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特集・コラム 2023年9月14日(木)19:30

【前Qの「いいアニメを見にいこう」】第50回 「生きづらさ」に向き合う「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」

(C) BanG Dream! Project

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攻めたアニメだな。「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」の初見の感想は、そんなものだった。先行放送された1話から3話までを一気に見たわけだが、主人公である燈の主観ショットのみで構成された3話のトリッキーな演出だけで、そうした印象をもったわけではない(インパクトはあったが)。それ以前の問題として、素直にキャラクターを好きにならせようとしていない、わかりやすい感情移入を登場人物の誰にもさせないような作劇だと感じたからだ。意図せざるものとしてそうなっているわけではないだろう。スタッフ陣は手練れ揃いだ。むしろ周到に、そのように作られている。すなわち、この作品はなかなか愛されない、「生きづらい」人たちに誠実に向き合おうとしている。

目下最新の話数である12話までを見ても、その印象は変わらない。物語の中心であるMyGO!!!!!の5人はもちろん、この作品に登場する主要なキャラクターたちの感情はつかめない。そうした作劇であっても、いや、それだからこそ深くキャラクターに感情移入し、ハマり込む視聴者はいるだろうけれども、間口の狭さはあるのではないか。「バンドリ!」シリーズというビッグコンテンツの関連作品の中で、人を選ぶことで深く突き刺そうとするような内容にあえてチャレンジしている、野心的な作りには敬服する。

ときおり、登場人物が何も考えていないように感じられる作品がある。状況にただただ流されているだけ、書き割りのように見えるキャラクター。今作のキャラクターのわからなさは、そうしたものでもない。むしろ逆で、一人ひとりのキャラクターの心中にものすごい感情が、思考が渦巻いているのは伝わってくる。そこまではわかるのだが、では、それが果たしてどういう感情であり、どのような思考なのかは、なかなかわからない。そもそも、はっきりとわからせようとしていないはずだ。それは「視聴者に対して」だけではない。作中の登場人物同士が、互いに身勝手な感情を抱き、それを誰かにぶつけはするし、究極的には理解してもらいたいとも感じてはいるようだが、他人に理解させるすべをろくに持たない。圧倒的なディスコミュニケーションが描かれている。これを「リアル」だとか「生々しい」と評していいものか、私としては少し迷ってしまう。生々しい人間関係においては、むしろもう少し、人は気を遣い合うのではないか。意図しないところで、言葉がなんとなく通じて、それに流されてしまうのではないか。通じていなくても、通じているかのように、なあなあで回るのではないか。それは私が、ギリギリで心を削り合うようなことのない、ヌルい人間関係にしか身をおいてこなかったから、そう感じるのだろうか。

そうしたディスコミュニケーション状態であるにも関わらず、バンドという共同作業の「場」は維持される。バンドと、そのライブ活動だけが、登場人物たちをかろうじてつなぐ。ここにおいても強烈だと感じるのが、燈に作詞とボーカルの才能があるとはされている。されているけれども、では、彼女の才能に惚れ込んだメンバーが集っているわけではないところだ。いや、たしかに、彼女の才能の素晴らしさに対して、たびたびメンバーは言及する。しかし、それすらも、本心だろうか? もちろん、当人たちはその言葉を、自分自身では本心だと信じているのだろう。だが私の目には、無意識の領域でもっと違う何かに突き動かされているように映った。誤解のないように慌てて付け足せば、楽曲のクオリティは素晴らしいものだ。曲に説得力がないからそう見えている、という話ではない。音楽が、それをバンドで演奏することが、演奏する場であるライブが、ディスコミュニケーションしか存在しないメンバーを繋いでいるが、その繋いでいるものすらも、別に絶対的なものではないように見える、ということ。このボーカルでなければ、このギターでなければ、このリズムでなければ、この5人でなければならない、決定的な音楽的要素があるようには見えない。才能や、音楽演奏における身体的な感覚(いわゆる、フィーリング)の一致で結びついているわけではないが、なぜかこのメンバーでなければならない。そんな尋常ならざるオブセッション(抑圧)のようなものが、メンバー間にある。

個人的な好みをいえば、音楽に関わる人と人の関係を繋ぐものは、あくまで音楽であってほしい気持ちはある。どれだけ人間的に合わなかろうが、音楽性の違いがあろうが、他の諸問題があろうがなんだろうが、「音楽が好き」であることだけは、どうしても裏切れない人たち。言葉や態度がどうあろうが、本質的に「音楽バカ」である人たち。プライベートでも、仕事の領域でも、自分がこれまで接してきた愛すべきミュージシャンたちは、とにかくその一点が、決定的に自分とは違った。それこそがミュージシャンをミュージシャンたらしめる聖性のように感じてきたので、MyGO!!!!!のメンバーがどこか音楽よりも人間を愛していて、人間を求める手段として音楽を、バンド活動をやっているように見えてしまうのは、一介の音楽好きとして、なんだか悔しいような、切ないような、気持ちがこみあげる。すごいアニメだと思って楽しんではいるのだが、「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」の中心に据えられたものに、「そうじゃないだろう」という違和感があるのだが、これも激しい誤解……作品と視聴者である私のディスコミュニケーションなのかもしれない。

答えは出ない。だから目が離せない。作品の内外にあふれるこの緊張感がどこまで続くのか。迷子たちの彷徨(さまよ)う道行を、これからも注視したい。自分自身も迷子のように、理解にいたる道を見失い続けながら。

前田 久

前Qの「いいアニメを見に行こう」

[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ)
1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。

作品情報

BanG Dream! It’s MyGO!!!!!

BanG Dream! It’s MyGO!!!!! 11

「一生、バンドしてくれる?」高1の春の終わり。羽丘女子学園では誰も彼もがバンドをしており、遅れて入学した愛音も早くクラスに馴染めるよう、急いでバンドメンバーを探す。そんな中、「羽丘の不思議ちゃん...

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