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特集・コラム 2025年8月2日(土)19:00

【前Qの「いいアニメを見に行こう」】第61回 酷暑にありがたい「ばっどがーる」のいやし

(C)肉丸・芳文社/ばっどがーる製作委員会

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体がどうしようもなく「きらら」アニメを求めてしまうときがある。「シュークリーム分が足りない」ならぬ「きらら分が足りない」状態だ。というわけで、数多の力作・快作・怪作がひしめく2025年7月クールだが、そのラインナップのなかからオレは「ばっどがーる」をコラムの題材に選ぶぜ! ライフで受ける!

「きらら分」とは何か。それすなわち、芳文社の「まんがタイムきらら」系列媒体にて連載中のコミックを原作とするアニメからしか摂取できない、いやし成分のことである。主要な原材料は女の子キャラクターのかわいさ。ほんのりとしたお色気が加わることもある。「ばっどがーる」はそちらのタイプだ。アニメ版のキャラクターデザインは、原作よりもいささか肉感的だし。とはいえ、キャラクターの肌の露出度は高くなく、けして下品な印象ではない。キュートさのほうがセクシーさに勝る。どっちが好きなの? どっちもタイプよ。すべてはバランスである。聖と俗。美にはどちらも必要なのだ。……何言ってんだコイツ? 自分でもよくわかってません。

話を戻そう。見た目のかわいさだけで「きらら分」は発生するのだろうか。違う。見た目のかわいい女の子キャラクターが登場するアニメというだけなら、他にもある。というか、放送されているアニメの大半に、何かしらの美少女キャラクターが登場するのではなかろうか。世はまさに大美少女時代である。なんつって、15年くらい前と比べれば随分そんな風潮も落ち着きましたけども。でもまだまだ、それに近い状況であるのは間違いない。では、そうした他の美少女が登場するアニメと「きらら」アニメとの分水嶺はなんなのだろうか。美少女から「きらら分」を発生させる触媒とは何なのか。

それは「日常性へのこだわり」と「穏やかなギャグ」である。「きらら」アニメのキャラクターたちも、彼女たちは彼女たちなりに、日常を離脱しようとは試みる。「ばっどがーる」においては、主人公である私立藤ヶ咲高校に通う高校1年生の超優等生・優谷優は、憧れの風紀委員長・水鳥亜鳥の気を引くために不良への道を歩みはじめる。だが、そんな彼女はいきなり暴走族に入って、“不運(ハードラック)”と“踊(ダンス)”っちまったりしないわけである。突飛な設定や展開も、すべてが日常性へと回収されていく。

そうした回収を行ううえで重要なのが「穏やかなギャグ」だ。笑いはときに秩序を破壊する機能をもつが、「ばっどがーる」においてはむしろ笑いによって秩序が成立する。優の非行だけではない。優が亜鳥に思いを寄せることで、幼なじみかつ親友としての親しいポジションを脅かされるのではないかと危惧する涼風涼が亜鳥に向ける軽い嫉妬心(かわいい♡)。動画配信で人気を集め、読モとしても活動する瑠璃葉るらが、亜鳥に夢中な優の眼中に入れないことで味わう屈辱感(こっちもかわいい♡)。人間関係を掻き乱し、決裂ないしはドロドロの青春模様を生み出しかねないそうした感情も含め、すべての言動がギャグへと昇華される。

だがしかし、重要なのは、そのギャグが映像の圧力を過度に高めることがない点だ。ようするに、スラップスティックな展開は起こらない。あくまで映像の波は穏やかで、だが、たしかに笑いはある。思考に空隙を生むナンセンスではない。退屈もしない。この絶妙なさじかげんこそが、「きらら分」の根源だとは言えまいか。

ばっどがーる」を見ても、別にこんなような理路を考える必要はない。もし未見で、ここまでの文章を読んだあとでアニメに触れた人は、「何を言ってたんだアイツ? 大丈夫か?」と思うかもしれない。それでいいのである。というか、そうやって引っかかるところもなく、なめらかに視聴されるように、作り手の技術は注ぎ込まれている。一流ホテルのスープと同じだ。プロのこだわりを意識させず、あくまでスッと飲める澄んだ味わい。

だがそれを実現するのは、至難の技である。何気ないキャラクターのポージング(OPの映像をじっくり見てみよう。「よくある」ようでいて、細やかに定石を外すセンスが光っている)。カット割りや編集のセンス。声の芝居のニュアンス(そもそも優役の橘杏咲を筆頭にキャスティングがいい)。他にも、美点は大量にある。どこを切っても目立った傷がないこうしたアニメをつくりあげるのに、どれだけのセンスが必要か。

傷がないがゆえに、激しくけなされもしないが、贔屓の引き倒し的な、過剰な自己陶酔的な褒め言葉で祭りあげられもおそらくはしない。そういうアニメの価値をきちんと認め続ける必要があると私は考える。だからこそ、こうして贅言(ぜいげん)を弄した次第である。

流行り廃りがどうあろうとも、「きらら分」のありがたみを2000年代・2010年代を通過したオタクは、いつまでも忘れてはいけない。折に触れてこうして、警鐘を鳴らしていきたい。

……って、ホントになんなんだよ、今回のテンション。セルフつっこみ3回目。自分でも謎。あと、冷静に考えたら、「忘れてはいけない」も何も、前回もこの連載は「きらら」作品を取り上げてるじゃんね。

自分のボケ具合に涙しながら、今回は筆を置こうと思います。40度近い異常な暑さが全部悪い。そういうことにしておきたい。普段は真面目ないい子なんです! 悪い子ぶろうとしているだけなんです! 「ばっどがーる」についての文章なんで!

前田 久

前Qの「いいアニメを見に行こう」

[筆者紹介]
前田 久(マエダ ヒサシ)
1982年生。ライター。「電撃萌王」(KADOKAWA)でコラム「俺の萌えキャラ王国」連載中。NHK-FM「三森すずことアニソンパラダイス」レギュラー出演者。

作品情報

ばっどがーる

ばっどがーる 27

鋭い目つきに大きなピアス。そしてド派手なツートンヘアーの高校生 1 年生・優谷優彼女は誰もが道を空ける名の知れた不良娘(ばっどがーる)……ではない。根は超絶良い子である優の頭の中はいつも学園のマ...

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