち合わせて、フィギュアだからこその魅力的なものを作り続けてきています。ネイティブの通販サイトで扱っている他のブランドも大体同様の方向性。
(C) 絶対少女/RAITA
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RAITA氏が同人誌で描いている「魔法少女シリーズ」から立体化した「倉本エリカ」。原型は緋路氏、2018年11月に1万7800円(税込・送料別)で発売されたものです。
(C) saitom
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saitom氏オリジナル同人誌「WRAPPING」の表紙から「夏海」。原型はアビラ氏で、2019年2月に1万7800円(税込・送料別)で発売されました。
いずれもネイティブからの発売で、同人誌からのフィギュア企画。イラストのタッチと原型師のタッチがマッチしています。
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もちろん、人気の美少女ゲームからのフィギュア化も。「ネコぱら」の「ショコラ」と「バニラ」。原型はグリズリーパンダ氏、各1万9800円(税込・送料別)で、2019年12月発売予定(受注は終了)。この「ネコぱら」はゲームに始まってアニメにもなり、海外でも非常に人気が高い作品なのです。
ネイティブ通販サイトとは別個で、以前からセクシー系フィギュアを展開している老舗メーカーのダイキ工業(http://www.daikikougyou.com/)も、そのラインナップを見ると面白いことになっています。これまで「一騎当千」や美少女ゲームキャラのフィギュア化を多数手がけてきていたのですが、ここ最近はイラストレーターとのコラボが増えています。それも活躍の場が専業商業イラストレーターとは違って、同人だったりpixivだったりするクリエイターも多くなっているのです。
(C) きくらげ
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きくらげ氏の同人誌「黒のリーマンと死霊使いクロエル」から「死霊使いクロエル」をGODDES氏(メガミ事務所)が立体化。1万8000円(税抜)で、2019年12月発売予定。
(C) 柾見ちえ
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柾見ちえ氏がフィギュアのために描きおろしたイラストを立体化した「中華娘 小華」。原型はメジリヨシヲ氏、1万8000円(税抜)で2019年9月発売予定。
(C) HitenKei(Hiten)
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Hiten氏の同人誌「R.E.I.N.A」より「神楽坂レイナ ポニテ illustration by Hiten」。原型はD蔵氏(diskvision)、1万7000円(税抜)で、2019年10月発売予定。
(C) INDEX ACG
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これは、Qazieru氏が描いた台湾のアニメショップとサークルの看板娘INDEXGIRLSシリーズ「INDEXちゃん」。原型は蔦風徒子氏、1万9000円(税抜)で2019年11月発売予定。
ダイキ工業も同人誌や描き下ろし、さらには台湾のアニメショップのキャラと幅広いラインナップ。しかも、見たまんまセクシーなものもあれば、一見して脱げるとは分からないような物も。ちなみに昔の脱衣フィギュアはちょっと無理矢理なものもあって、着衣状態とヌード状態の両立があまりできていない(片方のプロポーションが崩れている)ものもあったのですが、最近は造形技術や素材の進化もあり、どちらの状態でもしっかり楽しめるようになっています。
そして、こういったセクシー系フィギュアは、売れ行きにおいても堅調とのこと。下手な一般フィギュアよりも確実に売れることが多いそうです。最近のアニメの多くは、その人気は長期間続かず、1年かけてフィギュアが発売になったころには人気のピークは去っていたりする状況で、なかなかフィギュアで展開するのは難しいのです。それが、魅力的なイラストレーターのオリジナルという要素に、さらにエロというスパイスも加われば、より強力になります。アニメと違って古く感じるということもありません。ネイティブでは企画を立てる際に、2年後でも人気が継続しているであろうイラストレーターを意識していると、「フィギュアJAPANマニアックス」に掲載したインタビューでも答えていました。
他のジャンルでもエロだからこそ出来る利点のひとつとして、エロというポイントさえ押さえていれば、他は比較的自由でクリエイターの個性を出しやすいというのがあります。日活ロマンポルノや、エロマンガ、美少女ゲームなど、そのジャンルから出てきた才能、そのジャンルだからこそ発揮できたある種最先端の表現がありました。フィギュアジャンルでも、一般フィギュアでは比較的難易度の高いオリジナルキャラの展開を可能とし、これもまた最近の一般フィギュアでは減ってきている原型師の個性を発揮した造形も行えるのです。
また、セクシー系フィギュアは海外でも好調。一般フィギュア同様に中国やアメリカなどでも人気が高いそうです。もっとも中国の場合は国としての制限なども多く、今後どうなるか分からないのですが(これはセクシー系フィギュアに限らず一般フィギュアも同様です)。
アメリカでの人気という点では、昨年の「Anime Expo」での状況が面白いことになっていました。この「Anime Expo」は北米最大のアニメコンベンションで、新作アニメのワールドプレミアや声優のイベント(今年は現時点で「Aqours」や宮野真守の参加が発表されています)なども多数開催され、日本からの注目度も急上昇しています。フィギュア系でもグッドスマイルカンパニーやコトブキヤ、バンダイなどが参加して、新作展示やパネルを行っています。
このパネルというのは、コンベンション形式ならではのもので、展示スペースとは別の部屋で行われる新作発表やトークイベント、ミニイベントなどのこと。AndoroidやiOSの「Anime Expo」アプリでそういったパネルへの参加希望者数が確認できるのですが、昨年の記録を確認したところ、一般フィギュアのパネルで最も人気の高かったグッドスマイルカンパニーのパネルよりも、セクシー系フィギュアを扱った深夜の18禁パネルの方が人気が高かったりします。「Anime Expo」はいわゆるHENTAI(アニメやマンガのエロ)の人気も非常に高いのですが、正直なところセクシー系フィギュアに付いてはそこまで広がっている印象はなかったので、意外な結果でした。アメリカでの需要はまだまだ伸びていくのではないかと思われます(なお、他にもフィギュア関係がいろいろ面白そうなので、今年の7月に開催される「Anime Expo」は個人的に取材に行く予定。またそのあたりのレポートコラムもあらためて)。
昔からどんなジャンルにおいてもエロ系というのは根強く、いろいろな制限はあるものの、基本的に自由な存在。フィギュアでもそれは同様です。可動エロフィギュアが出てきたり、女性向けの男性エロフィギュアが出てきたり、いろいろと面白いことも起こっています。今後日本国内も海外も、どんな展開になっていくか、かなり興味深いところです。
ホビー&フィギュア トレンド
[筆者紹介]
島谷 光弘(シマタニ ミツヒロ) フィギュア専門誌「フィギュアマニアックス」を企画・編集し、2000年頃からフィギュアが質、量、人気ともに拡大する10年以上の時期をメディア側で見続ける。現在はフリーでウェブ「ホビーマニアックス」の運営や、ホビー系のウェブやメディアで執筆中。
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