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特集・コラム 2024年12月26日(木)19:00

【神風動画20周年コラム―肺魚―】#04 組織構造の基礎を築いた初期メンバー 棒切れからライトセーバーに

創立20周年をむかえた神風動画の代表・水﨑淳平氏が私小説風に同社の歴史をつづるコラム第4回。「スター・ウォーズ」シリーズのアンソロジーアニメ「STAR WARS VISIONS:The Duel」監督の水野貴信氏(水﨑氏は総監督)が同社の面接をうけたときのエピソードが“3DCG経験者あるある”をおりまぜながら詳述されています。水野氏自ら当時のことを描いたイラスト、「SAND LAND」監督の横嶋俊久氏が描いた4コマ漫画にも注目です。
 神風動画の制作管理の礎(いしずえ)を築いた同社初の制作進行Sさんの仕事ぶりにも触れられ、神風動画がチームとして成長していく過程が「初期に出会ったメンバーとの向き合い方」とともに振り返られています。
 来年2025年3月21日に国内の各プラットフォームで配信開始予定の「ニンジャバットマン対ヤクザリーグ」(水﨑氏、高木真司氏による共同監督)にも期待が高まる、神風動画の貴重なプレストーリーをお楽しみください。(アニメハック編集部)


2022年9月、水﨑は同世代スタッフの水野氏とロサンゼルスにいた。神風動画のCGチームのリーダーシップをとる水野氏の監督作「STAR WARS VISIONS:The Duel」が“エミー賞”にノミネートされたのだ。授賞式会場には見た事もない広さのホールに、ものすごい人数の参加者がスーツ、ドレスを身につけ飲食を楽しんでいる。とにかく“ハリウッド”を感じる空間である。
 水﨑、水野氏共に50年という人生の中で最も豪華な経験となったであろうこの授賞式から遡ること19年、実は彼はちょっと変わった流れで神風動画にやってきたのだった。

エミー賞の水﨑・水野氏ほかルーカスのメンバー

エミー賞の水﨑・水野氏ほかルーカスのメンバー

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「STAR WARS VISIONS:The Duel」

「STAR WARS VISIONS:The Duel」

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2003年秋、この年に法人化したばかりの神風動画だったが、にも関わらず知名度の浅いはずの会社の求人への反応はそれなりに良く、書類選考や実技試験を導入した。応募が多いのは、東京国際アニメフェアでの「ナンバー吾PV」展示や、ゲーム会社からのOP映像などを独自性の強い制作にこだわり、その珍しい絵作りへの取材など媒体への露出も多かったためだと思っている。そして他のCGスタジオと比較すると、WEB上の求人もしっかり作って更新していたと記憶している。

初めての“CGアニメーター職種”の実技試験には数人が参加し、そのうちの1人が水野氏だった。CGの実技課題として水﨑がラフなコンテを準備しておいた。キャラクターが棒を持ち、構えて縦と横に素振り、そこから自由なワンアクションを行い、最後に構えを解くまでの内容……だったと思う。
 ラフな棒人間キャラのCGモデリングやリグ(キャラクターの骨を設定する工程)を組み立てるところからを試験にしていたと記憶している。アニメーターもモデルを理解している必要があると神風動画では考えており、関節部分のポリゴンの割り方を一考し、関節が歪(いびつ)にならないよう配慮ができるかどうか、なども試験での重要な点なのである。

履歴書と共に水野氏から応募されてきたポートフォリオ作品は実に独特で、登場人物の芝居にはこだわりを感じた。しかし実技試験を終えて帰宅する水野氏は、落胆とも取れる表情で帰っていったのである。水﨑はすぐに、当時のスタッフたちと実技試験で提出されたアニメーション内容を確認した。
 モデリングされたキャラクターの造形は良く、しっかりしたデッサン力を備えていることがわかる。棒を持ち、構えて力強く縦横に振る、ここまでは良い。しかし次の瞬間、キャラクターは腰のあたりを強い力で後方に引っ張られるように宙に浮いてそのまま謎のポーズで静止した。手足の先端は元の場所の方向に伸びきり、まるで腹を殴られて吹っ飛んだ後に時間停止を喰らったように。
 3DCG経験者であればこれがどういう状態かわかるだろう。水野氏はモデリングと関節の設定まではしっかり終えたが、アニメーションを最後まで終えることが出来なかったのだ。これは何かわけがあるのだろうと感じ、改めて履歴書を確認すると、

“主な使用ソフトウェア/ LightWave3D(Mac版)”

