2020年7月21日(火)19:00
【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第31回 〈おじさん〉だって悩みたい「デカダンス」
(C)DECA-DENCE PROJECT
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「進撃の巨人」か「龍の歯医者」を思わせるような雰囲気のオリジナルアニメが始まったなあ……そういえば立川譲監督も脚本の瀬古浩司さんも「進撃の巨人」に参加しているっけ……アクションもちょっと立体機動装置みたいな感じだなあ……なんてなことをぼんやり考えながら眺めていたら、意表を突かれたよ、「デカダンス」。
【以下、作品の重大なネタバレあり】
1話で丁寧に描かれた世界は、「サイボーグ」と呼ばれる人類が長い時間の果てに変質した存在が、地球上の実在する大陸を使って楽しむゲームのもの。主人公のように登場したナツメは、そのゲームの中で、自分を取り巻く世界がゲームとして設定されたものであると知らずに暮らす、自律思考型のNPC的な存在……絶滅寸前の「人間」である。対して、そのナツメと師弟関係のようなコンビを組むことになる中年男のカブラギはサイボーグ、つまりこのゲームのプレイヤーサイドにいる存在。ナツメはこの世界の平和を脅かす「ガドル」なる一群のモンスターを、父親の仇として敵視しているのだが、ガドルは単なるゲームシステムが設定した敵キャラに過ぎない。つまりナツメの人生の目的は、カブラギからすれば、所詮はゲーム内でのちょっとしたエピソードのひとつでしかないというわけ。どうやら物語の軸は、復讐を胸に誓ったひとりの少女の成長ではなく、わけありのうらぶれた中年が、本来であれば取るに足らない存在だったはずのゲームの登場人物との交流で変わる姿を描くことのようだ。道理で、キャストクレジットのトップはカブラギなわけである(……そういう2時間サスペンスドラマの犯人を配役で当てるような見方をするのはどうかと思う)。
「人間」と「人間ならざるもの」の関係性を問う作品は、古今東西のSFに頻出するテーマだ。日本のアニメも、そうした題材を比較的好んで取り扱ってきた。真っ先に名前が挙がる代表例は、押井守監督の「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「イノセンス」だろうか。ほかにも、近年のものに限っても「蒼き鋼のアルペジオ-アルス・ノヴァ-」「BEATLESS ビートレス」を始め、列挙しようと思えばいくらでもいける。これはおそらく、この主題に「フィクションに接するとはどういうことなのか」「架空のキャラクターに思い入れるとはどういうことなのか」といった、フィクションの作り手にとっても受け手にとってもシリアスな主題を投影しやすいからなのだろう。時に人は、生身の人間の言葉以上に、フィクションに登場するキャラクターの言葉に心動かされ、生身の人間以上にフィクションのキャラクターを愛する。現実の出来事以上に、フィクションの中に描かれた物語に泣き、笑い、心揺さぶられる。このコラムを読んでくれているようなアニメ好きには当然のことかもしれないが、一歩引いて冷静に考えてみると、これはかなり不思議な現象だといわざるを得ない。
「デカダンス」の設定面でのおもしろさは、こうしたある種クラシカルな物語の構図を採用しながら、従来のテーマで「人間」にあたる立ち位置に、「人間ならざるもの」である「サイボーグ」を代入し、「人間ならざるもの」の位置に「人間」を代入していることではないだろうか。もしかしたら、この設定が生まれる過程では、AIのシンギュラリティ(技術的特異点)の話なども意識していたのかもしれない。そう考えると、私たちの生がすでに私たちを超える何がしかの超存在によって規定されており、主体性や自由意志が失われていることをスタートラインにして何か物語を描こうとしているのかもしれない。もしくはそうではなくて、ある種の比喩、もはやアニメやゲームの中にしか、「人間」的な感覚を持った存在はおらず、それを鑑賞し、プレイする私たちは、自分の意志や主体性を持っているようなつもりでいるものの、その実は何か、ただ巨大なシステムを回すリレースイッチのような「サイボーグ」に変質してしまっているという状況を、寓話的に描き出そうとしているのかもしれないとも考えられる。そう捉えると、サイボーグたちがゲームの中で果たす役割が「ギア」と称されているのも意味深だ。この設定面でのひとひねりで、作品の解釈の幅が、グッと広がっている。
そのどちらでも、もしくはどちらでもなくても、こうした設定を導入したからには、おそらく物語は「人間とはなんだろうか?」「生きるとはどういうことだろうか?」といったテーマに正面から挑みかかることが予想される。「巨大な拳型の兵器が、富士山並のサイズを誇る怪獣をぶん殴る」というエッジなビジュアル・センスと、そうした、いってしまえば泥臭くて、熱いテーマのマッチングの妙が、どんな地平に視聴者を連れて行ってくれるのだろう。期待は膨らむばかりだ。
そして、もうひとつ。そうしたテーマを、少年でも少女でもない、年齢的には大人の男性……あえてこの言葉を使えば、昨今何かとネガティブにばかり語られる〈おじさん〉に引き受けさせている点も、興味を惹かれるところ。〈おじさん〉が主役のアニメは、しばしばアニメファンのあいだで待望論が沸き起こりつつも、なかなか登場しない(パッと思いつくものだと、「課長王子」「Z.O.E Dolores, i」「天保異聞 妖奇士」「TIGER & BUNNY」くらいかな)。久々に現れた〈おじさん〉主人公の活躍という点でも、今作のこれからを楽しみにしたい。他人事みたいに書いてますけど、まあ、いうて私も、アラフォーですから。相変わらず、文章にも佇まいにも年相応の貫禄がないけれども……チャラいけども……とほほ……。
前Qの「いいアニメを見に行こう」
[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ) 1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。
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