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特集・コラム 2018年10月24日(水)20:00

湯浅政明監督、TIFF特集上映で紡がれる足跡 ピンチを切り抜け、最終的に作品を面白くつくりあげる (2)

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――TIFF特集の「自選短編集」には、「さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌」で湯浅監督が演出を手がけた音楽パートもふくまれています。最近刊行された書籍「だれもしらないフシギな世界 ―湯浅政明スケッチワークス―」を読むと、この作品で演出に目覚められたそうですね。

湯浅:亜細亜堂という会社に入り、アニメーターになりたての頃に関わった作品で、いろいろ挑戦させてもらった思い出深い作品です。「わたしの好きな歌」は、原作者のさくらももこさんや、さくらプロの周りのスタッフさんがすごく好意的で、自由にやらせてくれながら、サポートしていただけるような感じがありました。当時の自分は、普通のアニメの作画スタイルではどうも上手くできていない気がしていたので、「わたしの好きな歌」ではコンテを描くところから楽しくて、アニメーションをやっていて、はじめて楽しいと思えた作品でもあります。
 特集上映では、「クレヨンしんちゃん」の「ぶりぶりざえもん」シリーズなど、自分の気に入った仕事をまとめてもらっていますので、ぜひ短編のほうも見てもらえるとうれしいです。

――アニメをつくっていて、どんなときにいちばん楽しいと思われますか。

湯浅:楽しいことは日々変わっていると思いますが、基本的には勉強していろいろなことが分かっていくのが楽しいですね。それをまた次の作品で駆使していくのが面白いですし、ピンチになったときの切り抜け方なんかもいろいろあって(笑)。

――そうなのですか。

湯浅:どんな局面になっても、自分がしっかりしていれば、たぶん上手い切り抜け方があるんですよね。そうやって切り抜けるのが監督の仕事なんだと思っているところがあるので、ピンチを楽しむ習慣がついています。
 アニメーターの頃は、「監督の理想に応えなければ」と自分に課すプレッシャーが強かったのですが、演出になると意外とそれがなくなるんですよね。自分にあまり期待していないので(笑)。今でも自分はアニメーターの側面をもっていますが、やったことがないことには、今でもすごく興味があります。作画はいくら頑張ってもそんなにはもう上がっていかないだろうなというなかで、演出や脚本、お話のつくり方なんかは、やっていくと自分が成長していく実感があります。それはピンチの切り抜け方も同じなんですよ。

――これまでどんなふうにピンチを切り抜けてきたのか、差し支えない範囲で聞かせてください。

湯浅:そうですね……。昔、ある作品に演出として参加したときに自分が成長するきっかけがあって、音楽にあわせて絵をつくっていたのに、編集現場にいったら音楽が違っていたことがありました。そのときの僕は、「話が違う!」とメチャクチャ腹が立って、もう何もできなくなったんです。でも、そのときの監督と編集の方が「まあ、ちょっとでも合わせていこうよ」と作業をはじめていって、そのときも最初は「そんなことをしても何にもならない。ピッタリ合わせていたのに、なんてことをしてくれたんだ」と怒りでいっぱいなままだったんですが、やっていくうちに“らしく”なっていったんですよね。今なら分かりますけど、まったくやらないよりも絶対によくすることをやったほうがいいわけです(笑)。で、やっていけばそのなかからいいアイディアが生まれることもあって、「こっちのほうがよかった」みたいなことも、たまに起こります。
 これまでの仕事のなかで、そういうことがたくさんありました。あのときのように振る舞うことを心がけていくうちに、「監督とは、こうあるべきだな」と思うようになりました。なので、今は何が起こっても、とにかく最短でベストを尽くすように心がけています。

――なるほど。

湯浅:ただ、ピンチを切り抜けるだけでなく、もちろん作品が面白くなければ困ります。そこもふくめて最終的に作品を面白くつくりあげるのが監督だと思うようになりました。ピンチを楽しむことができるようなったのは、その頃からです。過去のあるテレビシリーズのオープニングでも、諸事情でオンエアに間に合わないとなったとき、急きょV編会場でオープニングをでっちあげることになって……こんなこと言っていいのかな(笑)。

――(笑)。そんなふうにつくられていたとは思えないほど、どのオープニングも格好よかった記憶しかないです。

湯浅:そのときも「じゃあ、こうしましょう」と言いながらやっていったら上手いこと繋がって、オープニングらしいものにできました。少なくとも、中途半端なものをだすよりはいい感じになって、意外とできるものなのだなと。これはやっぱり昔の教訓が生きていますね。アニメをつくっていると、そうした局面はたくさんありますが、臨機応変に面白くできたほうがいいなと常々思っています。

――それだけアニメ制作は大変で、アクシデントがつきものなのですね。

湯浅:たくさんの人の手を経てつくられていますから、やりとりのなかで上手くいかないこともあります。「こうしてほしい」のに「こうなっちゃった」みたいな。じゃあ、逆にそれを生かしたら面白くなるのではと、変えることをいとわず、とにかくできあがりがいちばん良くするように手をつくします。曲と絵が合わなかったら絵のほうを変えたり、声が思うようなものでなかったら、それに合わせて芝居を変えてみたり……そんなふうにやっていけば、逆に最初より良くなることもあるだろうし、ベストな答えはひとつだけじゃないんじゃないかと思っています。

アニメハック編集部

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