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特集・コラム 2022年4月21日(木)19:00

ホビー商品を告知・広報するということ ホビ-誌のフィギュア記事の変化

まずは、最近のホビー・フィギュア関係のあれこれから。
 2月のワンダーフェスティバルの参加者数などのデータが正式に発表されました。ディーラー数は1000(当初申込1487)と通常の約半分、入場者数は1万3160人で、通常の約1/3。やはり少し寂しい数字ですが、あの状況下では健闘したと言ってもいいかもしれません。7月開催の次回ワンフェスはいつも通りとまではいかないにしても、もう少しなんとかなってほしいものです。
 その7月のワンフェスでも当日版権関係で若干ゴタゴタがありました。「ウマ娘」「プリンセスコネクト!Re:Dive」などCygames関係の当日版権が全てNGになったという発表があったのです。その後、当日中にCygamesと再交渉中という発表が行われていったんは保留になっています(4月20日現在)。「ウマ娘」は前回のワンフェスで当日版権申請ディーラー数最多で、この夏でもトップクラスの申請があるタイトル。結果がどうなるか、ワンフェスというイベントそのものに非常に大きな影響を与えることになります。最終的な発表がどうなるか、注目です。
 一方、中国でのコロナ状況の悪化で、4月に開催が予定されていたワンダーフェスティバル上海は延期が決定。この中国のコロナ状況は工場、流通などにおいてもかなり大きな影響を及ぼしており、フィギュア関係も発売延期が相次いでいます。
 発売延期だけではなく、価格面でもフィギュアは厳しいことに。人件費や原材料費、運送費の高騰によって、これまで一部の例外を除いて税込3900円をキープしていたグッドスマイルカンパニーのPOPUP PARADEが、税込4800円に値上げ。他にもちょっと凝ったフィギュアは現時点でも3万円が普通になってきています。さらに、このところの急激な円安もあり、フィギュアの価格も全体的に大変なことになりそうです。

で、今回のネタ。前々回でメーカー側のフィギュアの広報・告知についてまとめましたが、今度はメディア側の変遷についてまとめてみたいと思います。

2000年以前、コアなファン向けのフィギュアはほぼすべてがガレージキット。その告知媒体はホビー専門誌が中心で、新製品情報コーナーに加えて、作例として組み立て&塗装された物を大きく扱う記事もありました。ただ、そのころのフィギュアの見せ方は、雑誌記事だけではなくリリース写真も、正面全身、別角度全身(背面側が多め)、顔アップ(正面全身とアングルの変化なしで拡大だけしたようなものが多い)というシンプルなパターンが非常に多かったのです。
 それが、現在の雑誌では様々なアングルから撮影して掲載することが当たり前になっています。この変化がいつ頃から起こったか、実ははっきりココと言っても良いポイントがあるのです。それは、「電撃ホビーマガジン」で00年からはじまった「乙女組」というフィギュアコーナー。自分が担当していた企画で、開始当初は美少女フィギュアを紹介してアニメなりゲームなりの作品そのものについて語ろうというイメージの記事でした。毎回担当ライターも変えてあれこれ扱う予定だったのが、結局すぐに白虎かなめ氏というライターがほぼ専任で担当するようになります。記事自体もその頃からどんどん勢いを増していた美少女フィギュアの新作紹介が中心になり、その後ページがどんどん増大してアンケートでも上位常連になり、担当ライターも増えていきました。そこから、「フィギュアマニアックス」というフィギュア専門ムックも誕生し、ガレージキットから完成品フィギュア、可動フィギュアのブームまで10年以上あれこれおっかけることになるわけですが。
 その白虎氏の記事の特徴が、よくメーカーの担当者さんに「白虎アングル」と呼ばれていた写真の撮り方。それが、今となっては当たり前になっているあれこれのアングルから撮るやり方なのです。それも、今のウェブ記事で多いようなただひたすら同じような角度でちょっとだけ違う写真を大量に載せるというのではありません。そのフィギュアの魅力を伝えるにはどの角度から撮れば良いか、きっちりセレクトしているのです。白虎氏の場合はそれが絶妙で、フィギュアをつくった原型師からも「そんなアングルで撮るとは思いも付かなかった(そしてそれが的確な狙いだった)」とよく言われていました。もともと白虎氏はフィギュアが好きで、ホビー誌に掲載されている写真を見て、「もっとこっちの角度から見たいのに」と思っていたのをそのまま実現させたものなのです。白虎氏以前にいろいろなアングルの写真を掲載した記事が皆無だったとまではいいませんが、はっきり意志をもって商業誌に掲載したのは初めてだったといえるでしょう。
 基本的な記事レイアウトは、全身写真をメインにおいてアップの写真をその周辺に配置するかたち。白虎氏の証言によると、アップの写真の配置は全身写真に対して近い高さにおくことで、フィギュアを実際に手に持って回してみているような感覚になってもらいたかった、とのこと。発売前のフィギュアをじっくり見ることができた白虎氏の興奮を共有して欲しいという思いだったのです。
 そのやり方は、フィギュアブームが起こるなかで他誌にも波及して、一般的な見せ方になりました。フィギュア専門ムックも他からも出るようになりましたが、なかには他に載っていないアングルにこだわるあまりに、そこを撮ってはだめだろうというとてつもなくヒドイ写真を載せるムックもあって、閉口したものです(笑)。