普段はMac版! 実技試験の環境はWindowsなのに、である。水野氏はおそらく触ったことはなかったであろうWindows版の3DCGソフトで大事な実技試験を受け、言い訳もせずに帰っていったのだ。まだ日本には侍がいた。

「WINとMacの違いに苦戦する」(イラスト:水野貴信)

「WINとMacの違いに苦戦する」(イラスト:水野貴信)

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水﨑はすぐに電話をし、水野氏自身のMac環境での再提出を提案した。もちろん彼は再提出に意欲を示しその日の夜のうちに取り掛かり、改めて提出されてきた。
 本来であれば、使用環境の確認を怠ったのでは?とか、その場で実力を残せなかったのだから再提出はフェアではない、という社会的な厳しいジャッジもあったかもしれない。 しかし水﨑は、作業環境を言い訳にしなかった“侍”の本来の力を見たかった。
 再提出された本気の課題は基礎がしっかりし、自由にできる箇所の演技にはユーモアもあり、文句なしで合格となった。再提出の際の作業時間も正しく守ったとのことで、今にして思えばこの時の水野氏の誠実さと真面目さ、安定した上手さは20年以上経った今でも根本は何も変わっていない。

神風動画はこのあたりから人も増え始め、そろそろ大学サークル感覚でやっていてはいけない状況となってきた。会社に人が来はじめるのは決まって午後から、全員が揃うのはだいたい夕方、そして帰宅は終電というのが定番だったと当時を知る横嶋監督は語る。

「集まるのはだいたい夕方」(作:横嶋俊久)

「集まるのはだいたい夕方」(作:横嶋俊久)

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せっかくクライアントからのリピートもいただくようになっているので、昼過ぎまで誰も電話に出ないのはマズいと感じ、ひとまずはクリエイター職ではないポジションとして初めての“制作進行”もこの頃に初採用した。
 これまで水﨑は就職先で2年程度しか続かない癖が続いており、すぐに新天地に目が向いてしまうのを繰り返していたため、そんな自分を檻に閉じ込めるために会社を作ったのだが、その檻から逃げないよう自らを監視する役割として“制作進行”が必要だと考えていた。
 短期間で新天地に目が向いてしまうのは、転勤族の子として生まれた環境がそうさせているのだと言い訳をしておきたい。
 転勤族として育った水﨑は、「友達はいつか別れるもの。」「教育方針や学校ルールは地域ごとに方針が違い、個人としての大人が必ずしも正しいわけではない。」という気づきを経たことで、友には薄情で、大人に対しては俯瞰的に見る人間となった。そんな感覚ゆえに今では“映像とはこうである”、“アニメーションとはこうである”という仕切りを平然と無視した作風を身につけ、それ自体は破天荒だと評していただくことも多いが、ただ水﨑は人とは物事の段差や境界線の概念が俯瞰的であり、感覚が壊れているだけである。

話を戻すと結局この会社には、クリエイターに対して“怒る役割”がいた方がいいということだ。Sさんが制作進行として入ってからはスタジオとしてのルールもでき始め、じわじわと午前中にはスタッフが出社するようになってきていた。
 神風動画初の制作進行の“Sさん”は、それから16年間ずっとこの会社に付き合ってくれた。コロナ禍に入った瞬間くらいで退職されたので、送別会が出来ていないのが心残りであるが、Sさんが神風動画の制作進行の基礎となったことは間違いなく、そのメンタルのふてぶてしさは今となってもクリエイターに振り回されない制作進行の心構えとして受け継がれている……のかもしれない。

「大石さんの席」(イラスト:水野貴信)

「大石さんの席」(イラスト:水野貴信)

