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特集・コラム 2022年11月23日(水)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】「すずめの戸締まり」「ONE PIECE」大ヒットとアニメ映画興行の変化

(C) 2022 「すずめの戸締まり」製作委員会

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2022年のアニメ映画が大変なことになっている。超大型ヒットが相次いでいるのだ。昨年末21年12月25日公開した「劇場版 呪術廻戦 0」が年をまたいで興行収入138億円の大ヒット、今年になって8月6日公開の「ONE PIECE FILM RED」がまた大きなヒットになった。11月20日の段階で興行収入が183.9億円と国内歴代9位となったのだが、現在も上映が続き記録更新中だ。
 さらに11月11日に公開された新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」が公開10日間で41.5億円、最終的な100億円突破はほぼ間違いないとみられる。100億円の大台には届かなかったが、「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」も、97.4億円と過去最高の金額となっている。年間で4作品もの劇場アニメが大きな数字を残すことになる。
 20年の「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」の404.3億円という驚愕の記録、21年の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(102.8億円)もあり、興行収入100億円突破はいまや普通の風景にさえ感じる。
 しかし、10年代以前は100億円の大台を超えた国内アニメ映画は宮崎駿監督の5本の映画に新海監督の「君の名は。」「天気の子」を加えて7本しかない。それも数年に1本あるかないかだ。ちなみに実写の邦画で100億円超えは歴代3作品しかない。つまり100億円クラスの国内アニメ映画が一挙に4本も飛び出す22年は、これまでの常識を超えたことが起きている。

2022年度の劇場アニメのメガヒット作品の興行収入
・「ONE PIECE FILM RED」 183.9億円(上映中)
・「劇場版 呪術廻戦 0」 138億円
・「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」 97.4億円
・「すずめの戸締まり」 41.5億円(初日から10日間・上映中)
*2022年11月20日現在、興行通信社の発表数字を参照

ではなぜ22年にアニメ映画のメガヒットが相次いだのだろう。偶然というよりは、10年代から続くアニメや映画を取り巻く状況の変化の帰結にも見える。その要因はひとつではなく、いくつかの出来事が複合的に絡み合っている。とりわけ大きな動きは次の3つだろう。

1、アニメの大衆化の進展、一般層のアニメへの抵抗がなくなったこと
2、SNSを起点にした雪崩現象的な話題の創出・集中
3、映画興行の仕組みの変化

アニメの大衆化現象は、これまでにもよく言及されている。動画配信の普及やアプリゲームでのアニメビジュアルの露出が進み、それに抵抗がない新しい世代が台頭している。アニメやそのキャラクターのビジュアルへの抵抗感が減ったことで、一般層が映画鑑賞を考える際の作品選択の対象に入ってきたことで話題作の動員を高めている。同時に「ドラゴンボール」や「ONE PIECE」といった定番作品では大人アニメ化が進んだ。
 「名探偵コナン」はそれを象徴する。今年公開された「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」はハロウィン期間中の再上映を含めて、興行収入は97.4億円。1997年から26年続くシリーズで過去最高を記録した。シリーズ興行収入は00年代から10年代前半まで20億円から40億円の範囲を推移した後に16年の「純黒の悪夢」よりいっきに数字を切り上げて、その後はほぼ右肩あがりで、本年の過去最高更新となった。「名探偵コナン」がキッズアニメからハイティーンやヤングアダルトを取り込める大人アニメ化して、デートムービになりうる変化さえあった結果だ。

さらにここ数年で目立つのが、一度ブームに火がつくと雪だるま式にブームが拡大していく雪崩現象である。「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」はそうした傾向が顕著だ。世間の話題についていく、失敗のない映画をみたいとのいう多くの人の気持ちをつかむ。
 そうした行動は古くから口コミとして知られてきたが、今はTwitterをはじめとするSNSがそれを加速化している。映画の感想はSNSを通して伝わり、鑑賞した人数をも可視化する。それを共有する人たちの気持を煽ることになる。こうしたSNS効果は劇場映画に限らない。20年の「鬼滅の刃」のヒットはテレビアニメシリーズから始まっていたし、今年で言えば4月からテレビ放送を開始した「SPY×FAMILY」が弩級のヒットになるなど、近年特に顕著な傾向だ。

さらにこうした短期間で発生した需要を受け入れる劇場興行の仕組みがある。現在映画館興行の中心となっているシネコンは複数のスクリーンを持つ。観客の動向に合わせて、それらの組み合わせを駆使して上映回数やシアターのサイズを機動的に対応する。これが短期間に大量発生したニーズに応える。
 かつての映画上映は現像したフィルムが必要であったため、上映スクリーン数、回数は手元にあるフィルムの本数に制約されていた。これが10年代に入りデジタル上映に変わったことも大きい。短期間の上映数拡大を可能にしたからだ。
 さらに現在は宣伝を多く投下した作品に、公開直後に大きなスクリーン数を割り当てることも増えている。公開当初の大量動員はSNSで一気に拡散され、それ自体が新たな観客を生み出すのだ。“時刻表”とも揶揄される上映回数は観客の先喰いにならず、ヒットはスパイラル的に広がっていく。これが桁外れのヒットが続く仕組みともいえる。
 そうであれば22年に起きた惑星直列のようなヒットの続出は、決して一時期的なことでない。23年、24年に向けてまだまだアニメの大型ヒットが続くことになるはずだ。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

すずめの戸締まり

すずめの戸締まり 5

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