01年に出た「フィギュアマニアックス」の1冊目。写真の見せ方だけではなく、その頃の他のフィギュアムックでは扱っていないような完成品フィギュアなども積極的に掲載していました。

01年に出た「フィギュアマニアックス」の1冊目。写真の見せ方だけではなく、その頃の他のフィギュアムックでは扱っていないような完成品フィギュアなども積極的に掲載していました。

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雑誌で掲載するアングルのセレクトということでは、物理的な制限もあります。1ページあたりに掲載するカットを多くするとそれだけ1点あたりの面積が小さくなってしまうので、雑誌では1ページ6~7点を基準にしていました。また逆に大きく掲載しすぎると肉眼では見えないような粗まででてしまうということも。当時はせいぜい1.2~1.5倍くらいが限界。大きくしすぎることを「拡大の刑」なんて言ってました(笑)。今のフィギュアは造形&塗装の密度もあがって、2~3倍に拡大してもびくともしないものが多いですが。
 その写真も昔はフィルムカメラ。普通の35ミリフィルムより大きい4×5フィルムを使っていました(35ミリだと雑誌の1ページに拡大するのはむずかしいのですが、4×5なら使用可能)。撮影の手順もなかなか大変で、アングルを決めてライティングしたらまずモノクロのポラロイドで1枚撮影し、そのアングルでいいかどうかを確認(ポラロイドの写真が出るまでの数分間、なかなか手持ち無沙汰ながらも、原型師さんやメーカーさんとあれこれ話ができる機会でもありました)、そこから露出を変えながら本番のフィルムで撮影、翌日くらいに現像されてきたフィルムをカメラマンさんがチェックし、適切な露出のものをセレクトしてくれます。それを使ってデザインラフを切って、入稿、校正、印刷となるわけです。最適なフィルムは1枚しかないので、再利用したいときや別ページで使いたいときはなかなか面倒で、保存してあるバックナンバーの写真を探してきたり、別フィルムに複製したり。デジタル写真のように何枚でも自由にコピーできるわけではないので、管理が大変でした。結局、行方不明になることもたびたび。
 写真の精細さが求められる雑誌なので、デジタル写真への切り替わりは他よりも遅かったのですが、00年代も終わる頃だったか、ホビー誌でもやっとデジタルカメラを使うようになってきます。画質や解像度面で対応可能なデジタルカメラが増えてきたというのと、以前はRGBカラーの写真を印刷用のCMYKに変換する印刷所側の出力も不安定で、色がずいぶん変わることも多かったのが、そのころにはなんとかなるようになってきたというのもあります。それでも紫や青系統など、デジタルでは出にくい色はありました。現在はデジタル写真だからこその撮り方や記事の作り方も多くなり、その場ですぐ確認できる、短時間で画像が準備できる、イベント取材で撮影枚数制限に悩まされることがないなど、デジカメ以外はもう考えられないですが。
 ウェブメディアの話も書きたかったのですが、長くなりそうなので、それはまた別の機会に。

最後にちょっと宣伝。「月刊ホビージャパン」でまたフィギュアについての連載記事をはじめました。「原型師列伝」と題した物で、原型師さんに焦点を絞ってまとめたものになります。以前の連載と違って、最新フィギュアの写真も多めになっています。発売中の5月号では第1回として、現在のフィギュア界でもトップクラスの活躍をしているグリズリーパンダ氏、そして4月25日発売の6月号では、伝説的なフィギュアであるハルヒバニーをはじめ数々の名作を生み出してきたレジェンド原型師、BUBBA氏にお話を伺っています。

島谷 光弘

ホビー&フィギュア トレンド

[筆者紹介]
島谷 光弘(シマタニ ミツヒロ)
フィギュア専門誌「フィギュアマニアックス」を企画・編集し、2000年頃からフィギュアが質、量、人気ともに拡大する10年以上の時期をメディア側で見続ける。現在はフリーでウェブ「ホビーマニアックス」の運営や、ホビー系のウェブやメディアで執筆中。

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