2022年5月21日(土)19:00
【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第42回 あの深夜ドラマを思い出す「このヒーラー、めんどくさい」
(C) 丹念に発酵/KADOKAWA/このヒーラー、めんどくさい製作委員会
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福田雄一監督といえば、昨今インターネットのオタクたちのあいだでは何かとあれこれ言われがちなクリエイターだけれども、「勇者ヨシヒコ」シリーズはおもしろかった。あと「アオイホノオ」。そんな話をなぜいきなりアニメのコラムで始めたのかといえば、「このヒーラー、めんどくさい」を見ていると「ヨシヒコ」を思い出すから。
それはこの2作に、「国産RPG的なファンタジーものの定番の設定や展開をパロディにしておちょくるコメディ」という共通点があることだけが理由じゃない。というか、ファンタジーもののアニメがおどろくほど大量に作られ続けている昨今、ほかにもそういう作品は山ほどあるけども、これまで別にそう感じたことはなかった。じゃあ、何がそう意識させるのか? それは冴えない中年冒険者のアルヴィンと、かなり“いい性格”をしたダークエルフの少女・カーラ、今作の中心となるふたりの掛け合いのテイストだ。
カーラのセリフは、その大半が毒舌な小ボケ。ピンチに回復魔法をかけてくれるように頼まれると、まず土下座を要求。それも平然と。「顔色が悪い」という局面では、ほぼ確実に「顔が悪い」と返す。これに限らず、何があろうと絶対に直球の返事で応えない。セリフを一捻りする。そして常に自分の利益になるように考え、行動し、都合が悪いことからは逃げ、そして「天使」を自称するほどに自己評価が徹底して高い。であるがゆえに、キャラが崩れない。大西亜玖璃さんのあえて平坦な声の芝居も絶妙だ。ほぼ無感情な表現のなかに、ほのかに漂う毒気。キャスティングの妙を感じる。対するアルヴィン役、佐藤拓也さんの低過ぎず、高過ぎずなテンションの芝居もナイスだ。真面目なツッコミ役なのだが、どこかヘタレ感があり、キツめに突っ込んでもカーラにいなされ、会話がヒートアップしない。もちろん、そんな役者の芝居をきちんと引き出すためには映像演出、音響演出がしっかりしていなければならないのはいうまでもない。どれだけセリフやシチュエーションがおもしろかろうと、「間」が悪かったらギャグはあっさり死ぬわけで。
オフビート……とまで断言すると若干言い過ぎの感があるけれども、繊細なコントロールによって構築された、フラット気味なボケツッコミの応酬が生み出す笑い。そのあたりに「ヨシヒコ」っぽさを見てしまう。シリーズが完結してからはや数年。ちょっと寂しさを感じている人にオススメしたい。
そんでもって、この種の笑いは、アニメでは結構珍しい。アニメの「笑い」は、基本的にはやはりカートゥーン由来の、軽快で過剰な動きから生み出されるスラップスティックなものが根幹にあるから。漫才的な会話で「笑い」をとるときも、どちらかといえばツッコミ重視。ボケに対するリアクションがエキセントリックであればあるほど、笑いが起こる構造のものが多いのではないか。「銀魂」も「おそ松さん」もそうですよね。過去の名作まで遡れば、「タイムボカン」シリーズなんかも。そうした構造ではなくとも、行為のインフレ、ネタのエスカレーションで笑いを引き起こすものが多いように思うが、それに対して本作は淡々とネタを積み重ねていくところが味わい深いのであった。というわけで、慣れ親しんだものとちょっと違うテイストの「笑い」があるアニメを求める人にも、チェックしていただきたいなと思う次第。
前Qの「いいアニメを見に行こう」
[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ) 1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。
作品情報
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世のため人のため、冒険の旅を行く戦士アルヴィン。魔獣と戦闘中、ダークエルフのヒーラー、カーラが通りかかった。だが手助けを頼むと、カーラは「人に助けを求めるのなら、ひざまずいて額と両手を大地につけ...
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