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特集・コラム 2021年7月22日(木)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】ライバルになるか?変わる中国産アニメ事情

「羅小黒戦記」日本版ポスター

「羅小黒戦記」日本版ポスター

(C) Beijing HMCH Anime Co.,Ltd

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「中国のアニメ、最近すごいですね」
「日本のアニメは中国に抜かれるんですか?」

最近、中国アニメと中国市場について聞かれることが増えている。映画「羅小黒戦記」や「天官賜福」といった中国産2Dアニメが日本進出し、確かな評価を得ていることも理由だろう。
 純粋に中国での2Dアニメ制作の成長に驚愕する人がいる一方で、日本が海外で好調とされるアニメでも中国に抜かれて滅びるんだとセンセーショナルな話題を期待する向きもある。いずれにしろ中国は今や日本アニメの巨大市場であるから、その動向は気になる。日本アニメは中国で、そして世界で生き残ることができるのだろうか?

中国ビジネス全盛期は去ったあと

ビジネス面に限れば、2021年現在、日本アニメは中国で厳しい立場にある。ひと昔前、10年代半ばであれば、中国に番組販売しただけで製作費のかなりが回収できるという話もあった。
 しかし主戦場であった動画配信の厳しい競争でプラットフォームは淘汰され、各社の戦略の違いも明確になった。深夜アニメの買い手はほぼビリビリ動画1社になり、競争がなくなったことで販売価格は下落している。
 さらに今春、行政による配信番組の全話完成後の事前検閲がはじまったことが、業界に驚きを与えた。これまでは配信会社が独自の各話検閲だったものだ。日本のアニメシリーズは放送直前に1話ごとに完成することが多く、新しいシステムでは中国と同時配信できない。実際に21年4月期は日中の同時リリースができない作品が続出した。
 日本アニメのビジネスはグローバル化により、中国に限らず国内と海外の同時展開が不可欠になっている。それは番組購入価格にも影響するからだ。今後は中国の事情に合わせ、日本でも全話制作・完成後にリリースと体制が変わるかもしれない。

問題は仮に全話完成納品で事前検閲をしても、そもそも許諾が下りない可能性があることだ。許諾基準は明文化されておらず、完成後もリスクは避けられない。
 検閲の強化には2つの側面がある。ひとつは海外産よりも自国産を重視したいとの考え。もうひとつは昨今の中国全体の規制強化の潮流にある。であればこうした動きは当分続くだろう。
 リスクの高さから、今後は中国を当初のビジネスプランに組み込まない動きもでそうだ。中国での売上げなしで利益化するビジネスプランを描き、中国で販売できれば追加収入とする考えである。

力をつけるCGアニメーション、手描きはスタート地点

海外からの作品流入が弱まれば、中国のアニメーション制作企業にとって有利になる。しかしそもそも規制とは関係なく、近年中国国内の作品の量や質は高まっている。自国のネット小説などを原作にした国内制作番組は、海外作品よりも中国の視聴者に目を向いているから、今後シェアを伸ばしていくのは間違いない。
 競争力の点では、2D手描きよりもCGアニメーションのパワー増大が顕著だ。「ナタ転生」(19)、「ジャン・ズーヤー:神々の伝説」(20)といったメガヒットも相次いでいる。その圧倒的な映像は、CGの分野で中国が日本より上回っていることはもはや確かだ。ただ日本が技術的に劣るというよりも、大作映画に投下できる資金の差が反映している。CGは手描きアニメに比べると技術の取得期間が短く、グローバルで制作ツールが平準化されているから、投じる人材の数、時間、設備にクオリティが左右されがちなためだ。
 手描きアニメについても、「羅小黒戦記」といった優れた作品が出はじめている。ただ現状では中国映像産業に点で存在し、システムとして作品を多くつくれる状況になっていない。さらに中国の映像産業は、より大きなプロジェクト、利益を生みだしそうなCGに人も資金も向かいがちだ。手描きアニメはビジネスとしての傍流感が拭えない。小さな芽をどこまで育てられるのか不確かだ。
 むしろ現地での原作開発・制作も視野に中国進出する2Dアニメ主流の日本企業にも、今後活躍のチャンスがあるかもしれない。

中国アニメは海外進出可能なのか?

国内で人気を博するのと、それを海外に輸出できるかは別の問題だ。中国がレベルを上げてきたCG分野は、北米、ヨーロッパに多数のライバル企業がある。映像のレベルだけの勝負は正直きつい。プラスアルファが必要とされるが、果敢なテーマや題材といった部分で表現規制の強い中国は不利になる。また巨大な国内市場に最適化された内容が、海外では馴染みにくいこともある。現状で「ナタ転生」、「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」(15)といったヒット作でも海外で実績を残せていない。
 こうした事情は2D手描きアニメでも同様だ。国内固有と思われがちな日本アニメの表現は、長い時間のなかである種のグローバル性を獲得している。何でもありの題材、表現も日本の強みだ。中国産アニメがこれを超えていくのは、多くの人が思う以上にハードルが高い。
 日本側から見ればビジネス的には利益が少なくみえる中国企業の日本への制作発注、アニメ制作会社での日本進出もそこに理由があるのかもじれない。世界展開を目指すステップとして、すでに世界進出している日本という場を活用するというわけだ。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

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