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特集・コラム 2024年7月27日(土)19:00

【数土直志の「月刊アニメビジネス」】配信時代が引き起こしたリメイクアニメブーム

10月放送の「らんま1/2」キービジュアル

10月放送の「らんま1/2」キービジュアル

(C) 高橋留美子・小学館/「らんま1/2」製作委員会

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■直近には「らんま1/2」「魔法騎士レイアース」「地獄先生ぬ~べ~

最近、かつて人気だったアニメ作品の大型リメイク化が話題を呼んでいる。この7月だけでも「らんま1/2」「魔法騎士レイアース」「地獄先生ぬ~べ~」など、一時代を築いた作品の再アニメ化が相次いで発表されたのが理由だ。
 ただ、かつて人気だった作品の再アニメ化は昔から繰り返されており、決して珍しいものでない。テレビシリーズだけで過去に6回もつくられている「ゲゲゲの鬼太郎」のような例もある。過去の人気にあやかった新シリーズ化は、アニメ製作者の常套手段だ。

【2023年から24年7月にかけてリリース・発表された主要なリメイク作品】

・「るろうに剣心」(1998)
・「うる星やつら」(1986)
・「UFOロボグレンダイザー」(1977)※新作タイトルは「グレンダイザーU
・「らんま1/2」(1992)
・「北斗の拳」(1988)
・「YAIBA」(1994)
・「魔法騎士レイアース」(1995)
・「地獄先生ぬ~べ~」(1997)
※()は旧作テレビシリーズ終了年、OVAや映画は除外

それでもいま大きく話題になるのは、20年から40年以上前の大型タイトルの復活が集中したからかもしれない。ありそうでなかったリメイク、一時代を築いた作品であるがゆえに再アニメ化のハードルは高いと見られることも理由だろう。
 大ヒット作であればあるほど、往年のファンの旧作の絵柄やストーリー、キャスティングされた声優に対するイメージは強固だから、前作の人気や評価を超えるのはなかなか難しい。作品の仕上がり次第では手厳しい評価も受けることもある。今の時代にそれをどう超えるかがニュースやSNSで話題になる。

■「ビデオソフト」→「配信」で起きた変化

しかし、ニュースやSNSで話題になることこそが、その作品がリメイクされる理由でもある。日本アニメの世界的な人気もあり、現在、「クール」と呼ばれる4半期ごとのテレビアニメのスタートには、毎シーズン、大量の新作が登場する。いくら視聴者が増えたと言っても、このなかで新作がファンに覚えられ、人気を維持していくのは大変だ。
 旧作の知名度があるリメイク作品は、それだけで目を惹く。さらにそれが継続的な視聴につながればありがたいというわけだ。

作品の知名度の高さ、往年のファンの視聴が期待できることもあるが、近年のアニメビジネスの構造変化も理由のひとつとみられる。それは2010年代から急進展したアニメ配信の世界的な普及である。シリーズアニメの収益が配信権販売、特に海外向けが中心になっていることである。
 2000年代のアニメビシネスは、DVDやブルーレイといったビデオソフト販売が中心であった。もちろん大きなヒットは期待するが、深夜帯で個性的な作品を放送して、ビデオソフトを購入する数万人のファンがいれば収益化は可能という手堅いビジネスでもあった。そのため新しい企画、オリジナル、先端的な表現の作品が入りこむ余地がある。
 しかし配信プラットフォームにおいては、作品の視聴回数・時間が重視される。結果として、コアファン向けであったとしても、より知名度が高い、大衆性がある作品が好まれる。すでに人気があり、知名度のある人気マンガや小説を原作にする作品が増えている理由でもある。同じ理由で過去に大ヒットした作品のリメイクは、高い知名度と大衆的な人気が期待される。

