2024年6月1日(土)19:00
【数土直志の「月刊アニメビジネス」】M&Aと新規設立が同時に増加 アニメスタジオの現在
エンタメの大手企業がアニメスタジオを系列化する動きが加速している。この4月にバンダイナムコフィルムワークスは人気アニメ「ブルーロック」などを制作するエイトビットを完全子会社化、5月には新興のつむぎ秋田アニメLabと業務提携を結んだ。同じ5月には映画会社最大手の東宝が、「映像研には手を出すな!」や「犬王」などで知られるサイエンスSARUの子会社化を発表している。
こうした動きは今にはじまったことでない。ここ数年、知名度のあるアニメスタジオが大手企業傘下になる子会社化や出資受け入れ、あるいは提携のニュースはもはや覚えきれないほどだ。
相次ぐM&A(企業の合併・買収)の背景には、映画会社、放送局、ゲーム会社、IT企業がブームの様相をみせているアニメビジネスの参入、強化に動いていることがある。まずはスタジオ機能をもち、実際にアニメをつくることからはじめようというわけだ。自分たちが自由にできる作品がほしいとの思惑もある。
歴史が比較的新しい新規参入組でなく、すでに大きなアニメーション制作能力をもつ企業がさらに制作機能を増強していく流れもある。
前出のバンダイフィルムワークスは、サンライズ時代からアニメーションを制作する自社のラインは大きかった。しかしバンダイナムコグループ内のアニメ事業再編と同時進行で、次々にアニメスタジオをグループ化、出資、業務提携を進める。何かしらのビジネス連携をしているスタジオの数は10近くにもなる。いまやバンダイフィルムワークスの制作力はとてつもない規模になった。自社で膨大な制作リソースを持つ東映アニメーションも、ダンデライオンやTENH ANIMATION MAGICに出資する。大きな制作会社がますます大きくなるというわけだ。
【バンダイナムコフィルムワークスとアニメスタジオ】
[バンダイナムコフィルムワークスのスタジオブランド]
・サンライズ
[吸収合併]
・SUNRISE BEYOND(2024年4月にバンダイナムコフィルムワークスに吸収統合)
[子会社スタジオ]
・バンダイナムコピクチャーズ
・アクタス
・エイトビット
[出資スタジオ]
・サブリメイション
・studioMOTHER
・アニマ
[業務提携]
・つむぎ秋田アニメLab
M&Aが増えるのは、アニメスタジオの数自体が過去10年、20年で急激に増えたことにある。2000年代初頭であれば、アニメ全体を統合して制作できる元請スタジオは数十と言われた。ところが現在は、日本動画協会の調べによると200に迫る勢いだ。
スタジオが増えるのは、既存スタジオのプロデューサーやスタッフが自分たちが中心になって自由な立場で企画や制作をしたいと考えて独立することが多いからだ。そこに昨今のアニメビジネスブームがリンクする。人材不足、制作スタジオ不足もあり、新会社でも実績のあるスタッフがそろえば制作発注がある。
スタジオがグループ化されていくのも、不思議なことに同じ理由だ。つまりは制作会社の不足、スタッフの不足である。より迅速に、より効率的に制作をするためには、グループ内にスタジオをもつことで強力な関係を築きたい。
たとえばKADOKAWAは、こうした方向性をはっきり打ち出している。2024年から28年までの中期経営計画で、アニメ事業の強化、そして制作体制の強化を掲げる。現在、年間5タイトルの内製作品を年間20タイトルに増やすとしている。
「制作クオリティ確保」と「生産性向上」が目的である。企画・製作から制作までを統合することで、より機動的に、権利も含めてアニメに関わるとの狙いだ。
18年設立出資のENGI、19年出資のキネマシトラス、21年のStudio KADANに続き、23年には「交響詩篇エウレカセブン」シリーズの京田知己監督を中心としたレイジングブルを、今年は業界のベテラン経営者・梶田浩司氏を代表取締役にベルノックスフィルムズを立ち上げた。今後のさらなるスタジオ拡大にも意欲的だ。
グループ化される新興スタジオの事情も忘れてならない。プロデューサー、スタッフがある程度集まれば、アニメ制作はできる。ただ会社経営には、営業や資金管理や人材・労務管理などが必要になる。これらを効率的に回すことにより会社は利益をだし、持続して作品をつくり続けることが可能になる。
しかし、新興スタジオはこうした経営のノウハウや人材がぜい弱だ。独立したものの結果として、大きな企業の傘下に入る、あるいは連携することで経営を維持する選択をするのが最近のM&A増加の背景だ。なかには大手企業による経営支援といったケースもあるはずだ。
ただこうした場合でも、プロデュースやスタッフの独立性は比較的維持され、既存のスタジオに全面的に統合することはあまりみられない。ここにはクリエイティブ産業の特殊性がある。工業製品の生産集約、効率化による利益を目指すのとは異なるからだ。
小さな制作チームの密なコミュニケーションが、より豊かなクリエイティブを生み出すことは多い。クリエイティブを維持しながら、制作効率化をも求める。近年の相次ぐスタジオ新設と同時に進行するグループ化、大資本への統合は、このふたつのせめぎ合いのなかから生まれてくる現象なのである。
数土直志の「月刊アニメビジネス」
[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ) ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。
作品情報
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