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この2003~07年あたりの4年間を“武蔵境時代”と呼んでいるが、この時期は主にゲームのOPムービーやMVなどがメインだった。なかでも印象的だった作品が「ZOO」というオムニバス映画に参加したことだ。
 これは当時、新進気鋭の作家といわれた“乙一”氏の短編集「ZOO」から5作品を短編映画にしようというプロジェクトで、東京国際アニメフェアで声をかけて下さった東映ビデオのプロデューサーからの呼びかけによる企画だった。小説原作で短編を監督できるとなると、これはまたとないチャンスである。
 細かな制作工程や経緯を語っても取り留めがなくなるので控えるとして、結果としてはいい形で完成し、そして完成時に身体を壊した。歯医者に通う時間がないほどの物量に向き合い、奥歯に大きな穴が開き、そして太った。制作着手時に名刺交換をしたポスプロスタジオの同じ担当者から、完成後にまた名刺を渡されるほど別人のように太ったのである。
 身体を犠牲にしながらも完成させた作品は、乙一氏の短編「陽だまりの詩」のアニメーション版としてオムニバスの1作品として劇場上映された。20代で劇場監督作デビューするという目標はギリギリ達成されたが、健康だった奥歯1本と、当時は引き締まっていた身体を失ってしまった(すぐに鍛えて戻した)。
 この「陽だまりの詩」では、脚本とキャラクターデザインを漫画家の古屋兎丸先生に個人的に依頼した。そして前回までのコラムに登場した鈴木氏が美しい情景を描いてくれ、横嶋氏はCGのレイアウトを組み、水野氏はキャラクターのアニメーションをつけ、制作進行のSさんがスケジュール管理をしてくれた……気がする。気がすると書いたのは、この時点で制作進行がいたのかどうかちょっと時期の記憶が曖昧なのだ。
 オムニバスの他4作品は同様に乙一氏の短編を実写で映像化した作品で、神風動画の担当した「陽だまりの詩」だけがアニメーションとなっている。今は配信などで見る手段がなさそうなのだが、DVDは買えるのでぜひ見てみていただけると幸いです。

余談だが、この作品を取り上げるあたり改めて調べていたところ、映画レビュアー“かいばしら”氏がこの映画「ZOO」をレビューされていて、特にこの「陽だまりの詩」をピックアップしてくれていたことが嬉しかった。

思い返せばこの時期の神風動画初期メンバーが、現在でも会社の主要チームの基礎となっている。
 京都での立ち上げから一緒にやってきた桟敷君は今も「ニンジャバットマン」や「STAR WARS VISIONS:The Duel」でのメカ、キャラのデザインも行い、時にはパート監督もこなす。鈴木氏はその後も神風動画内でのキャラクターデザインや世界観を担当し、実は著名なゲーム「黒猫のウィズ」や「ドラゴンクエスト」の「ルイーダ」も氏によるものだ。
 横嶋氏と水野氏もそれぞれ「SAND LAND」や「STAR WORS VISIONS:The Duel」などの監督として、映画祭などの国内外からの評価を得ている。
 制作進行のSさんから始まった神風動画の制作チームも現在はその独自な制作現場をしっかりとまとめ、神風動画の納品を守り続けている。

このコラムは、これを読んだクリエイター志望だったりアニメーション制作チームの立ち上げを考えている人がもしいたとして、これが一つの参考になればと思って取り組み始めたところはあった。そんな方たちに知っていただきたいのは、「初期に出会ったメンバーとの向き合い方を大切に」という点である。
 たまに「会社を大きくしたければ、初期メンバーとは別れろ」などとあるが、自分は逆だった。初期メンバーとはずっと対等な関係を保ち、どうやって会社を良くして楽しい空間にするのか、どうやって技術を向上させるのかなどの意見を同じ目線で出し合ってきた。
 そして彼らに任せる部分も初期から持ち合わせ、それが現在の組織構造の基礎となっている。
 そもそも立ち上げたばかりの不安定でいつ消滅するかもわからない、知名度もないような会社に応募し、人生をかける覚悟を持った貴重な初期メンバーである。もちろん個人の損得も考えられる余地を持って、互いに適度な距離感で会社の構造を一緒に考えてきたつもりである。ただの仲間意識だけではなく、ひとりひとりの生き様と時間を第一に考えてきたからこそ、その領域は守られ続けて今でも一緒に続いているのかもしれない。
 20年前と現代では社会も価値観も変わってきているが、人が夢をみることは永遠に変わらないことであり、そこを第一にすべきなのはいつまでも変わらないと思いたいし、これからも変わってほしくないことである。

何が正解とは決めつけてはいけないのだが、あの時に水野氏の実技課題からの違和感を感じ、折り返しの電話をしたことは今となっては大正解だったと自負している。
 水野氏のやり直しの実技課題でキャラクターが振った棒きれが、令和でライトセーバーとなるとはあの当時は想像できなかったが。

水﨑 淳平

神風動画20周年コラム―肺魚―

[筆者紹介]
水﨑 淳平(ミズサキ ジュンペイ)
クリエイティブプロデューサー。グラフィックデザイン・ゲーム・アニメーションなど多岐に渡る業界経験を元に、2003年有限会社神風動画を設立。スタイリッシュな映像センスと遊び心に溢れた作家性を武器に革新的な映像を生み出している。「ドラゴンクエスト IX 星空の守り人」やテレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」OP、安室奈美恵やEXILEのMVなどの短編作品を経て、長編作品「ニンジャバットマン」が世界的に話題となる。

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  • 「WINとMacの違いに苦戦する」(イラスト:水野貴信)

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