■日本での評価より世界同時展開のグローバル配信

配信時代のもうひとつの変化は、海外向けのビジネスにある。テレビ放送やビデオソフトで作品が海外流通していた時代、海外の配給会社は日本での放送後、視聴者の反応を見てから作品を購入することが多かった。日本でのファンの反応や時にはビジネスの実績も見ながら買いつける。購入金額も、人気や仕上がった映像のクオリティが反映される。
 しかし現在のグローバルな配信プラットフォームは、日本での放送と連動展開、世界同時配信を目指す。ところが同時配信するには、配信権の購入は日本での放送・配信よりかなり前にしなければいけない。準備期間も含めると数か月以上前だ。新作アニメの海外権利販売の時期が放送後から放送前に大きく移動した。

結果として、各社は“ヒットした作品”を購入するのでなく、“ヒットしそうな作品”を購入する。購入価格も実際のヒットでなく、ヒットするかの期待値で判断される。
 そこで確実にヒットする保証がある作品、あるいは現在人気が集中するジャンルの実績が基準となる。これまで多くのヒット作を生み出した「週刊少年ジャンプ」連載マンガや、人気ジャンルの「異世界もの」などの購入価格が高くなる。
 そうした作品では国内外の放送・配信前のプリセールス(事前販売)の段階で、リクープ(製作費回収)が終わっているケースもある。つまり作品がその後ヒットしてもしなくても、黒字作品となる。
 同じ作品を製作するのであれば、リスクが低く利益確保の可能性が高いほうがよい。アニメ製作・企画でも、そうした作品に目が向きがちだ。

■リメイク作品にとっての成功とは

リメイク作品でも、同じ構図が成り立つ。80年代から90年代は、日本のアニメが世界中のテレビ放送を席巻した時代である。日本で思う以上に海外で知名度高い作品は多い。新作リメイクの大型プロジェクトには、「北斗の拳」「らんま1/2」「魔法騎士レイアース」など海外人気が高かった作品が目立つ。
 こうした作品は、海外向けの配信権、ライセンスが高値で販売できるとの期待が企画段階からあったと想像される。
 1970年代半ばに放送した「UFOロボグレンダイザー」をリメイクした「グレンダイザーU」は、製作決定と同時にサウジアラビア企業のマンガプロダクションズが、グローバル配信と商品ライセンスの獲得を発表している。日本では「マジンガーZ」「グレートマジンガー」に続くシリーズの3作目、途中からのリメイク企画も、本作のヨーロッパや中東での飛び抜けた人気とプリセールスで成り立ったことが分かる。

もちろん国内、海外いずれも往年のファンだけに向けては、ビジネスは大きくならない。そこで「らんま1/2」のようにMAPPAといった若い世代に人気の制作会社を起用、主題歌アーティスト、声優などで現代性を打ち出す。大きな話題になれば、プロモーションも効果を発揮する。
 そうした点で興味深いのは、Netflixで配信される予定の「THE ONE PIECE」だ。スタートは1999年とはいえ、現在も放送が続く長寿シリーズ「ONE PIECE」と同時並行で新たに最初から新シリーズとしてアニメ化する。奇妙な企画にも映るが、これこそが絶対に視聴者に見られる鉄板の作品である。同時にあらためて最初から描くことで、新しいファンのための入口を広げる。
 Netflixにとっては旧シリーズと違って独占タイトルにすることも可能だ。リメイクシリーズは、リスクを抑えながら有力作品を抱えこめる配信会社にとっては魅力的な戦略なのである。

数土 直志

数土直志の「月刊アニメビジネス」

[筆者紹介]
数土 直志(スド タダシ)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。国内外のアニメーションに関する取材・報道・執筆、またアニメーションビジネスの調査・研究をする。2004年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立、16年7月に独立。代表的な仕事は「デジタルコンテンツ白書」アニメーションパート、「アニメ産業レポート」の執筆など。主著に「誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命」(星海社新書)。

作品情報

らんま1/2

らんま1/2 5

早乙女乱馬と、天道道場三女の天道あかねは親が決めた許婚同士。しかし乱馬にはある悩みが…。中国での修行中、伝説の修行場「呪泉郷」に落ちてしまい、水をかぶると女に、お湯をかぶると男に戻るという、不思...

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