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特集・コラム 2019年1月30日(水)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】「名探偵コナン」だけでない2018年のヒット作と2019年の行方

(C)2018 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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■「名探偵コナン」10年で興収2倍、15年で3倍
 2018年のアニメ映画最大の話題は、「名探偵コナン ゼロの執行人(しっこうにん) 」の大ヒットだろう。興行収入91.8億円は、前年の「名探偵コナン から紅の恋歌(ラブレター) 」の68.9億円を30パーセント以上超えるシリーズ史上最高だ。10年前の2倍以上、15年前の3倍以上になる。シリーズ開始から20年以上、人気はさらに加速している。
 ヒットの理由は様々に解説されるが、見落とせないのはこうした現象が「名探偵コナン」だけでないことだ。「映画ドラえもん のび太の宝島」も、前年の「のび太の南極カチコチ大冒険」の44.3億円を上回るシリーズ過去最高の53.7億円。12月公開で現在も上映中の「ドラゴンボール超 ブロリー」も38億円を超え、こちらもシリーズ最高が確実だ。
 「ポケットモンスター」や「クレヨンしんちゃん」も堅調で、長寿の人気キャラクターがますます活躍するのが2018年の劇場アニメだった。定番キャラの大人層の取り込み、全年齢化が背景にあると見られる。

そのなかでシリーズ4作目となった「映画 妖怪ウォッチ FOREVER FRIENDS」が、3作連続で興行成績を落とし、伸び悩みが鮮明だ。配給の東宝は、春休みの「ドラえもん」、ゴールデンウィークの「名探偵コナン」、「クレヨンしんちゃん」、夏休みの「ポケモン」と、毎年ハイシーズンに定番映画を上映する戦略をとっている。
 ところが冬休みシーズンは、長年定番が生みだせない。「妖怪ウォッチ」がこれにはまるとの期待もあったが、現在のところ2019年冬休みのこの枠の発表がなく、今後が気になるところだ。

一方で「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ~2人の英雄~」のスマッシュヒットがサプライズとなった。人気のテレビシリーズの初の劇場版だが、興行収入17.2億円は期待以上。年明けには4DX版が新たに公開され、さらに数字を伸ばしている。
 本作の強みは、海外人気の高さだ。原作が「少年ジャンプ」連載でもあり、「ドラゴンボール」「NARUTO」に続く世界タイトルとの声もある。海外戦略も含めて、今後も新作映画が続くとみて間違いない。

■強い定番がますます強くなる劇場アニメ
 定番作品では、東映も好調だった。年2回の劇場公開と他にないプログラムを組む「プリキュア」シリーズは、10月公開の「HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ」が11.5億円と絶好調だ。特撮の「仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER」も、12.8億円の好成績。そして12月公開の「ドラゴンボール超(スーパー) ブロリー」の大ヒットである。
 東映は「ONE PIECE」というスーパータイトルももうひとつ持つ。こちらも近年は50億円クラスが狙えるシリーズだ。ただし「ドラゴンボール」、「ONE PIECE」ともに、数年に1本とじっくり制作している。ビジネス的にはもう少し早いピッチが求められるが、クオリティの維持とのバランスからの判断と考えられる。

■興行ランキングの外側で続出した傑作たち
 定番以外では、テレビアニメを経ずに劇場独自の制作をするオリジナル企画に作家性の強い傑作が輩出した。ただし細田守監督の最新作「未来のミライ」は28億円超のヒット作になったが、オリジナル企画作品は興行ランキングの上位に現れない。
 「さよならの朝に約束の花を飾ろう」は、長年脚本家として活躍してきた岡田麿里の初監督作品。演出も自身がすることで、岡田麿里らしい繊細な心の動きがより鮮明になった。

(C)2018 森見登美彦・KADOKAWA/
ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

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山田尚子監督の「リズと青い鳥」は、テレビや劇場版で展開される「響け!ユーフォニアム」からのスピンオフだ。しかし今回は独立した作品を意識した。思春期の少女の心情が観るものをヒリヒリさせるのだが、それを淡々と描くのが山田尚子ならでは。
 若手では石田康裕監督の「ペンギン・ハイウェイ」がある。森見登美彦の原作の持つ不可解なストーリーとビジュアルを見事に映像として描いた。

興行の口コミの大きさが話題になった「若おかみは小学生!」も、公開直後の数字から大幅に盛り返しているのだが、興行数字は必ずしも大きくない。ここでもオリジナル企画の難しさを感じさせる。
 3本の良作をオムニバスにした「ちいさな英雄 カニとタマゴと透明人間」も、興行は苦戦した。完全オリジナル短編3本で1時間弱は野心的だが、イレギュラーなフォーマットの作品リリースのやりかたに課題を残した。2019年はオリジナル企画をどう観客に届けるかが課題だ。

■「天気の子」新海誠は変わるのか、変らないのか

(C)2019「天気の子」製作委員会

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そうしたなかで7月公開の新海誠監督の「天気の子」が注目される。前作「君の名は。」では、作家性を打ち出すこととで空前の大ヒットを飛ばしているからだ。当たれば大きいと、近年オリジナル企画のアニメ映画が相次ぐ理由でもある。
 当然興行にも大きな期待がかかる。同時に「君の名は。」以後の新海誠がどう変わり、あるいは変わらないのか。それも注目ポイントだろう。

2019年は他にもオリジナル企画が多い。原恵一監督の「バースデー・ワンダーランド」は4月公開。「カラフル」、実写「はじまりのみち」、「百日紅~MissHOKUSAI~」と続いた後に、ファンタジックな異世界での少女の冒険とぐっとエンタテイメント寄せた。もともとファミリー作品を得意とするだけに、先祖返り的な挑戦だ。
 ベテランではヒット作「この世界の片隅に」の尺を伸ばして描き直す片渕須直監督の「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」、前作「夜明け告げるルーのうた」「夜は短し歩けよ乙女」で世界的に名を上げた湯浅政明監督の「きみと、波にのれたら」がある。
 さらに「ソードアートオンライン」で活躍した伊藤智彦監督の「HELLO WORLD」、「天元突破グレンラガン」の今石洋之監督の「プロメア」。ヒット監督が完全オリジナルの劇場長編に挑戦する。2019年は2018年以上に華やかだ。

■ポケモンが大きく変わる「ミュツーの逆襲」、勝負作「ONE PIECE STAMPEDE」
 テレビシリーズを経て映画化される作品も見逃せない。「えいがのおそ松さん」「コードギアス 復活のルルーシュ」「ユーリ!!! On ICE 劇場版:ICE ADOLESCENCE」は、必ずチェックしておきたいところだ。
 「名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)」が引き続き記録を伸ばすのかは、もちろん関心を集めるだろう。さらにシリーズ最大のヒット作をCGでリメイク、さらにタイトルから「ポケットモンスター」を外した「ミュツーの逆襲 EVOLUTION」は隠れた勝負作だ。

東映は3年ぶりの劇場版「ONE PIECE」新作となった「ONE PIECE STAMPEDE」を夏にぶつける。東映の2019年最大の勝負作と言っていいだろう。
 一方で夏シーズンは、「天気の子」「ポケモン」、ディズニー・ピクサーから「トイ・ストーリー4」、さらにワーナー・ブラザース映画も邦画新作映画を用意するなど大作が目白押し。映画ファンはどれに足を向けるか悩みそうだ。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

名探偵コナン ゼロの執行人

名探偵コナン ゼロの執行人 6

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